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アープらしいエンジニア、それを称賛する言葉・・・アーパボー(商標登録6601061)
AI

【2024年】RAGのクラウド連携に関する最新事情

RAGのクラウド連携(AWS/Azure編)

RAG(Retrieval-Augmented Generation)システムを既存のクラウドインフラストラクチャや外部データソースと効果的に連携させることは、システムの性能と機能性を大幅に向上させる上で極めて重要です。本章では、主要なクラウドプロバイダーであるAWSとAzureとの統合手法について解説します。

AWSとの統合手法

AWSを活用してRAGシステムを構築する際の主な統合手法は以下の通りです。

1.Amazon Kendra:

Amazon Kendraは、高度な自然言語処理と機械学習を用いた企業向け検索サービスです。RAGのリトリーバーコンポーネントとして利用することで、以下の利点が得られます:

  • 自然言語クエリの高精度な理解と処理
  • 複数のデータソース(S3、RDS、SharePoint等)からの統合検索
  • ドキュメント構造の自動認識と適切なインデックス作成
  • ユーザーのフィードバックに基づく継続的な検索精度の向上

実装例:Kendraのクエリ API を使用して、ユーザーの質問に関連する文書を検索し、その結果をLLMの入力として使用します。

2.Amazon SageMaker:

SageMakerは、機械学習モデルの開発、トレーニング、デプロイメントを一貫して管理できるフルマネージドサービスです。RAGのLLMコンポーネントのホスティングに活用できます。

  • カスタムモデルのトレーニングと最適化
  • 大規模なモデルの効率的なデプロイメント
  • オートスケーリングによる需要変動への対応
  • モデルのバージョン管理と A/B テスティング

実装例:SageMaker Endpointsを使用してLLMをデプロイし、Lambda関数からリアルタイムで推論リクエストを送信します。

3.Amazon S3:

S3は、高い耐久性と可用性を持つオブジェクトストレージサービスです。RAGの知識ベースとして以下のように活用できます。

  • 大量のテキストデータの効率的な保存と管理
  • バージョニング機能による履歴管理
  • ライフサイクルポリシーによる自動的なデータ管理
  • セキュアなアクセス制御

実装例:S3にテキストファイルやPDFを保存し、Lambda関数を使用して定期的にこれらのドキュメントを処理し、ベクトルデータベースに登録します。

4.Amazon Comprehend:

Comprehendは、テキストデータから洞察を抽出するための自然言語処理サービスです。RAGシステムにおいて以下のタスクを支援します。

  • エンティティ認識と関係抽出
  • センチメント分析とキーフレーズ抽出
  • カスタム分類モデルの構築

実装例:Comprehendを使用して入力テキストを分析し、抽出されたエンティティや関係情報をLLMの入力に追加することで、より文脈に即した回答生成を実現します。

5.AWS Lambda:

Lambdaは、サーバーレスでコードを実行できるコンピューティングサービスです。RAGシステムにおいて以下のように活用できます。

  • イベントドリブンな処理の実装
  • マイクロサービスアーキテクチャの構築
  • コスト効率の高いスケーリング

実装例:ユーザーからのクエリ受付、Kendraでの検索、LLMでの回答生成など、RAGの各ステップをLambda関数として実装し、API Gatewayと連携させてRESTful APIを構築します。

6.Amazon DynamoDB:

DynamoDBは、高速で柔軟性の高いNoSQLデータベースサービスです。RAGシステムにおいて以下のように活用できます。

  • セッション情報の管理
  • キャッシュデータの保存
  • 高速な読み書き操作が必要なメタデータの管理

実装例:ユーザーのクエリ履歴やLLMの中間生成結果をDynamoDBに保存し、後続のクエリ処理の効率化やパーソナライゼーションに活用します。

これらのAWSサービスを適切に組み合わせることで、スケーラブルで高性能なRAGシステムを構築できます。例えば、S3に保存されたドキュメントをLambda関数で定期的に処理し、Kendraのインデックスを更新。ユーザーからのクエリはAPI Gateway経由でLambda関数に送信され、Kendraで関連ドキュメントを検索後、SageMakerでホストされたLLMで回答を生成。この過程でComprehendを使用してクエリの意図を分析し、DynamoDBでユーザーセッション情報を管理するといった具合です。

Azureとの統合手法

Microsoft Azureを活用してRAGシステムを構築する際の主な統合手法は以下の通りです。

1.Azure Cognitive Search:

Azure Cognitive Searchは、AWSのKendraに相当する高度な検索サービスです。RAGのリトリーバーコンポーネントとして以下の機能を提供します。

  • AI-powered検索機能による自然言語クエリの処理
  • 多様なデータソースからのインデックス作成
  • セマンティック検索によるより関連性の高い結果の提供
  • カスタムスキルセットによる検索プロセスのカスタマイズ

実装例:Cognitive SearchのRESTful APIを使用して、ユーザーのクエリに関連するドキュメントを検索し、その結果をLLMの入力として使用します。

2.Azure Machine Learning:

Azure Machine Learningは、機械学習モデルの開発、トレーニング、デプロイメントを管理するサービスです。RAGのLLMコンポーネントのホスティングに活用できます。

  • 分散トレーニングによる大規模モデルの効率的な学習
  • モデルの自動最適化とハイパーパラメータチューニング
  • コンテナ化されたモデルのデプロイメントと管理
  • モデルの説明可能性とフェアネスの評価

実装例:Azure Machine Learningを使用してLLMをデプロイし、Azure FunctionsからHTTPエンドポイントを介して推論リクエストを送信します。

3.Azure Blob Storage:

Blob Storageは、大量の非構造化データを保存するためのオブジェクトストレージサービスです。RAGの知識ベースとして以下のように活用できます。

  • 大容量のテキストデータやドキュメントの効率的な保存
  • ホットとクールの階層型ストレージによるコスト最適化
  • イミュータブルストレージポリシーによるデータの完全性保護

実装例:Blob Storageにドキュメントを保存し、Azure Functionsを使用して定期的にこれらのドキュメントを処理し、ベクトルデータベースに登録します。

4.Azure Cognitive Services:

Cognitive Servicesは、テキスト、画像、音声などのデータを分析するためのAIサービス群です。RAGシステムにおいて以下のように活用できます。

  • Text Analytics APIによるセンチメント分析やキーフレーズ抽出
  • Language Understanding (LUIS) によるユーザーの意図理解
  • Translator APIによる多言語対応

実装例:Cognitive ServicesのText Analytics APIを使用して入力テキストを分析し、抽出されたインサイトをLLMの入力に追加することで、より文脈に即した回答生成を実現します。

5.Azure Functions:

Azure Functionsは、イベントドリブンでサーバーレスのコンピューティングを提供します。RAGシステムにおいて以下のように活用できます。

  • イベントトリガーによる自動処理の実装
  • マイクロサービスアーキテクチャの構築
  • 従量課金制による柔軟なスケーリングとコスト最適化

実装例:ユーザーからのクエリ受付、Cognitive Searchでの検索、LLMでの回答生成など、RAGの各ステップをAzure Functionsとして実装し、API Managementと連携させてRESTful APIを構築します。

6.Azure Cosmos DB:

Cosmos DBは、グローバル分散型のマルチモデルデータベースサービスです。RAGシステムにおいて以下のように活用できます。

  • 低レイテンシでの読み書き操作
  • 自動スケーリングと地理的レプリケーション
  • 複数のAPIモデル(SQL、MongoDB、Cassandra等)のサポート

実装例:ユーザーのクエリ履歴やLLMの中間生成結果をCosmos DBに保存し、後続のクエリ処理の効率化やパーソナライゼーションに活用します。

Azureの様々なサービスを組み合わせることで、効率的で拡張性の高いRAGシステムを構築できます。具体的な流れは以下のとおりです。

  1. データ保存:Blob Storageにドキュメントを保存
  2. データ処理:Azure Functionsで定期的にドキュメントを処理
  3. 検索準備:Cognitive Searchのインデックスを更新
  4. クエリ受付:API Management経由でユーザーからのクエリを受信
  5. 情報検索:Cognitive Searchで関連ドキュメントを検索
  6. 回答生成:Azure Machine LearningのLLMで回答を作成
  7. クエリ分析:Cognitive ServicesのText Analytics APIでクエリの意図を理解
  8. セッション管理:Cosmos DBでユーザー情報を管理

このように、各サービスの強みを活かしてRAGシステムの機能を実現します。

まとめ

本ブログでは、RAGシステムと既存のクラウドインフラストラクチャ、特にAWSとAzureとの効果的な連携方法について詳細に解説しました。
両プラットフォームは、RAGシステムの構築に必要な様々なサービスを提供しています。AWSではAmazon Kendra、SageMaker、S3、Comprehend、Lambda、DynamoDBなどが、AzureではCognitive Search、Machine Learning、Blob Storage、Cognitive Services、Functions、Cosmos DBなどが主要な役割を果たします。

これらのサービスを適切に組み合わせることで、高度な検索機能、効率的なモデルのデプロイ、大容量データの管理、自然言語処理、サーバーレスコンピューティング、高速データベース操作などが実現可能となります。
RAGシステムの実装においては、データの保存、処理、検索、クエリ処理、回答生成、分析、セッション管理など、各段階で最適なサービスを選択し、統合することが重要です。

これにより、スケーラブルで高性能なシステムを構築できます。クラウドサービスの活用は、RAGシステムの性能と機能性を大幅に向上させる鍵となります。
ただし、適切な設計と実装が不可欠であり、セキュリティやコスト管理にも十分な注意を払う必要があります。

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。