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RAGの検索精度を爆上げ!ベクトルデータベースをたとえ話で簡単解説

RAGの検索精度を爆上げ!ベクトルデータベースをたとえ話で簡単解説

Retrieval-Augmented Generation(RAG)は、検索エンジンと生成AIを組み合わせ、高度な情報検索と応答生成を行う技術です。その精度を支える重要な基盤技術の一つがベクトルデータベースです。

ベクトルデータベースは、テキストや画像、音声などのデータを数値(ベクトル)の集合として保存し、意味の類似性に基づいた検索を可能にします。
本記事では、RAGにおけるベクトルデータベースの役割と主要なデータベースの特徴を解説します。

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RAGにおけるベクトルデータベースの位置づけ

RAGシステムのアーキテクチャでは、ベクトルデータベースは情報検索の中核を担います。
ユーザーが入力したクエリに対し、まずベクトル検索が行われ、関連する文書を取得した後、大規模言語モデル(LLM)が応答を生成します。

例え:
この流れをレストランのオーダーに例えると、ベクトルデータベースはシェフが料理のために最適な食材を迅速に取り出す「食材管理システム」に相当します。適切なデータが選ばれなければ、どれだけ優れたシェフ(LLM)でもおいしい料理(回答)を作ることはできません。

ベクトルデータベースとは?

従来のデータベースがキーワード検索を基本としているのに対し、ベクトルデータベースは意味の近いデータを検索できる点が特徴です。

後述しますが例えば、通常のデータベースでは「AI」という単語を含むデータのみを検索しますが、ベクトルデータベースでは「機械学習」や「ディープラーニング」など、意味的に近い情報を提供できます。

RAGにおけるベクトルデータベースの重要性

1. 適切な情報提供(Relevant Data Retrieval)

解説:
RAGシステムは、LLMが適切な回答を生成するために、意味的に関連する情報を検索する必要があります。ベクトルデータベースは、膨大なデータの中から文脈に適した情報を迅速に取得し、LLMに提供することで、精度の高い応答を実現します。

例え:
料理人が最高の料理を作るには、質の良い食材が必要です。ベクトルデータベースは、シェフ(LLM)に最適な食材(情報)を素早く提供する食材庫のような役割を果たします。

2. 高速でスケーラブルな検索(Scalability & Speed)

解説:
ベクトルデータベースは、大規模なデータセットに対して高速な類似検索を可能にします。特に企業がリアルタイムに情報を取得する必要がある場合、検索のスピードとスケーラビリティが重要な要素となります。従来のデータベースでは処理が困難な膨大なベクトルデータも、ベクトルデータベースなら効率的に管理できます。

例え:
レストランが多くのオーダーを素早く処理するためには、整理されたキッチンと効率的なシステムが必要です。ベクトルデータベースは、注文を整理し、最適な調理プロセスを選択する厨房のオペレーションのようなものです。

3. 精度の向上とノイズ除去(Accuracy & Noise Reduction)

解説:
キーワード検索では、関係のない結果が大量に含まれることがありますが、ベクトル検索では意味的に近い情報のみを取得できます。これにより、不要なノイズを排除し、より関連性の高い情報をユーザーに提供することが可能になります。

例え:
カフェで「甘くない飲み物が欲しい」と注文したとき、店員が「砂糖なしのコーヒー」だけでなく「緑茶」や「無糖紅茶」などの選択肢を提案するイメージです。ベクトルデータベースは、ただ除外するのではなく、適切な代替案を提示する役割を果たします。

ベクトルデータベースの検索原理

ベクトル検索では、単なる単語の一致ではなく、意味が近いものを検索できます。例えば、「AIとは何か?」という検索に対して、「AI」という単語を含む文書だけでなく、「機械学習」や「ディープラーニング」などの関連情報も検索結果に含まれます。

ベクトル表現の例

表:各単語をベクトル化した様子
単語 ベクトル表現
AI [0.9, 0.1, 0.0, 0.3, 0.2]
機械学習 [0.8, 0.2, 0.1, 0.4, 0.3]
ディープラーニング [0.7, 0.3, 0.2, 0.5, 0.4]
ロボット [0.6, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5]
データ分析 [0.4, 0.5, 0.6, 0.3, 0.2]

このベクトル空間で「AI」と検索すると、「AI」と「機械学習」や「ディープラーニング」のベクトルの距離が近いため、検索対象と判定されます。
一方、「AI」と「データ分析」のベクトルの距離は遠いため、関連性が低い情報として対象から外れます。

このように、ベクトルデータベースは情報の意味を考慮した検索を可能にし、RAGシステムにおいて重要な役割を果たします。適切なデータの取得は、検索精度を向上させるだけでなく、ユーザーの意図をより正確に捉えることに寄与します。

次に、主要なベクトルデータベースの具体的な特徴を見ていきましょう。

主要なベクトルデータベースとその特徴

FAISS(Facebook AI Similarity Search)

概要:
FAISSはMeta(旧Facebook)が開発したオープンソースの高速類似検索ライブラリです。特に高次元ベクトルデータの処理に優れ、大規模データセットに対応可能です。
主な特徴:
大量データを効率的にベクトル化し、高速検索を実現。
・クラスタリング機能も備えており、データの階層化が可能。
RAGでの位置づけ:
RAGの情報検索において、大量のデータソースから最も関連性の高い情報を即座に取得するために使用されます。
提供元:Meta(Facebook)
料金: 無料(オープンソース)

例え: 図書館の検索システムとして、膨大な本の中から内容の類似性を基に瞬時に関連書籍を検索できる仕組み。

Weaviate

概要:
Weaviateはオープンソースのベクトルデータベースで、リアルタイムのデータ更新が可能な点が特徴です。クラウド環境や分散処理にも対応しています。
主な特徴:
・リアルタイムでのデータ更新が可能。
・スケーラブルなクラウド対応、柔軟なデータ管理が可能。
RAGでの位置づけ:
動的なデータ(ニュース、SNS、商品情報など)をリアルタイムに反映させる用途に適しています。
提供元:SeMI Technologies
料金: 無料(オープンソース)+ 商用プランあり

例え: ネット書店の検索システムとして、トレンドや売れ筋をリアルタイムで反映し、人気の本や特集に応じた検索結果を提供する仕組み。

ChromaDB

概要:
ChromaDBはシンプルで軽量なベクトルデータベースで、RAGシステムのバックエンドとして容易に統合できます。小規模なプロジェクトやスタートアップ向けの設計が特徴です。
主な特徴:
・設定が簡単で、導入しやすい。
・小規模なプロジェクトや開発初期段階での使用に適しており、柔軟な統合が可能。
RAGでの位置づけ:
軽量なRAGアプリケーションのデータストレージとして活用され、簡単なセットアップで迅速に運用可能。
提供元:
Chroma
料金: 無料(オープンソース)

例え: 自宅の本棚をデジタル化し、所有する書籍の内容の類似性を基に、関連する本を簡単に見つけられる仕組み。

Milvus

概要:
Milvusは、大規模データ処理に特化したオープンソースのベクトルデータベースで、AIと機械学習の検索ワークロードを効率化するために設計されています。スケーラブルな分散型アーキテクチャを持ち、クラウド環境やオンプレミスでも柔軟に運用可能です。
特に、高スループットなベクトル検索を実現することで、リアルタイムな情報検索を求める企業に最適な選択肢となっています。
主な特徴:
・分散型アーキテクチャにより、大規模データに対応。
・Kubernetesを活用し、クラウドネイティブな運用が可能。
RAGでの位置づけ:
膨大なデータ量を扱うエンタープライズ向けのRAGシステムに適用。
提供元: Zilliz
料金: 無料(オープンソース)+ 商用プランあり

例え: 大学の論文データベースのように、膨大な論文の中から類似する研究を瞬時に検索。

Pinecone

概要:
Pineconeは、クラウドネイティブな設計を特徴とするベクトルデータベースで、スケーラビリティとパフォーマンスを重視したリアルタイム検索を提供します。インデックス管理が不要で、複雑なインフラ構築をせずに高速な類似検索を実行できる点が大きな強みです。特に、SaaS型の運用に最適化されており、AIを活用した検索・レコメンドシステムの構築に適しています。
主な特徴:
・高速なスケーラブル検索。
・クラウド上での簡単な統合と管理が可能。
RAGでの位置づけ:
クラウド環境での動作を前提とし、即座にスケールアップが必要なシナリオに適しています。
提供元:Pinecone Systems
料金: 商用プランあり(無料枠あり)

例え: Amazonのレコメンデーションシステムのように、ユーザーの好みに応じた最適な商品を提示。

まとめ

本記事では、RAGシステムにおけるベクトルデータベースの役割や検索原理、主要なデータベースについて解説しました。ベクトル検索は従来のキーワード検索を超え、意味の類似性に基づいた情報取得を可能にします。FAISS、Weaviate、ChromaDB、Milvus、Pineconeなど、それぞれ特性の異なるデータベースがあり、用途に応じた選択が求められます。

現状の課題として、スケーラビリティや計算コスト、リアルタイム検索の最適化が挙げられます。今後はより高速で効率的な検索アルゴリズムの開発や、ハイブリッド検索の導入が進み、RAGの適用範囲がさらに広がるでしょう。

ベクトルデータベースの進化と共に、RAGの検索精度も向上し、より精度の高い情報提供が可能になります。適切なデータベース選択と運用が、RAGシステムの成功を左右する鍵となるでしょう。

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。