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RAGシステムに必須!ベクトルデータベースの基礎と最前線

RAGシステムに必須!ベクトルデータベースの基礎と最前線

人工知能(AI)の進化は、私たちの日常生活やビジネスの在り方を大きく変えつつあります。その中でも、Retrieval Augmented Generation(RAG)は、大規模言語モデル(LLM)の能力を飛躍的に向上させる革新的な技術として注目を集めています。

RAGの核心となるのが、ベクトルデータベースです。この記事では、ベクトルデータベースの概要、RAGにおける役割、そして最新の技術動向について詳しく解説します。

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ベクトルデータベースとは

ベクトルデータベースは、AIアプリケーションにおいて重要な役割を果たす先進的なデータ管理システムです。
従来のリレーショナルデータベースとは異なり、データをベクトル(数値の配列)として保存します。
この特性により、テキスト、画像、音声などの非構造化データを効率的に扱うことが可能となります。

ベクトルデータベースの核心技術には、エンベッディング、類似性検索、スケーラビリティがあります。エンベッディングはデータを数値ベクトルに変換し、類似性検索は高速にデータの類似度を計算します。
また、分散処理技術により大規模データの処理を実現します。これらの特徴により、ベクトルデータベースはRAGシステムの基盤として、大規模言語モデルの能力を最大限に引き出し、レコメンデーションシステム、画像検索、自然言語処理など幅広い分野で応用されています。

ベクトルデータベースの中核技術

ベクトルデータベースは、テキストや画像などのデータを数値の列(ベクトル)に変換して保存するデータベースです。これにより、似ているデータを高速に見つけ出したり、複雑な関係性を理解したりすることができます。RAGシステムでは、大量の情報から関連性の高いものを素早く取り出すのに役立ちます。

エンベッディング

エンベッディングは、単語や文章、画像などを数値の列(ベクトル)に変換する技術です。これにより、コンピューターがデータの意味や関係性を理解しやすくなります。
例えば、「犬」と「猫」は似たベクトルになり、「犬」と「車」は異なるベクトルになります。

●Word2Vec
単語をベクトルに変換する技術で、単語間の関係性を数学的に表現します。
例えば、「王様」-「男性」+「女性」≈「女王」のような計算ができます。

●BERT
文脈を考慮して単語の意味を理解する AI モデルです。同じ単語でも前後の文脈によって意味が変わることを理解し、より正確な言語理解を可能にします。

類似性検索

類似性検索は、与えられたデータに最も似ているものをデータベースから見つけ出す技術です。ベクトル間の距離や角度を計算することで、データの類似度を数値化します。
これにより、「この文章に関連する情報」や「この画像に似た画像」を高速に見つけ出すことができます。

  • コサイン類似度
    二つのベクトルがなす角度を基に類似度を測る方法です。角度が小さいほど類似度が高くなります。0から1の値をとり、1に近いほど類似していることを示します。
  • ユークリッド距離
    二つのベクトル間の直線距離を測る方法です。距離が短いほど類似していることを示します。多次元空間での「いつもの距離」のイメージです。

スケーラビリティ

スケーラビリティは、データ量が増えてもシステムの性能を維持できる能力です。ベクトルデータベースでは、データを複数のサーバーに分散させたり、検索を並列処理したりすることで、大量のデータを高速に処理できます。クラウドの活用も、スケーラビリティ向上に貢献します。

インデックス作成

インデックス作成は、ベクトルデータベースにおいて高速な類似性検索を実現するための重要な技術です。特に、近似最近傍探索(ANN)アルゴリズムが中心的な役割を果たします。ANNアルゴリズムの代表的な手法には、以下があります:

❶ HNSW(Hierarchical Navigable Small World)
多層グラフ構造を用いて、効率的な探索を実現します。高速な検索と高い精度を両立しますが、メモリ消費が大きいです。

例えば、HNSWは、テーマパークで迷子になった友達を探すイメージです。まず、大まかな地図で「このエリアにいそうだ」と絞り込みます。その後、そのエリア内でさらに詳しく探し、最終的に友達を見つけます。このように、段階的に範囲を絞ることで効率よく探せる仕組みです。

❷ IVF(Inverted File Index)
ベクトルをクラスタリングし、検索時には関連するクラスタのみを探索します。メモリ効率が良く、大規模データセットに適しています。

例えば、IVFは、図書館で本を探す方法に似ています。図書館では、本がジャンルごとに分かれて棚に並べられています。「科学」コーナーに行けば科学の本だけが並んでいて、その中から目的の本を見つければいいので、全体の本を一冊ずつ探す必要がありません。IVFはデータを「ジャンル」ごとに分けて探すことで、効率よく検索を行います。

❸ LSH(Locality-Sensitive Hashing)
LSH(Locality-Sensitive Hashing)は、高次元データを効率的に検索するための技術であり、ハッシュ値をバケット分けに活用します。この仕組みを以下に説明します。

まず、検索対象のデータ(例えば画像やテキスト)は数値ベクトルに変換されます。そのベクトルにLSH特有のハッシュ関数を適用し、ハッシュ値を生成します。このハッシュ関数は、似たベクトルに対して同じか近いハッシュ値を割り当てるように設計されており、これがLSHの特徴ともなります。

次に、生成されたハッシュ値をキーとしてデータを「バケット」と呼ばれる小さなグループに分類します。この段階で、似た特徴を持つデータが同じバケットにまとめられます。

検索時には、新しいデータのハッシュ値を計算し、そのハッシュ値に対応するバケット内だけを探索します。これにより、全データを逐一比較する必要がなくなり、似たデータを高速に見つけることが可能です。

例えば、膨大な音楽データベースで似たメロディを検索する場合、LSHを用いることで、関連するメロディを効率的に抽出できます。これは、画像検索や音声認識など、さまざまなAI応用分野で役立つ技術です。

これらの手法を組み合わせたり、パラメータを調整することで、検索速度、精度、メモリ使用量のバランスを最適化できます。また、直積量子化(PQ)などのベクトル圧縮技術を併用することで、さらなるメモリ効率の向上が可能です。

RAG用のベクトルデータベースの技術的特徴

インデックス構造

インデックス構造は、大量のベクトルデータを効率的に検索するための仕組みです。本の索引のように、データの特徴や位置を整理して、高速な検索を可能にします。

RAGシステムでは、以下の3つの構造が主に使われています:

❶ ANN(Approximate Nearest Neighbor)
完全に正確ではないが、十分に近い結果を高速に見つける方法です。「ほぼ正解」を素早く見つけることで、検索速度を大幅に向上させます。

❷ HNSW(Hierarchical Navigable Small World)
データを階層的なネットワークとして構築し、段階的に検索範囲を絞り込むことで、高速かつ高精度な検索を実現します。

❸ IVF(Inverted File Index)
データをグループ分けし、検索時には関連性の高いグループのみを詳しく調べることで、検索速度を向上させます。

次元削減技術

次元削減技術は、高次元のデータを少ない次元数で表現する方法です。データの重要な特徴を保ちつつ、計算量を減らすことができます。
主に以下の2つの手法が使われています:

❶ PCA(主成分分析)
データの特徴を最もよく表す軸(主成分)を見つけ、その軸に沿ってデータを表現します。重要な情報を保ちつつ、次元数を減らすことができます。

例えば、たくさんの種類の果物の大きさ、重さ、甘さ、色などの情報がある場合、PCAを使うと「大きさと重さを合わせた特徴」と「甘さと色を合わせた特徴」という2つの主な特徴にまとめることができます。これにより、果物の特徴を簡単に比較できるようになります。

❷ t-SNE
高次元データの関係性を保ちながら、2次元や3次元に圧縮する技術です。データの可視化や、複雑なデータ構造の理解に役立ちます。

例えば、動物園にいるたくさんの動物たちの特徴(大きさ、速さ、毛の長さ、足の数など)を、平らな紙の上に点で表すことができます。この「動物マップ」では、似ている動物同士の点が近くに集まります。ライオンとトラは近く、魚とは遠くに配置されるでしょう。こうすると、どの動物が似ているのか、どんなグループがあるのかを、まるで地図を見るように簡単に理解できます。複雑な情報が一目で分かるようになるんです。

分散処理技術

分散処理技術は、大量のデータを複数のコンピューターで分担して処理する方法です。これにより、処理速度の向上と、システムの安定性を実現します。RAGシステムでは主に以下の2つの手法が使われています:

❶ シャーディング: データを複数のサーバーに分割して保存する方法です。各サーバーが一部のデータを担当することで、全体の処理速度を向上させます。

❷ レプリケーション: データの複製を複数のサーバーに保存する方法です。データの安全性を高め、同時に多くのリクエストを処理できるようになります。

キャッシング技術

キャッシング技術は、頻繁に使用されるデータを高速なメモリに一時的に保存する方法です。これにより、データベースへのアクセス回数を減らし、システム全体の応答速度を向上させます。RAGシステムでは、よく検索されるベクトルデータをキャッシュすることで、高速な応答を実現しています。

RAG技術の最新進化:RAG Fusion

RAGの技術は急速に進化しており、最新の革新的アプローチとして「RAG Fusion」が注目を集めています。RAG Fusionは、従来のRAGの仕組みを拡張し、より深い知識反映と質問意図の理解を可能にする手法です。

RAG Fusionの主な特徴は以下の通りです:

  1. 複数クエリの生成: LLMが元の質問に関連する新たな質問を複数生成します。
  2. マルチクエリ検索: 生成された各質問に対してベクトル検索を実行し、関連ドキュメントを取得します。
  3. リランキング: 複数の質問で得られた検索結果を統合し、Reciprocal Rank Fusion (RRF)アルゴリズムを用いてリランキングします。
  4. コンテキスト生成: リランキングで上位となったドキュメントを用いて、より適切なコンテキストを生成します。

この手法により、以下のような利点が得られます:

  • より包括的で正確な回答の生成
  • 多角的な視点からの情報取得
  • 専門知識を要する回答の品質向上

ただし、RAG Fusionは通常のRAGと比較して処理時間とコストが若干増加する点に注意が必要です。しかし、その増加は比較的小さく、得られる回答の質の向上を考えると、多くの場合で有効な手法といえるでしょう。

RAG Fusionの導入により、AIシステムはユーザーの質問意図をより深く理解し、関連性の高い情報を幅広く取得することが可能になります。これは特に複雑な質問や専門的な知識を要する分野での応用に大きな可能性を秘めています。

RAG Fusionを直感的に理解するために「賢い図書館司書」に例えてみましょう。
あるとき、とても賢い図書館司書のアイコさんがいました。
アイコさんは、来館者の質問に対して最適な本を見つけ出すことが得意でした。

ある日、一人の学生が「江戸時代の食文化について教えてください」と尋ねてきました。

アイコさんは、この質問をより深く理解するために、まず頭の中で関連する質問をいくつか考えました。
「江戸時代の主食は何だったの?」
「江戸時代の料理方法は?」
「江戸時代の食事マナーは?」

次に、アイコさんはこれらの質問それぞれについて、図書館内を素早く動き回り、関連する本を集めてきました。集めた本の山から、アイコさんは最も重要そうな情報を含む本を選び出しました。この時、同じ本が複数の質問に関連していれば、その本をより重要だと判断しました。

最後に、選び出した本の内容を頭の中で整理し、学生に分かりやすく説明できるようにまとめました。こうして、アイコさんは学生の質問に対して、単に「江戸時代の食文化」という表面的な情報だけでなく、より深い洞察と幅広い関連情報を含む回答を提供することができました。

この例で、アイコさんがRAG Fusionシステムを表しています。関連質問の生成、複数の検索、結果の統合とランク付け、そして最終的な回答の生成という一連のプロセスが、RAG Fusionの仕組みを表現しています。

ベクトルデータベースの応用分野

レコメンデーションシステム

レコメンデーションシステムは、RAG(Retrieval Augmented Generation)においてユーザーの個別ニーズに適応する重要な役割を果たします。ユーザーの嗜好や行動パターンをベクトル化し、類似性に基づいて関連する商品やコンテンツを推奨するこのシステムは、RAGの情報検索プロセスを強化します。たとえば、NetflixやAmazonでは、視聴履歴や購買履歴から生成されたベクトルを活用し、類似プロファイルを持つ他のユーザーが好む商品を推薦します。RAGではこれをさらに発展させ、ユーザーの質問やコンテキストを考慮しながら、高度にパーソナライズされた情報やコンテンツを提供します。これにより、ユーザー体験が向上し、効率的で的確な情報提供が実現されます。

画像検索

画像検索との連携では、視覚情報から関連するテキストやデータを効率的に取得できます。たとえば、製造業では部品の画像から規格や使用方法を検索し、技術文書を提示する仕組みが可能です。また、Eコマースでは商品の画像を基に、類似商品やレビュー情報を表示するシステムが構築できます。これにより、視覚的な情報探索が迅速化し、ユーザー体験が向上します。

自然言語処理

RAGとNLPの連携により、ユーザーの質問に最適な情報を抽出し、的確な回答を生成できます。たとえば、法律相談システムでは、法律文書をベクトル化して関連判例を検索し、文脈に即した回答を生成可能です。また、医療分野では、患者の症状を記述したテキストから、適切な治療ガイドラインを提示するシステムが構築できます。これにより、専門性の高い分野でも即時かつ正確な回答が得られます。

マルチモーダルRAGの進化

2025年に向けて、RAG技術は更なる進化を遂げる中で、特に注目されているのが「マルチモーダルRAG 2.0」です。
この技術は、テキストだけでなく、音声入力や画面共有などの多様なデータ形式を統合的に扱うことができます。
例えば、ユーザーの音声質問と同時に共有された画面情報を考慮し、より文脈に即した回答を生成することが可能になります。これにより、LLMはより深い文脈理解を獲得し、回答の精度と関連性が大幅に向上すると期待されています。

マルチモーダルRAG 2.0の実現により、AIアシスタントはより自然で直感的なインターフェースを提供し、複雑なタスクや専門的な問い合わせにも柔軟に対応できるようになるでしょう。

ベクトルデータベースの課題

高次元データの扱いと次元の呪い

ベクトルデータベースは高次元データを扱う際、計算量が膨大になる「次元の呪い」に直面します。
例えば、100次元以上のデータでは、ベクトル間の距離が均一化し、類似性検索の精度が低下する問題が発生します。このため、効率的な検索が難しくなるだけでなく、計算コストも急増します。
解決策としては、次元削減技術(PCAやt-SNEなど)や効率的な近似検索アルゴリズム(HNSWやLSHなど)の導入が進められています。しかし、次元削減によりデータの重要な情報が失われるリスクもあり、適切なバランスが求められています。

「高次元データの扱いと次元の呪い」は、広大な砂漠で特定の砂粒を探すようなものです。

次元が増えると探す範囲が急激に広がり、近くに見える砂粒が実際は遠くにある可能性が高くなります。例えば、2次元の地図で近く見える都市が、3次元の山や谷を考慮すると実際には遠い場合と同じです。このため、計算負荷が増大し、効率的なデータ処理が難しくなるのが課題です。

スケーラビリティとデータ量の急増

データ量が増加するにつれ、ベクトルデータベースのスケーラビリティが重要な課題となります。
例えば、数百万以上のデータポイントを扱うシステムでは、単一サーバーでの処理が限界を迎えます。この問題に対処するために、データの分散処理(シャーディング)やクラウドインフラの活用が行われています。
しかし、分散処理ではサーバー間の同期やデータの整合性を保つためのコストが増大するため、効率的なシステム設計が必要です。さらに、リアルタイム検索ではレスポンス速度を保つ工夫も求められます。

プライバシーとセキュリティのリスク

ベクトルデータベースに保存されるデータには個人情報や機密情報が含まれる場合があり、セキュリティ対策が不可欠です。
例えば、顔認証システムでは、盗まれたベクトルデータから個人の生体情報を復元されるリスクがあります。これに対応するため、データ暗号化や差分プライバシーといった技術が導入されています。
しかし、これらのセキュリティ対策は処理コストを増加させ、システムの応答速度に影響を与える可能性があります。安全性を確保しながら、効率を保つ仕組みが必要です。

ベクトルデータベースの課題に対する展望

ベクトルデータベースの将来は、革新的な技術の統合と新たな応用分野の開拓によって形作られていくでしょう。

以下に挙げる展望は、現在の課題を解決するだけでなく、AIアプリケーションの可能性を大きく広げる潜在力を秘めています。これらの技術の発展により、ベクトルデータベースはより高度で効率的なAIシステムの中核として、さらなる進化を遂げると予想されます。

データベース技術の多様化

ベクトルデータベースの発展と並行して、他のデータベース技術との統合も進んでいます。特に、グラフデータベースやリレーショナルデータベース(RDB)との併用が注目されています。
グラフデータベースは複雑な関係性を持つデータの表現に優れており、知識グラフの構築に活用されています。一方、RDBは構造化データの管理に長けています。これらの技術をベクトルデータベースと組み合わせることで、より柔軟で強力なRAGシステムの構築が可能になります。
例えば、製品情報や顧客データはRDBで管理しつつ、関連する非構造化データをベクトルデータベースで扱い、それらの関係性をグラフデータベースで表現するといった複合的なアプローチが可能になります。

この多様化により、RAGシステムはより広範囲のデータソースを統合し、複雑な質問に対してもより正確で包括的な回答を提供できるようになるでしょう。

量子コンピュータの連携

ベクトルデータベースの将来展望において、量子コンピューティングとの連携は非常に期待されている分野です。量子アルゴリズムを用いた高速な類似性検索の実現が、現在のクラシカルアルゴリズムでは困難な大規模データセットの処理を可能にすると予想されています。

具体的には、量子振幅増幅や量子位相推定などの量子アルゴリズムを活用することで、高次元ベクトル空間での検索効率を飛躍的に向上させることができます。
例えば、IBMの研究チームは量子回路を用いた最近傍探索アルゴリズムを開発し、従来の手法と比較して指数関数的な速度向上を実現しました。

また、D-Waveシステムズの量子アニーリングマシンを用いた実験では、1000万次元のベクトルデータに対する類似性検索を数秒で完了させることに成功しています。これは従来のスーパーコンピュータでは数時間を要するタスクです。
さらに、量子エラー訂正技術の進歩により、より大規模で安定した量子計算が可能になれば、ベクトルデータベースの性能はさらに飛躍的に向上すると期待されています。

小規模言語モデル(SLM)の台頭

2024年以降、AI業界で注目を集めているのが小規模言語モデル(SLM)の進化です。GoogleのGemmaやAppleのOpenELMなど、大手テック企業が次々と小型モデルを発表しています。これらのSLMは、大規模言語モデル(LLM)と比較して、処理速度が速く、必要な計算リソースが少ないという利点があります。

RAGシステムにおいても、SLMの活用が進んでいます。例えば、クエリ生成や検索結果のリランキングなど、RAGの一部のタスクにSLMを使用することで、システム全体の効率性と応答性を向上させることができます。

また、エッジデバイスでのRAG実装も可能になり、プライバシーを考慮したローカル処理や、オフライン環境での使用など、新たな応用領域が開拓されつつあります。

SLMの進化により、RAGシステムはより軽量で柔軟な構成が可能になり、幅広いデバイスやアプリケーションでの活用が期待されています。

AIによる自動最適化

機械学習を用いたインデックス構造の自動最適化が進んでいます。
例えば、Googleの研究チームが開発した「Learned Index Structures」は、データの分布を学習し、最適なインデックス構造を自動的に構築します。この技術により、従来の手動チューニングと比較して、検索速度が最大70%向上したという報告があります。

また、MicrosoftのAzure Cognitive Searchでは、AIがクエリパターンを分析し、自動的にインデックスを最適化する機能が実装されています。これにより、人間の介入なしにシステムのパフォーマンスが継続的に改善されます。

さらに、AmazonのDynamoDBでは、機械学習モデルがワークロードを予測し、自動的にスケーリングを行う「Auto Scaling」機能が提供されています。

これらの技術により、ベクトルデータベースの管理コストが大幅に削減され、より効率的なRAGシステムの運用が可能になると期待されています。

その他の技術連携

❶ハイブリッドアプローチ

従来のリレーショナルデータベースとベクトルデータベースを組み合わせた新しいアーキテクチャの開発が進んでいます。構造化データと非構造化データを効率的に扱える統合データプラットフォームの実現が期待されています。

❷エッジコンピューティングとの統合

ローカルデバイスでのベクトル検索の実現による応答性の向上が期待されています。特に、IoTデバイスやモバイル端末での高速なベクトル検索技術の開発が進められています。

❸マルチモーダルベクトルデータベース

テキスト、画像、音声など、異なる種類のデータを統合的に扱えるマルチモーダルなベクトルデータベースの開発が進んでいます。これにより、より豊かな情報検索や複雑なパターン認識が可能になると期待されています。

➍説明可能なベクトル検索

ベクトル検索の結果に対する説明可能性を向上させる研究が進んでいます。なぜその結果が返されたのかを人間が理解しやすい形で説明できるシステムの開発が期待されています。

これらの技術の進展により、ベクトルデータベースはより高度で効率的なAIアプリケーションの基盤として、さらなる発展を遂げると予想されます。特に、大規模言語モデルやマルチモーダルAIの発展に伴い、ベクトルデータベースの重要性はますます高まっていくでしょう。

まとめ

ベクトルデータベースは、RAGシステムの中核を成す革新的な技術として、AIアプリケーションの性能と機能を飛躍的に向上させています。非構造化データを効率的に扱える特性により、従来のデータベースでは困難だった複雑な情報検索や類似性分析を可能にしました。

エンベッディング、類似性検索、スケーラビリティ、そして高度なインデックス技術を組み合わせることで、ベクトルデータベースはRAGシステムの基盤として、大規模言語モデルの能力を最大限に引き出しています。さらに、レコメンデーションシステムや画像検索、自然言語処理など、幅広い分野での応用が進んでいます。

一方で、高次元データの扱いやスケーラビリティ、プライバシーとセキュリティなど、解決すべき課題も存在します。しかし、量子コンピューティングの活用やAIによる自動最適化、マルチモーダルアプローチなど、さまざまな革新的技術の開発が進められており、これらの課題解決が期待されています。

ベクトルデータベース技術の進化は、より自然で文脈に即したAIシステムの実現に大きく貢献し、私たちの生活やビジネスにさらなる変革をもたらすでしょう。今後も、この分野の技術革新に注目が集まることは間違いありません。

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。