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RAGの精度を向上させるチャンク分割最適化手法

RAGの精度を向上させるチャンク分割最適化手法とは

検索拡張生成(RAG)システムの性能向上において、チャンク化の最適化は重要な役割を果たします。適切なチャンクサイズや分割方法を選択することで、関連情報の検索精度が向上し、より正確な回答生成が可能になります。

センテンス分割の最適化

センテンスエンベディングをチャンク化に使用することで、文章の意味的なまとまりを保持しつつ効果的な分割が可能になります。この手法の主な利点は以下の通りです。
  • 意味的一貫性の維持: センテンスエンベディングは文の意味を数値ベクトルで表現するため、類似した意味を持つ文章をグループ化できます。これにより、チャンク内の情報の一貫性が高まり、検索精度が向上します。
  • トピックの移行点の特定: センテンスエンベディング間の類似度を計算することで、文書内のトピックの変化を検出し、適切なチャンク境界を決定できます。これにより、各チャンクが単一のトピックを扱うようになり、検索結果の関連性が向上します。
  • 柔軟なチャンクサイズ: 固定長のチャンク化とは異なり、センテンスエンベディングを用いることで、文脈に応じて動的にチャンクサイズを調整できます。これにより、重要な情報が分断されるリスクを軽減し、より自然な分割が可能になります。

この手法を用いることで、RAGシステムの性能向上と、より適切な情報検索が実現できます。

センテンスエンベディングの応用

 センテンスエンベディングは、自然言語処理の様々なタスクで幅広く応用されています。主な用途には以下のようなものがあります。
  • セマンティック検索: 意味に基づいた文章の検索が可能になり、キーワードマッチングを超えた高度な情報検索を実現できます。
  • 文書分類・クラスタリング: 文章の意味的な類似性に基づいて、効率的な分類やグルーピングが可能になります。
  • レコメンデーションシステム: ユーザーの嗜好や行動履歴を文章ベクトルで表現することで、より精度の高い推薦が可能になります。
  • 質問応答システム: 質問と回答候補の意味的な類似度を計算することで、適切な回答を選択できます。

これらの応用により、情報検索の高度化や自然言語理解の向上など、様々な分野でセンテンスエンベディングの活用が進んでいます。

RAPTORによるチャンクグループ化

RAPTORは、RAGシステムの性能を向上させるための新しいアプローチです。この手法では、チャンクを意味的に近いグループにクラスタリングし、各グループの要約を生成します。このプロセスを再帰的に適用することで、文書の階層的な表現を作成します。主な特徴は以下の通りです:
  • チャンクが複数のグループに所属可能で、複数のトピックを含むチャンクの情報を保持できます
  • Gaussian Mixture Models (GMMs)とUMAPを使用して効果的なクラスタリングを行います
  • LLMを使用してグループの要約を生成し、より広範な文脈を捉えます
  • 階層構造を利用した効率的な検索方法(tree traversalとcollapsed tree)を提供します

RAPTORは、従来のチャンク化手法と比較して、より適切な検索結果を提供し、RAGシステムの精度向上に貢献します。

RAPTORの数理モデル

RAPTORは、数理的思考を活用して複雑な文書構造を効率的に扱う手法です。その核心は、グラフ理論と確率モデルを組み合わせた階層的クラスタリングにあります。
  • チャンクのグループ化:各チャンクをベクトル空間上の点として表現し、ガウス混合モデルGaussian Mixture Models (GMMs)を用いて確率的にクラスタリングします。これにより、チャンクが複数のグループに属する可能性を考慮できます。
  • 階層構造の構築:グループ化と要約生成を再帰的に適用し、文書全体をツリー構造として表現します。この過程は、数学的には有向非巡回グラフ(DAG)の生成と解釈できます。
  • 検索アルゴリズム:tree traversalとcollapsed treeの2つの戦略は、グラフ探索アルゴリズムの応用です。これらは、情報検索の効率と精度のトレードオフを数理的に最適化しています。

RAPTORの手法は、数理工学の特徴である「抽象的な数学モデルに基づく普遍的な方法」を体現しており、様々な分野の文書処理に応用可能な汎用性を持っています。

ガウス混合モデルの概要

ガウス混合モデルは、複数のガウス分布を組み合わせてデータの確率分布を表現する統計モデルです。このモデルは、クラスタリングや密度推定などの教師なし学習タスクに広く使用されています。
GMMの主な特徴:
  • 複数のガウス分布の線形結合で表現されるため、複雑な分布形状を柔軟に近似できます
  • 各データポイントが複数のクラスタに属する確率を計算できるため、ソフトクラスタリングが可能です
  • 期待最大化(EM)アルゴリズムを用いてモデルパラメータを推定します
  • クラスタ数の自動決定にベイズ情報量規準(BIC)などの情報量基準を利用できます

GMMは、データマイニング、パターン認識、機械学習など幅広い分野で応用されており、特に楕円形に分布するデータのクラスタリングに適しています。

ガウス混合モデルの数理的基礎

 有向非巡回グラフ(DAG)は、閉路を持たない有向グラフであり、数学的に以下のように定義されます:
  • 頂点の集合Vと有向辺の集合EからなるグラフG = (V, E)
  • 任意の頂点v ∈ Vに対して、vから出発してvに戻る有向パスが存在しない

DAGの主な数学的性質:

  • トポロジカルソートが可能: 全ての辺(u, v)に対してuがvより前に来るように頂点を一列に並べられる
  • 半順序集合との対応: DAGの到達可能性関係は半順序を構成する
  • 動的計画法への応用: DAGの構造を利用して効率的なアルゴリズムを設計できる

DAGは因果関係のモデリング、タスクスケジューリング、依存関係の表現など、様々な分野で応用されています。特に、確率変数間の条件付き独立性を表現するベイジアンネットワークの基礎となる重要な概念です。

ハイブリッド検索の活用

ハイブリッド検索は、複数の検索手法を組み合わせることで検索精度を向上させる手法です。主にベクトル検索とキーワード検索を組み合わせて使用されます。この手法の主な利点は以下の通りです:
  • セマンティックな関連性と完全一致の両方を考慮した検索が可能
  • 人名、製品名、略語などの特定の検索に強い
  • 短い文字列や低頻度語のマッチングに優れている

ハイブリッド検索の実装には、LangChainのEnsembleRetrieverなどのツールが利用できます。ただし、単純に検索手法を組み合わせるだけでは必ずしも性能が向上するわけではないため、各検索手法の性能を個別に改善することが重要です。

まとめ

この記事では、検索拡張生成(RAG)システムの性能向上におけるチャンク化の最適化と、その中心的な技術であるRAPTORについて掘り下げました。センテンスエンベディングの進歩は、意味的な検索や文書の自動分類など、多岐にわたる応用を可能にしています。特にRAPTORは、チャンクを意味的に近いグループにクラスタリングし、情報の精度と検索効率を大幅に向上させることができます。

RAPTORの導入による効果は計り知れず、検索システムの進化に新たな地平を開きました。ガウス混合モデル(GMM)と階層的クラスタリングを用いたアプローチは、情報の適切なグループ化と効率的な検索アルゴリズムの実現に不可欠です。これにより、RAGシステムは、よりリッチでユーザー中心の検索経験を提供することが可能となります。

最後に、技術の進展は止まることなく、常に最適な方法を求める試みが求められます。RAPTORのような革新的な手法は、今後の情報検索技術の方向性を示すものであり、継続的な研究と改良が求められています。この技術のさらなる進化に期待し、その影響を業界全体で見守ることが重要です。

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以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。