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AI

【2024年】RAGの評価と効果測定に関する最新事情

RAGシステムの定量的評価方法

RAGシステムの活用効果を定量的に評価することは、その導入価値を明確に示すために非常に重要です。

RAGにとって最も重要な評価対象は検索精度の向上であり、構造化データの整備とLLMからの応答性能ですが、その詳細は別稿に譲るとして、ここでは評価指標全般とその測定方法に関して概観します。

1. 情報検索の精度向上

RAGシステムの核心部分である情報検索の精度を評価するために、適合率(Precision)、再現率(Recall)、そしてこれらを統合したF1スコアを用います。適合率は検索結果の正確性を、再現率は関連情報の網羅性を示します。F1スコアはこれらのバランスを1つの数値で表現します。

例えば、ある技術文書検索システムでは、RAGの導入によりF1スコアが0.65から0.85に向上しました。この改善は、ユーザーがより正確かつ網羅的な情報を迅速に入手できるようになったことを示しています。

※)RAGの検索精度向上に関しては別稿で解説してますのでそちらを参考にしてください。

2. 応答時間の短縮

RAGシステムの導入により、情報検索と回答生成のプロセスが大幅に効率化されることが期待されます。この効果を測定するために、平均応答時間と90パーセンタイル応答時間という2つの指標を用います。

平均応答時間はシステム全体の一般的なパフォーマンスを示し、90パーセンタイル応答時間は極端に遅い応答を把握するのに役立ちます。例えば、ある企業の顧客サポートシステムでは、RAGの導入により平均応答時間が2分から30秒に短縮されました。この大幅な改善は、顧客満足度の向上と運用コストの削減につながる可能性が高いと言えます。

3. ユーザー満足度の改善

RAGシステムの最終的な目標は、ユーザーの満足度を高めることです。この効果を測定するために、Net Promoter Score (NPS)や顧客満足度調査スコアなどの指標を活用します。NPSは、システムを他者に推奨する可能性を数値化したもので、ユーザーのロイヤリティを示す指標として広く使用されています。

例えば、ある企業の社内ナレッジベースシステムでは、RAGの導入によりNPSが20から60に上昇しました。この大幅な改善は、システムがユーザーのニーズを的確に満たし、業務効率の向上に貢献していることを示唆しています。

4. 業務効率の向上

RAGシステムの導入により、様々な業務プロセスの効率化が期待されます。この効果を測定するために、タスク完了時間と処理件数という2つの指標を用います。これらの指標は、直接的に生産性の向上を示すものです。

例えば、ある企業の法務部門では、契約書レビュー作業が1件あたり平均2時間から1時間に短縮されました。この50%の時間削減は、法務部門の処理能力の大幅な向上を意味し、企業全体の業務効率化に大きく貢献すると考えられます。

5. エラー率の低減

RAGシステムの導入により、人為的ミスの減少や情報の一貫性の向上が期待されます。この効果を測定するために、エラー発生率と修正回数という2つの指標を用います。これらの指標は、システムの信頼性と正確性を直接的に反映します。例えば、ある製造業の企業では、製品仕様書作成における誤記や不整合の発生率が15%から3%に減少しました。この大幅な改善は、製品品質の向上と顧客クレームの減少につながる可能性が高いと言えます。

6. コスト削減効果

RAGシステムの導入による経済的効果を測定するために、人件費削減額と運用コストという2つの指標を用います。これらの指標は、システム導入の投資対効果(ROI)を直接的に示すものです。

例えば、ある企業のカスタマーサポート部門では、RAGの導入により年間2000万円の人件費削減が実現しました。この大幅なコスト削減は、企業の収益性向上に直接的に貢献すると同時に、その資金を他の戦略的投資に振り向けることができるという点で、長期的な競争力強化にもつながります。

7. 知識活用度

RAGシステムの重要な目的の一つは、組織内の知識を効果的に活用することです。この効果を測定するために、知識ベースの利用頻度とユニークユーザー数という2つの指標を用います。これらの指標は、システムが組織全体にどの程度浸透し、活用されているかを示します。

例えば、ある企業の社内ナレッジベースでは、RAGの導入により月間アクティブユーザーが500人から2000人に増加しました。この4倍の増加は、システムが組織全体で広く受け入れられ、日常的に活用されていることを示しています。

事例に基づく精度の検証

RAGシステムの精度を客観的かつ実践的に検証するためには、実際の使用環境に即した事例ベースのアプローチが効果的です。以下では、主要な検証方法とその具体的な実施手順について解説します。

 

1. ゴールデンセットの作成と活用

ゴールデンセットとは、専門家が監修した高品質な質問と回答のセットを指します。このセットを用いてRAGシステムの精度を評価することで、システムの性能を客観的に測定することができます。

例えば、ある製品サポート部門では、過去の代表的な問い合わせ100件を選定し、ベテラン担当者の回答をゴールデンセットとして使用しました。

2. ブラインドテストの実施

ブラインドテストは、人間のエキスパートとRAGシステムの回答を並べて提示し、第三者に評価してもらう方法です。このアプローチにより、システムの回答が人間と区別つかないレベルに達しているかを客観的に検証することができます。

例えば、ある企業の法務相談システムでは、弁護士とRAGシステムの回答を並べて提示し、他の法務専門家に評価してもらいました。

3. 実際のユースケースでの検証

RAGシステムの真の価値を評価するためには、実際の業務環境での性能を検証することが不可欠です。

例えば、ある企業の営業部門では、1ヶ月間RAGシステムを試用し、商品情報の検索精度と顧客対応の質を評価しました。

4. エラー分析の実施

RAGシステムの継続的な改善のためには、システムが生成した不正確または不適切な回答を詳細に分析することが重要です。

例えば、ある企業の技術サポートシステムでは、発生した誤回答を詳細に分析した結果、製品の最新アップデートに関する情報が知識ベースに反映されていないケースが多いことが判明しました。

5. 時系列での精度追跡

RAGシステムの性能は、時間の経過とともに変化する可能性があります。この変化を把握し、適切な対応を取るためには、定期的な精度評価が不可欠です。

例えば、ある企業では四半期ごとに標準的な100問のテストを実施し、回答精度の推移を監視しました。

顧客からの評価と反応

RAGシステムの真の価値を理解し、継続的な改善を行うためには、実際のユーザーである顧客からの評価と反応を適切に収集・分析することが極めて重要です。

 

1. 定期的なユーザーサーベイの実施

ユーザーサーベイは、RAGシステムに対する顧客の満足度や意見を直接的に収集する効果的な方法です。

例えば、ある企業では四半期ごとにオンラインアンケートを実施し、ユーザー満足度の推移を追跡しました。

2. インタビュー調査の実施

インタビュー調査は、ユーザーの詳細な意見や洞察を得るための有効な手段です。

例えば、ある企業では各部門のキーユーザーに対して半構造化インタビューを実施し、RAGシステムの業務への影響を評価しました。

3. 使用状況の詳細分析

RAGシステムの実際の使用状況を詳細に分析することで、ユーザーの行動パターンや、システムの強み・弱みを客観的に把握することができます。例えば、ある企業ではダッシュボード機能を通じて、部門別・役職別の利用状況を可視化し、システム採用の広がりを確認しました。

4. フィードバックループの構築

リアルタイムでユーザーの評価を収集するために、システム内に簡単なフィードバック機能を組み込むことが効果的です。

例えば、ある企業のナレッジベースシステムでは、各回答の下に「役立った」「役立たなかった」ボタンを設置しました。

5. ソーシャルリスニングの活用

社内SNSや掲示板などの非公式なコミュニケーションチャネルでのRAGシステムに関する言及を分析することで、公式のフィードバック以外の貴重な意見や評価を収集することができます。

例えば、ある企業では社内チャットツールでのRAGシステムに関する言及を分析しました。

まとめ

RAGシステムの評価と効果測定は、その導入価値を明確に示し、継続的な改善を行うために不可欠です。定量的評価方法として、応答時間の短縮、情報検索の精度向上、ユーザー満足度の改善、業務効率の向上、エラー率の低減、コスト削減効果、知識活用度などの指標を活用します。

また、事例に基づく精度の検証では、ゴールデンセットの活用やブラインドテストの実施、実際のユースケースでの検証が重要です。さらに、顧客からの評価と反応を収集・分析することで、システムの真の価値を理解し、ユーザーニーズに合わせた改善を行うことができます。これらの多角的なアプローチにより、RAGシステムの効果を総合的に評価し、その価値を最大化することが可能となります。

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。