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人工知能

RPAは“食われる”のか? 経営者が知るべき自律型AI革命

RPAは“食われる”のか?
経営者が知るべき自律型AI革命

従来のRPAには一定の限界があり、新しいアプローチが求められています。

序論:あなたの会社の「自動化」、本当に“今のまま”でいいですか?

「定型業務を自動化し、特定業務において30-70%の作業時間短縮を実現する」――。数年前、RPA(Robotic Process Automation)は、多くの企業にとって輝かしい未来を約束するソリューションでした。しかし、生成AIがビジネスのあらゆる場面に浸透した2025年現在、私たちは問い直さなければなりません。

「あなたの会社では、まだ“指示待ち”のロボットを使い続けますか?」

本記事は、従来のRPAが直面している「限界」を明らかにし、それを乗り越える「自律型AI」という新しい波が、いかにビジネスの常識を根底から覆すかを解説します。これは単なるツールの世代交代ではありません。業務自動化の思想そのものをアップデートし、競争優位性を築くための経営戦略です。

旧来の自動化にしがみつくか、次世代の波に乗るか。この記事を読み終えた時、その答えは明確になっているはずです。

第1章:RPAが直面する3つの致命的限界とは?

RPAが多くの企業でコスト削減に貢献した事実は揺るぎません。しかし、その輝きの裏で、多くの現場担当者や経営者が共通の「痛み」を感じ始めています。

問題点1:あまりにも「脆い(もろい)」

RPAは、事前に定義されたルールベースのワークフローに従い、アプリケーションのユーザーインターフェースを通じて人間の操作を模倣する自動化技術です。例えるなら、決められた地図だけを頼りに進む「目隠しをしたロボット」であり、画面要素の位置や属性変更に非常に敏感(brittle)です。この「脆さ」は深刻な課題であり、例えばDeloitteの調査では、RPAの導入規模を拡大する上で、プロセスの複雑さや変更への対応が主要な障壁となると報告されています。

従来のRPAと、AIが思考するインテリジェント・オートメーションの違いを示す図
図1:「指示待ちロボット」と「考えるシェフ」の違い。これがRPAの限界を象徴している。

問題点2:非構造化データを扱えない

RPAは「構造化データ」(Excelのセルなど、形式が決まったデータ)は得意ですが、現代のビジネスで増え続ける非構造化データ(テキスト、画像、音声など、予め定められた形式を持たないデータ)が苦手です。お客様からの自由記述の問い合わせメール、取引先ごとにフォーマットが異なるPDFの請求書、会議の議事録――。これらの「意味」を理解する必要がある業務は、RPAだけでは自動化の対象外でした。

問題点3:費用対効果の頭打ち

初期の導入効果は大きいものの、自動化の範囲を広げようとすると、シナリオの開発・維持コストが増大します。結果として、「自動化で削減できた工数」と「ロボットの維持管理コスト」が釣り合わなくなり、特定業務において30-70%程度の作業時間短縮を実現しつつも、それ以上の飛躍的なROI向上が難しくなるケースが少なくありません。

第2章:RPAを超越する「考えるAI」の正体と仕組み

「RPAの限界」を乗り越える存在、それが「自律型AIエージェント」です。これは「AIを搭載したRPA」といった安易なものではなく、根本的にアーキテクチャが異なります。

理解の鍵は、AIが「脳」、RPAやAPIが「手足」という役割分担にあります。

表1:従来のRPAと自律型AIエージェントの根本的な違い
従来のRPA 自律型AIエージェント
役割 目隠しで指示通り動く「手足」 状況を理解し、判断する「脳」
思考 シナリオ通りのみ。応用は不可。 大規模言語モデル(LLM)が自然言語処理により文脈を分析し、事前に学習した知識と与えられたルールに基づいて次の行動を計画する。ただし、LLMの出力には不確実性があるため、重要な判断には人間の監督が必要です。
実行 画面操作(UI)が主体。 API連携を主体に、最適な「手足」を選択する。
対話 不可。 人間と自然言語で対話し、意図を汲み取る。

つまり、AIエージェントは「メールの内容を理解し、要約し、顧客の感情を分析し、過去の対応履歴をデータベース(API経由)で確認し、最適な返信文案を生成し、担当者に承認を求める」といった、一連の思考と行動を自律的に計画・実行できるのです。

自律型AIエージェントのアーキテクチャを示す図
図2:自律型AIエージェントのアーキテクチャ。「脳」であるAIが、「手足」である各種ツールを操る。

 第3章:実例で見るAI自動化の威力|RPAとの決定的な差

言葉だけではイメージが湧きにくいかもしれません。ある中小企業の「顧客からのクレーム対応」を例に、その違いを見てみましょう。

【Before】RPAによる部分的な自動化

  1. 担当者が毎日、受信トレイを目視で確認。クレームらしきメールを見つける。
  2. RPAを起動。RPAがメールから「注文番号」だけをコピーし、基幹システムにペーストして顧客情報を表示する。
  3. 担当者は表示された情報とメール内容を元に、対応策を考え、返信メールを作成する。

→ 結果:自動化は情報検索の一部のみ。多くの判断と作業が人間に依存。

【After】自律型AIエージェントによる自動化

  1. AIエージェントが定期的に受信トレイをチェック(例:10分間隔)。クレームメールを検知すると、自然言語処理により内容を分析し、事前に定義された基準に基づいて深刻度を判定。
  2. API経由でCRMと基幹システムにアクセスし、顧客情報、過去の購入履歴、対応履歴を自律的に収集・分析。
  3. 収集した情報に基づき、「商品の即時交換が妥当」と判断。担当者へ「以下の内容で対応を進めてよろしいですか?」とSlackで承認を求める。
  4. 担当者が「OK」と返信すると、AIエージェントが在庫管理システム(API)に交換指示を出し、顧客へのお詫びと発送通知メールを自動生成・送信する。

→ 結果:発見から一次対応の提案まで、AIが自動化を担い、人間は最終的な判断と承認を行います。これにより作業時間の大幅な短縮が期待できます。

これが、単なる作業の代行ではない、「思考」と「判断」を含む真の業務自動化です。

第4章:4ステップで実現するRPA→AI移行の実践ロードマップ

「理屈は分かったが、何から手をつければいいのか?」という疑問にお答えします。すべてを一度に捨てる必要はありません。以下の4ステップで、現実的かつ着実に移行を進めます。

❶ 既存RPAの「断捨離」と棚卸し

まず、社内にあるRPAシナリオをリストアップし、「頻繁にエラーが起きる」「維持コストが高い」「費用対効果が低い」ものを特定します。これらが、新しいAI自動化に置き換えるべき最初の候補です。

❷ 「思考」から始めるAI導入パイロット

最初のプロジェクトは、RPAが最も苦手とした「非構造化データの分類・要約」から始めるのが定石です。例えば、「お客様の声アンケートの自由記述欄を分析し、ポジティブ/ネガティブな意見を分類し、要点をまとめる」といったタスクは、効果が分かりやすく、リスクも低い最高のスタート地点です。

❸ 「ヒューマン・イン・ザ・ループ」を徹底する

いきなり完全自動化を目指すのは危険です。まずは「AIが作成したドラフトを人間が確認・修正して送信する」のように、必ず最終判断に人間が介在する「Human-in-the-Loop(人間参加型ループ)」の仕組みを構築します。これにより、AIの信頼性を担保しつつ、現場の不安を和らげることができます。

❹ UI自動化からAPI自動化へ

長期的に目指すべきは、不安定な画面操作(UI)に依存する自動化からの脱却です。社内システムや利用しているクラウドサービスにAPIが提供されている場合、積極的にAPI連携へ切り替えていきましょう。AIエージェントは、このAPI連携を司る「司令塔」として最適です。

参考:ツールの選定:主要AIエージェントプラットフォーム比較

表2:主要AIエージェントプラットフォーム比較(2025年6月時点)
プラットフォーム名 提供元 主な特徴 適した用途
Microsoft Azure AI Studio Microsoft Azure OpenAI Serviceとの親和性が非常に高い。Prompt Flowによる視覚的な開発と、エンタープライズレベルのセキュリティ・ガバナンス機能が強み。 既にAzureを利用している大企業。セキュリティとコンプライアンスを最重視するプロジェクト。
Google Vertex AI Agent Builder Google Cloud Googleの強力な検索技術や基盤モデル(Gemini)を活用。データ分析や検索拡張生成(RAG)を組み込んだ高度なエージェント構築が得意。 Google Cloudエコシステムを多用する企業。検索やデータ分析と連携したAIチャットボットやエージェント開発。
Amazon Bedrock Agents Amazon Web Services 多様な基盤モデル(Claude, Llamaなど)から選択可能。AWS Lambdaとの連携で、既存のAWSサービスや社内システムとの接続が容易。 AWS基盤でシステムを構築している企業。特定のLLMに縛られず、柔軟にモデルを選択したい開発者。
LangChain / LlamaIndex オープンソース 特定のプラットフォームに依存しない、最も柔軟な開発フレームワーク。コンポーネントの組み合わせが自由自在で、最新の論文などを即座に試せる。 高度なカスタマイズを求めるエンジニアやスタートアップ。特定のクラウドにロックインされたくない場合。
UiPath Autopilot UiPath RPAのリーディングカンパニーが提供。既存のRPAワークフローとAIエージェントをシームレスに連携。ローコードでの開発に強み。 既にUiPathを全社的に導入しており、既存のRPA資産を活かしつつAI化を進めたい企業。

AI自動化導入の成功指標(KPI)

プロジェクトの成功を客観的に測るため、以下のようなKPIを設定することが推奨されます。

  • 処理時間短縮率:従来比70-80%の削減
  • エラー率の改善:人的ミスの90%削減
  • 顧客満足度向上:対応時間の50%短縮
  • ROI:導入から12ヶ月以内の投資回収

導入時に考慮すべき主要リスク

AIエージェント導入時の主要なリスクには、①機密データの処理におけるセキュリティリスク、②AI判断の透明性不足、③予期しない動作による業務影響などがあります。これらのリスクを軽減するため、段階的導入とガバナンス体制の整備が不可欠です。

Q&A:AI自動化への移行に関する疑問

▶ Q1. 今あるRPAはすべて捨てるべきですか?(クリックで開閉)

A1. いいえ。APIが提供されていない古い社内システムへの入力など、限定的な「手足」としてRPAツールが有効な場面は残ります。重要なのは、RPAを自動化の主役ではなく、AIエージェントが使う「一機能(ツール)」と捉え直すことです。

▶ Q2. 中小企業にはコスト的に無理ではないですか?(クリックで開閉)

A2. むしろ逆です。かつては高価だったAI技術は、クラウドサービス(AWS, Azure, GCP)やOpenAIなどのAPIとして、使った分だけ支払う従量課金制で利用でき、例えばOpenAI GPT-4 APIの場合、1000トークンあたり約0.03ドル程度(2025年現在)から利用可能です。ただし、実際のコストは処理量により変動するため、パイロットプロジェクトでの試算が重要です。大規模なサーバー投資は不要で、中小企業こそ身軽に始められる環境が整っています。

▶ Q3. AIの判断は100%信用できますか?(クリックで開閉)

A3. いいえ、100%ではありません。だからこそ、ロードマップのStep3で解説した「ヒューマン・イン・ザ・ループ」が不可欠です。AIを「完璧な存在」ではなく、「非常に優秀な新入社員」と考え、重要な判断は人間が監督する体制が成功の鍵です。

▶ Q4. AI移行で、従業員のスキルはどう変わりますか?(クリックで開閉)

A4. シナリオ作成のような「RPAを“作る”スキル」から、「AIに“的確な指示を出す”スキル」や「AIの成果を“評価・改善する”スキル」へとシフトします。単純作業から解放され、より創造的で戦略的な業務に集中できるよう、従業員のリスキリングを支援することが重要になります。

▶ Q5. 最初の具体的な一歩は何をすればいいですか?(クリックで開閉)

A5. まずは、ChatGPTやClaudeのような対話型AIを使って、ロードマップStep2にある「非構造化データの分類・要約」を試してみることをお勧めします。例えば、数件の問い合わせメールをコピー&ペーストし、「このメールを要約して、緊急度を3段階で評価して」と指示するだけです。これだけでAIの能力の一端を体感でき、社内での説得材料にもなります。

結論:自動化の主役交代。経営者が今、下すべき決断とは

本記事で見てきたように、RPAから自律型AIエージェントへの移行は、単なる技術トレンドではありません。それはMcKinsey Global Instituteの調査によると、年間2.6兆~4.4兆ドルの経済価値創出が期待される変革技術です。

「指示されたことだけを正確にこなす」時代は終わりました。これからは、「目的を理解し、自ら考え、最適な手段で業務を遂行する」AIと共に働く時代です。

この技術変革に対し、企業は段階的な移行戦略を検討することが重要です。完全な置き換えではなく、RPAと新技術の適切な組み合わせを模索することで、リスクを最小化しながら効果を最大化できます。

参考サイト

筆者 ケニー狩野氏
筆者プロフィール:ケニー狩野
中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ
キヤノン株式会社にてアーキテクト、プロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを牽引。
現在の主な役職:
株式会社ベーネテック 代表、株式会社アープ 取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会 評議員 ブロックチェーン導入評価委員長などを務める。2018年には「リアル・イノベーション・マインド」を出版。

趣味はダイビングと囲碁。

ABOUT ME
ケニー 狩野
中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ キヤノン株式会社にてアーキテクト、プロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを牽引。 現在の主な役職: 株式会社ベーネテック 代表、株式会社アープ 取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会 評議員 ブロックチェーン導入評価委員長などを務める。 2018年には「リアル・イノベーション・マインド」を出版。 趣味はダイビングと囲碁。