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OSSライセンス講座

オープンソース講座(3):OSSライセンスと著作権の関係

OSSライセンスと著作権の関係

さてこの講座ではまず初めに「著作権法」に関してじっくりとおさらいをしたのはOSSライセンスを理解するうえでそのベースとなる最も重要な関係法だからです。

OSSライセンスと著作権の関係とは、お互いにソフトウェアの利用と配布に関する重要な枠組みではありますが、OSSライセンスは各ファウンデーション(権利を保有する団体)が独自のポリシーに基づいて定めたものなので、各国の著作権法と折り合いをつける必要があります。

まあそうはいっても、皆さんの中には、「法務部がやるからとりあえずいいかな?」とか「法律に関してはスルーしてきた」という方も多いのではないでしょうか。

しかし、OSSのライセンスバイオレーションで非難を浴びないようソフトエンジニアは最低限の知見を持つことをお勧めします。
これまで2回に分けてご説明差し上げた著作権法をオープンソースという切り口からもう一度見直してみよう。

OSSからみた著作権法

日本の法制度(憲法、法律、政令、条例等)には様々な学説や通説、そして凡例(≒最高裁での判決)があるように、著作権法にも改憲派と護憲派がおりまして、専門家が様々な議論を積み重ねているようです。

まあそれは専門家に任せておいて・・・
我々はあくまで「オープンソースを利用する側から見たら著作権法ってどんだけイケテンのよ?」という実務家の観点からまとめてみたいと思います。

民法から見る著作権の強さ

民法の中の著作権の位置づけ

 

著作権等の知的財産権は、強い権利であることを表現するのに「準物件」とか「物件的」と呼ばれることがあります。

これはどういうことかというと、民法には「物件」と「債権」がありますが、権利的には物件の方が強く、特に所有権は「物を支配する権利」の中で最も強い権利とされており原則として消滅時効は存在しません。

ちなみに所有権以外の物件や債権の取得時効ですが、特例はあるものの、基本的には善意で10年、「悪意」(*2)で20年というのが一般的です。

これに対して、著作権の原則的保護期間は、2018年12月30日、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」が我が国において効力が生じ、原則的保護期間がそれまでの50年から70年になりました。

物件法定主義と管理可能説
(興味のない方は飛ばしてください)

このように強い権利を持つ物件は、契約等で新しい権利関係の追加ができる債権とは異なり、法律で規定されたもの以外に勝手に創設はできないことになっており(物件法定主義) 民法では10個の物件が定義されている。

例えば「物件は有体物が前提なので無体物である著作権は準物件だ」といういわゆる有体物限定説(*1)があるが、これだと目に見えない「電気」や「」そして権利としての「地上権」や「抵当権」が物件であることの説明がつかない。

実際には「排他的な支配が可能である物は全て有体物」というのが通説となっているようだ(これが「管理可能説」)

 

著作権は放棄できるのか

既に以前の稿でお話したように、日本は1899年にベルヌ条約に加盟したため、英米より一足早く「無方式主義」、すなわち「著作した時点で権利が発生する」立場をとりました。

米国はずっと特許と同様に権利主張には「申請」が前提(方式主義)でしたが、1989年にようやくベルヌ条約に加盟し、著作者名、著作年、Copyrightマークの表示のみで著作権が成立することになりました。

ちなみにOSSライセンスの修正BSDライセンスMITライセンスはこれに準じてます。
この点が契約書や商標権、特許権などの他の財産権と異なる点だ。

また日本の現行著作権法(1970年成立)では著作人格権は放棄できないことになっています。
よくパブリックドメインソフトウエアやフリーソフトウエアの著作者が「著作権は全て放棄します」と宣言しているのを見かけますが、残念ながら放棄できるのは著作財産権だけです。
従ってこの著作者の言いたいことを正確に表現すると「著作財産権は放棄するが著作人格権は行使しない」ということになる。

OSSにとっての著作権法

ここでは著作権とプログラム、特にOSSライセンスの相性について整理しておきましょう。

目的

先ずは著作権法の目的をみておきましょう。

著作権法 第一条(目的)
(~前半略~) 文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

「文化の発展への寄与」が目的となっていることから、やはり文学や芸術、音楽、映画などを対象としている法律だということが分かります。

プログラムは文化だ?!

プログラムも文化?!

目的からすると、「プログラムは文化だ」と考えて著作権を読めば整合性がとれるというちょっと笑える話ですが、それはともかく実態はどうなっているかですね。

これを直感的に理解するために公益社団法人著作権情報センターから引用した表を掲載しておきましょう。

著作者人格権と財産権

 

予想通りこの表の中にはプログラムの「プ」の字も出てきませんね。
つまりプログラムは、

  1. 著作権の中心的関心事である「文学、美術、映像(映画)」等と同様に考えよ。
  2. プログラムの性質と齟齬があるところだけ条文を追記する。

と考えればよいことになります。

OSSライセンス ≠ 著作権

ここで気を取り直して、OSSライセンス上、最も重要な三大権利である改変権、複製権、頒布権(再頒布権)がどうなっているのか確認しておきましょう。

①改変権
著作者人格権の中の「同一性保持権の特例」という形で規定しているようだ。

②複製権
(美術の著作物等の展示に伴う複製)(第四十七条の三)の第三項を間借りしている。
その主旨は以下の2点。

1. 複製物を利用する場合には、自らの電子計算機において利用することを目的にする場合に限る。
2.前項の複製物が滅失以外の事由により所有権がなくなり著作権者からも別段の意思表示がない限り、複製物を保存してはならない。

③頒布権
プログラムの「頒布権」という言葉は見当たりませんでしたが、ここは「公衆送信権」をここは読み替えてはいかがでしょうか?

参考までに条文を掲載してます。

第二十三条  著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2  著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

OSSライセンスと著作権法と契約と・・・

そしてここからがこの本題です。

OSSの使用時に交わされるライセンス契約は、著作権者(多くの場合、OSSの管理団体であるファウンデーションやコミッティ)が定める利用条件です。

このライセンス条件に違反した場合、直ちに著作権法違反となるわけではありません
まず、契約違反の問題として扱われます。
日本を含む多くの国では罪刑法定主義を採用しているため、著作権法に明確な規定がない限り、ライセンス違反を直ちに著作権法違反として罰することはできません。
OSSライセンス違反が発覚した場合、通常は以下のようなプロセスを経ます。

a. 管理団体から警告を受ける
b. 違反内容が公開される可能性がある
c. 是正の機会が与えられる
d. 是正されない場合、ライセンスが取り消され、OSSの使用が禁止される可能性がある

最悪の場合、OSSの使用ができなくなるという結果になりますが、これは著作権法違反による罰則ではなく、ライセンス契約の解除による結果です。

ただし、ライセンス違反が著しく、かつ著作権法で定められた権利を明確に侵害している場合(例:無断での複製や配布)には、著作権法違反として訴えられる可能性もあります。

したがって、OSSを使用する際は、ライセンス条件を十分に理解し遵守することが重要です

違反が発覚した場合は、速やかに是正措置を講じ、管理団体と協力して問題解決に当たることが望ましいです。

OSSライセンスと著作権法、そして契約の関係は複雑ですが、これらの要素が互いに影響し合いながら、オープンソースソフトウェアの利用と開発を支える法的枠組みを形成しています。
開発者や利用者は、この複雑な関係性を理解し、適切に対応することで、OSSの恩恵を最大限に享受しつつ、法的リスクを最小限に抑えることができるのです。

プログラム著作権とOSS—調和を目指して

これまで説明してきたように、プログラムの著作権は、それが書かれた時点で成立します。筆者自身、大型コンピュータでプログラムを書いていた頃、「プログラムにも著作権が認められる」という新聞記事に驚きを覚えた経験があります。

それから30年以上が経過し、コンピュータは私たちの生活に深く浸透しました。
そして現在、その基盤を支えている重要な要素の一つが、全世界で分散的に開発されているOSS(オープンソースソフトウェア)です。

しかし、OSSライセンスの主張する自由な利用と各国ごとに異なる著作権法との整合性には課題がないわけではありません。
例えば、日本の著作権法では「公衆送信権」が著作者に専有されると規定されています。このため、OSSのライセンス条項における自由なソフトウェア利用が、法的に矛盾するケースも考えられます。
各国の著作権法が強行規定か任意規定かによって、その影響はさらに複雑化します。

こうした状況では、OSSライセンスに適合した法整備や国際的な調和を目指す取り組みが求められます。
しかし現状では、それは「夢のまた夢」と言わざるを得ません。
それでもなお、私たちはこの課題を理解し、法制度とOSSコミュニティがより良い方向に向かう可能性を探るべきです。

さて、ようやくこれで心置きなくOSSの話に移ることができます。

ところで皆さんはブログを書いているだろうか?

その際、各社が提供しているブログサービス(goo、livedoor、アメブロ、はてな等)を利用していたとすると、一度その利用規約を確認してみてはいかがだろうか?

ほとんどのケースで「ブログの内容はサービス提供会社も必要に応じて自由に使用できる」が、「もし貴方が他者への権利侵害等があった場合、当社は一切関知しない」ということが書かれているはずだ。

 

【注釈】

  • (*1)有体物限定説
    固体・液体・気体など空間の一部を占めて存在する物を有体物とする説。
  • (*2)悪意と善意
    法律用語では、事情を知っていた場合に「悪意」、知らなかった場合に「善意」と呼んている。

 

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。