アーパボー(ARPABLE)
アープらしいエンジニア、それを称賛する言葉・・・アーパボー(商標登録6601061)
AI

【2024】秋: 業種別・部門別のRAG活用ガイド

RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術は、生成AIの性能を大幅に向上させる手法として、様々な業界で注目を集めています。企業は自社のプライベートデータをAIの出力に組み込むことで、より業務に特化した生成AIの利用が可能となり、多くの分野でRAGを活用した革新的な事例が生まれています。
ここでは、製造、医療、などの業種別、また人事、企画、カスタマーセンターなどの部門別にその導入事例を紹介します。
以下にそれぞれの業種別、部門別、その他の機関(自治体、学校等)のRAGの応用事例を紹介します。

業種別

製造業界におけるRAG活用事例

製造業界では、RAG技術の活用により、業務効率の向上と技術継承の課題解決が進んでいます。具体的な活用例として、CAD図面や手書きメモ、画像などの非テキストデータを含む社内ナレッジの検索や出力が可能になり、製品開発や生産プロセスの最適化に貢献しています。また、熟練工の暗黙知を言語化するチャットボットの開発も進められており、若手技術者への技能伝承をサポートする取り組みも行われています。RAGを活用した製造業向けのソリューションには以下のような例があります。

  1. 生産計画の最適化:過去の販売データや現在の在庫状況をリアルタイムで分析し、需要予測や在庫管理の精度を向上
  2. トラブルシューティング支援:過去の不具合事例や対策方法をデータベース化し、問題発生時に迅速な解決策を提案
  3. 特許調査業務の効率化:関連特許情報を素早く検索・分析し、研究開発の方向性決定をサポート

これらの取り組みにより、製造業界では生産性の向上と技術力の維持・向上が期待されています。

医療業界におけるRAG活用事例

医療分野でのRAG(Retrieval Augmented Generation)導入は、診断精度の向上や医療情報の効率的な活用に大きな可能性をもたらしています。具体的な活用例として、以下のようなものがあります:

  1. 診断支援システム:最新の研究論文や診断ガイドラインをRAGの検索データとして活用し、より正確な診断や適切な治療オプションの提案が可能になっています。
  2. 医療情報の共有:病院、診療所、薬局、介護施設間で患者の医療情報をデータ化して共有・閲覧できるネットワークの構築が進んでおり、より効果的な医療サービスの提供につながっています。
  3. 創薬研究:AIとビッグデータを組み合わせることで、新薬の開発スピードを高め、コストを削減する取り組みが行われています。

これらの取り組みにより、医療の質の向上や医療従事者の負担軽減が期待されています。ただし、個人情報保護の観点から、医療データの利活用には慎重な法整備が必要とされています。

建設業界におけるRAG活用事例

東洋建設は2024年9月3日に、労働災害事例検索システム「K-SAFE東洋 RAG適用 Version」を導入しました。このシステムは以下の特徴を持っています。
  1. 幅広い災害事例の参照:社内災害事例、厚生労働省労働災害データ、日建連災害データ、国交省建設工事事故データベースなどを格納しています。
  2. 社内独自データの検索:「東洋建設災害防止基準」や「安全ルールの見える化」、「成功・失敗事例」などの東洋建設独自のデータが検索可能です。
  3. AIによる回答生成:ChatGPT-4oを搭載した「災害事例ChatGPT」と「東洋安全ChatGPT」が、質問に対してイラスト付きで回答を生成します。

このシステムは以下のように活用されています。

  • 現場での利用:全職員に配布されている業務用iPhone proから、調整会議や朝礼、パトロール時にアクセスし、安全事項のリマインドを行います。
  • 若年層のスキルアップ:過去の事例や安全基準を容易に参照できることで、若手技術者の教育に役立てています。
  • 視覚的な情報共有:過去の社内災害事例を「発生状況図一覧」として画像で確認できるため、職長との打ち合わせや朝礼時の説明で視覚的に情報を共有できます。

このシステムにより、東洋建設は安全衛生管理の徹底と労働災害の未然防止に努めています。

金融業界におけるRAG活用事例

金融業界では、RAG技術を活用した革新的なサービスが次々と登場しています。
  1. 三井住友カードは、コンタクトセンターにRAGを導入し、月間50万件を超える問い合わせに対する回答の自動生成を実現しました。これにより、オペレーターの業務負担が大幅に軽減され、最大60%の時間短縮が期待されています。
  2. 横浜銀行と東日本銀行は、「行内ChatGPT」を導入し、従業員の業務効率化と生産性向上を図っています。このシステムでは、銀行内の業務文書をRAGで学習させることで、より的確な回答を生成しています。
  3. 広島銀行では、RAG技術を活用して社内情報の照会を効率化し、表形式のドキュメントも高精度で回答を自動生成する仕組みを構築しました。

これらの事例は、金融機関がRAGを活用して業務プロセスを最適化し、顧客サービスの質を向上させる取り組みを示しています。

部門別

人事部門

人事部門でもRAG技術の活用が進んでおり、業務効率化と従業員満足度の向上に貢献しています。主な活用事例には以下のようなものがあります:
  1. 募集要項作成支援:過去の募集要項を参照し、企業文化や価値観を反映した質の高い募集要項を短時間で作成できるシステムが導入されています。
  2. 社内規定の問い合わせ対応:就業規則や有給休暇などの社内ルールに関する従業員からの問い合わせに、RAGを活用したチャットボットが24時間対応することで、人事部の業務負担を軽減しています。
  3. 人材育成支援:従業員のスキルデータや業績情報を基に、最適な育成プログラムを提案するシステムが開発されています。

これらの取り組みにより、人事部門の業務効率化だけでなく、従業員の満足度向上や人材の有効活用が促進されています。

企画部門

企画部門におけるRAG技術の導入は、業務効率化と戦略立案の質向上に大きく貢献しています。具体的な事例として以下が挙げられます。
  1. 清水建設株式会社では、全従業員向けに「法人GAI」を導入し、企画部門での活用を推進しています。このシステムにより、調査やアイデア出し、文書生成、要約などの業務が効率化され、戦略立案の迅速化が実現しました。
  2. 株式会社ゆめみは、新入社員のオンボーディング支援にRAGを活用した生成AI環境を構築しました。これにより、企画部門が作成した膨大な社内情報から新入社員が必要な情報に迅速にアクセスでき、セルフオンボーディングをスムーズに進めることが可能になりました。

これらの事例から、RAGの導入により企画部門の情報アクセス性が向上し、戦略立案や新規プロジェクトの推進が加速していることがわかります。

情報システム部門

情報システム部門では、RAG技術を活用してIT運用の効率化と問題解決の迅速化を実現しています。主な活用事例として以下が挙げられます。
  1. インシデント対応の自動化:過去のトラブルシューティング記録や技術文書をRAGのデータベースとして活用し、システム障害発生時に迅速な解決策を提案するAIチャットボットを導入しています。これにより、対応時間の短縮と解決精度の向上が実現されています。
  2. ナレッジマネジメントの強化:社内のIT関連ドキュメントや外部の技術情報をRAGで統合し、従業員が必要な情報に素早くアクセスできるシステムを構築しています。これにより、情報の分散や陳腐化を防ぎ、IT部門全体の知識レベルの向上につながっています。
  3. セキュリティ対策の強化:最新のセキュリティ脅威情報とRAGを組み合わせることで、リアルタイムでの脆弱性評価や対策提案を行うシステムが導入されています。これにより、セキュリティリスクの早期発見と迅速な対応が可能になっています。

品質管理部門

品質管理部門では、RAG技術を活用して製品の品質向上と不良品の早期発見に大きな成果を上げています。主な活用事例として以下が挙げられます:
  1. 画像認識による自動検査:アウディのプレス工場では、AIを用いた画像認識システムを導入し、自動車部品のひび割れを高精度で検知しています。これにより、検査時間が数秒に短縮され、光の当たり具合による誤判定も大幅に減少しました。
  2. 不良品予測:過去の品質データと現在の生産ラインのセンサーデータをRAGで統合分析し、不良品が発生する可能性を予測するシステムが導入されています。これにより、問題が発生する前に予防的な対策を講じることが可能になりました。
  3. マニュアル検索の効率化:製品の品質管理マニュアルや過去の不具合対応記録をRAGのデータベースとして活用し、現場での迅速な問題解決を支援するAIチャットボットが開発されています。これにより、品質管理担当者の業務効率が向上し、対応時間の短縮につながっています。

カスタマーセンター

カスタマーセンターでのRAG技術の導入により、顧客対応の質と効率が大幅に向上しています。主な活用事例として以下が挙げられます:
  1. チャットボットの高度化:LINE WORKS株式会社は、RAGを活用したAIエージェント「AI相談室」を開発し、自社サービスのサポート強化を実現しました。このシステムは、多様な情報源をRAGに登録し、最新のAI技術を採用することで、高精度な回答を生成しています。
  2. 問い合わせ対応の効率化:東京地下鉄株式会社は、年間25万件の問い合わせ業務効率化のため、RAGを活用したチャットボットを導入しています。従来のFAQ応答型の限界を超え、公式WEBサイトの情報も活用することで、より幅広い質問に対応できるようになりました。

これらの取り組みにより、カスタマーセンターの業務効率化だけでなく、顧客満足度の向上も実現されています。RAGの導入により、最新かつ正確な情報に基づいた回答が可能となり、顧客対応の質が飛躍的に向上しています。

その他、機関

自治体RAGの活用例

自治体でのRAG技術の活用は、行政サービスの効率化と質の向上に大きな可能性をもたらしています。
  1. 横須賀市では、コリニア株式会社と協力し、契約締結業務の改善を目的としたRAGを活用した生成AIツールの実証実験を行っています。この取り組みでは、庁内の契約マニュアルや規則を参照し、職員の負担軽減を図っています。
  2. 尼崎市では、公営企業局において生成AIを活用したPoC(概念実証)を実施しています。具体的には、RAG技術を活用した以下のような取り組みが行われています。
  • 庁内の各種資料やデータ(庶務関係手引き、決裁・契約に関する方針、セキュリティ要綱など)を生成AIに読み込ませています。
  • 職員からの内部事務に関する質問に対して、これらの資料を基に精度の高い回答を生成することを目指しています。
  • この取り組みの目的は、職員業務の効率化や生産性の向上です。
  • この実証実験は、自治体でRAGを活用した本格的なPoCとしては全国的にもほぼ前例のない取り組みとされています。

このように、尼崎市は生成AIを活用して、自治体特有の情報を基に職員の業務支援を行う先進的な取り組みを行っています。

 

これらの事例は、自治体業務におけるRAG技術の有効性を示すとともに、今後の行政サービスの革新につながる可能性を示唆しています。

教育現場の活用事例

リアルタイムでのフィードバック提供

RAGを活用することで、生徒の学習進捗をリアルタイムで把握し、即時的なフィードバックを提供することが可能になります。これにより:

  • 生徒は自分の理解度を把握しながら学習を進められるようになります。
  • RAGを使用することにより、生徒の回答内容をAIが分析し、つまずきのポイントを特定して補足説明を自動生成するなど、きめ細かな学習支援が実現できます。

特別支援教育への活用

RAGは特別な支援を必要とする生徒の学習をサポートする上でも有効です。生徒一人ひとりの特性に合わせた学習プランを作成することで、個々のニーズに対応した効果的な支援が可能になります。

最新情報の提供

RAGを搭載した教育用AIは、学生の質問に対して、教科書や学術資料、最新の研究結果から適切な解説や事例を提示することができます。これにより:

  • 常に最新の情報に基づいた学習が可能になります。
  • 教科書の内容を超えた、より深い理解や探究的な学習を促進できます。

以上のように、RAGは教育現場において個別化学習の実現や教師の負担軽減、リアルタイムフィードバックの提供など、様々な形で活用されています。これらの事例は、RAGが教育の質の向上と効率化に大きく貢献する可能性を示しています。

まとめ RAG活用の未来展望

以上のように、RAG技術は、様々な業界で革新的な変化をもたらしています。
製造業での技術継承、医療分野での診断支援、建設業での安全管理、金融業での顧客サービス向上など、RAGの応用範囲は広範囲に及んでいます。
さらに、人事・企画、情報システムなどの企業内部門や、教育現場、自治体でも活用が進んでおり、業務効率化と質の向上に大きく貢献しています。RAGの導入により、以下のような共通のメリットが各分野で見られます。
  • 最新情報の活用による精度向上
  • 業務効率の大幅な改善
  • 専門知識の効果的な継承
  • 個別最適化されたサービスの提供

これらの事例から、RAGは単なる技術革新にとどまらず、組織全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させる重要な要素となっていることが分かります。今後、さらなる技術の進化と応用範囲の拡大が期待され、各業界でのイノベーションを牽引していくでしょう。

株式会社アープでは御社の社内にある独自データをChatベースで簡単に問い合わせることができるRAGシステムの構築をお手伝いしております。コンサルから見積もりを出すまでは無料ですのでお気軽にこちらからお問い合わせください。
https://ragbuddy.jp/

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。