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イノベーション

インサイト起点のマーケティング:顧客の潜在ニーズに応える戦略

インサイト起点のマーケティング:顧客の潜在ニーズに応える戦略

現代のマーケティングでは、単なる商品やサービスの提供を超えて、顧客の真のニーズや欲求を深く理解し、それに基づいた製品やコミュニケーション戦略を構築することが求められています。

インサイトとは、顧客の表面的な要望を超えた真のニーズや欲求を深く理解することです。これにより、より効果的な製品開発やマーケティングが可能になります。

インサイト起点のマーケティングとは、顧客の深層にある真のニーズに基づき製品や戦略を構築するアプローチです。これにより、顧客との強い結びつきが生まれ、競争優位が可能になります。

本記事では、大手電機会社で20年以上にわたり商品開発に携わってきた経験をもとに、
マーケティングのおさらいをした後、インサイトの創出方法、そしてそれを活用したマーケティングの実践ステップと成功事例などについて解説します。

インサイトとは何か?

1908年10月1日に発表された「T型フォード」

 

インサイトとは、顧客が自覚していない潜在的なニーズや欲求を指します。
顕在化していないニーズやウォンツ、つまり、顧客自身が気づいていない深層の欲求を発掘し、それに応えることで市場での競争優位性を築くことができます。

フォード社の創始者であるヘンリー・フォード氏が「顧客に何が欲しいか聞いたら、もっと速い馬を求めただろう」と述べたように、顧客は表面的なニーズの裏に潜在的な要求を抱えていることが多いのです。

あらためてマーケティングを軽くおさらい

マーケティングは、顧客のニーズや価値を理解し、それに基づいて製品やサービスを提供するプロセスです。

ピーター・ドラッカーが著書『マネジメント』で述べたように、「真のマーケティングは顧客からスタートする」という考え方が基本です。
ドラッカーは、「われわれの製品やサービスができること」を中心に考えるのではなく、「顧客が価値を感じ、必要とし、求めている満足」を中心にすることが重要だと強調しています。
理想的なマーケティングの目指すところは、販売活動を不要にし、製品やサービスが自然に売れるような状態を作ることです。

つまり、マーケティングは「何を売るか」ではなく「誰に売るか」「どのように売るか」を徹底的に考え、顧客が価値を感じるものを提供することにあります。
これを実現するためには、顧客の真のニーズを理解し、それに応える製品やサービスを提供することが必要です。

インサイトの創出方法

インサイトを効果的に創出するためには、定量的データと定性的データをバランスよく活用することが重要です。
定量データは顧客の行動や購買パターンを明らかにし、定性的データはその行動の背後にある心理的要因を探るのに役立ちます。

以下に、具体的なインサイト創出の方法を紹介します。

訪問観察調査

訪問観察調査は、顧客の生活環境や行動を直接観察することで、潜在的なニーズを発見する手法です。

例えば、顧客の自宅を訪問し、どのような製品をどのように使っているのかを観察することで、アンケートやインタビューでは得られない深い洞察が得られます。これにより、顧客が気づいていないニーズや問題を明らかにすることができます。

ワークショップと共創

ワークショップ形式で顧客や関係者と対話し、アイデアを共創することもインサイト創出に有効です。

異なるバックグラウンドを持つ参加者が集まることで、多様な視点から新しい価値やコンセプトが生まれます。

特にエクストリームユーザー(極端な価値観やニーズを持つ顧客)との対話は、一般の顧客では捉えにくい革新的なアイデアの源泉となります。

エクストリームユーザーの活用

エクストリームユーザーは、非常に特異な価値観や行動を持つ消費者です。

例えば、B2C市場の場合、歯磨き粉を10種類使いこなす人や、パソコンに7台のモニターを繋げて作業を行う人、毎日納豆を五箱分食べることをルールにしている人など、通常の消費者とは異なる行動をとります。

このようなユーザーのニーズや行動に着目することで、市場全体では見逃されがちな洞察を得ることができます。

 

B2B市場でのエクストリームユーザーの事例
  1. 1日に1万件以上の顧客サポートリクエストを処理する企業
    大量の顧客対応を行う企業は、AI自動化や多言語対応システムを必要とし、リアルタイム分析によるサポートの質向上を求めています。
  2. 1000人以上のフリーランスを一斉に管理する企業
    大規模プロジェクトで多数のフリーランスを管理する企業は、進捗管理やAIによるタスク割り当て、スケジュール最適化が不可欠です。
  3. 数千台のドローンを24時間体制で運用する企業
    数千台のドローンを24時間運用する企業は、リアルタイムルート最適化や安全管理、バッテリー管理など高度なシステムを必要とします。

 

イノベータ理論の役割

図2.  イノベータ理論 (出典:https://www.onemarketing.jp/contents/innovation-theory_re/)

 

イノベータ理論とは、市場に新しい製品やサービスが導入される際、最初に取り入れる少数の革新的なユーザー(イノベータ)が存在しなければならないという考え方です。
この理論によると、最初に製品やサービスを支持するのは、全体の2.5%に過ぎないイノベータであり、彼らの存在が市場の形成を促進します。

エクストリームユーザーは、しばしばこのイノベータの候補となります。
彼らの特異なニーズや行動は、新しい市場を開拓し、製品がより広範囲に受け入れられるための指標となるからです。

この少数のイノベータが成功すれば、次の段階でアーリーアダプター、さらにその後のメインストリーム層へと広がり、市場の成熟が進んでいきます。

インサイト起点のマーケティングの実践ステップ

インサイト起点のマーケティングを実践するためには、以下のステップが必要です。

❶ 顧客の深い理解

顧客の生活様式や価値観、購買動機を深く理解することが最初のステップです。訪問観察調査やインタビューを通じて、顧客が抱えている未充足のニーズを発掘します。定量データと定性データをバランスよく取り入れ、顧客の行動の背後にある深いインサイトを見つけ出します。

❷ データ分析とインサイトの抽出

次に、定量データを分析し、顧客行動の背後にあるパターンや傾向を探ります。これにより、顧客が気づいていないニーズやウォンツを明確化し、インサイトを得ることが可能です。ここで得られるインサイトは、戦略の基盤となります。

❸ 部署横断のプロジェクトチームでのアイデア創出

ワークショップの風景

 

部署横断のチームによるアイデア創出は、異なる部門の専門知識を結集して、顧客の潜在ニーズに応える新しい施策を生み出すための重要なプロセスです。以下は、具体的な手法です。

  1. クロスファンクショナルワークショップ
    異なる部門の専門家が集まり、各々の知識や視点を持ち寄ってアイデアを出し合うワークショップです。マーケティング、開発、サポートの各チームが協力し、顧客ニーズに応えるためのアイデアを短時間で創出します。
  2. プロジェクトチームによるスワームインテリジェンス
    チームメンバーが個々にアイデアを出し、それらを集約・評価しながら最良の解決策を見つける方法です。異なる部署の知識を融合することで、創造性と革新性を引き出すことができます。
  3. フューチャーサーチ(未来探索)ワークショップ
    部署横断で未来の市場や技術トレンドを予測し、それに基づいて製品やサービスを革新する方法です。全員が同じ視点で将来の市場変化を議論し、それに向けたアイデアを創出します。

 

❹ プロトタイプのテストとフィードバック

インサイトに基づく新しいアイデアが具現化したら、プロトタイプを作成し、実際の顧客にテストを行います。この段階では、顧客からのフィードバックを受け取るだけでなく、「試作-検証」を繰り返し行うことが重要です。プロトタイプを反復的に改善し、テストを通じて得られるフィードバックを元にさらに洗練させることで、インサイトに基づいた最適な製品やサービスを提供することが可能となります。

➎ マーケティング戦略の最適化

インサイトを基にしたマーケティング戦略を実行し、その効果を継続的にモニタリングしながら、最適化を図ります。顧客の反応を分析し、必要に応じて戦略を調整することで、マーケティング施策が長期的に成功するように保ち続けます。

成功事例

以下は、インサイト起点のマーケティングを実践して成功を収めた企業の事例です。

  1. アップルのiPod:「1000曲をポケットに」
    アップルはiPodのマーケティングで、「1000曲をポケットに」というコンセプトを打ち出し、顧客が音楽をどこでも携帯したいという潜在的なニーズに応えました。これにより、iPodは大ヒット商品となり、音楽業界に革命をもたらしました。
  2. ネスレのネスプレッソ:家庭でバリスタ品質のコーヒー
    ネスレは、家庭で高品質なコーヒーを手軽に楽しみたいという潜在的な欲求に応えた製品、ネスプレッソを開発しました。
    この戦略により、ネスプレッソはコーヒーマシン市場で強いブランドイメージを確立しました。
  3. エアビーアンドビー:旅行体験の再定義
    エアビーアンドビーは、ホテルでは味わえない「現地の生活を体験したい」という旅行者の潜在的な欲求に応え、個人宅の宿泊を可能にするプラットフォームを提供しました。
    これにより、従来の旅行業界に新たな選択肢を提供し、大成功を収めました。
  4. ダイソンのサイクロン式掃除機:吸引力が続く掃除機
    ダイソンは「吸引力が落ちない掃除機」というユーザーの不満に着目し、それを解決するためにサイクロン式掃除機を開発しました。
    この技術革新により、ダイソンはプレミアム掃除機市場でのシェアを獲得しました。
  5. ユニクロのヒートテック:機能性とファッションの融合
    ユニクロは、寒い季節に暖かさを保ちながらも、デザイン性を犠牲にしないという消費者の潜在的なニーズに応えるため、ヒートテックを開発しました。
    この技術革新により、ユニクロは冬のアパレル市場で強力なポジションを築きました。

結論

インサイト起点のマーケティングは、顧客の潜在的なニーズや欲求を深く理解し、それに基づいて製品やサービスを提供するアプローチです。
このアプローチは、単なる製品提供を超えて顧客の期待を上回る体験を創出することで、競争の激しい市場においても強力な差別化を図る手段となります。
顧客の潜在ニーズに目を向けることが、現代のマーケティング戦略における成功の鍵となるでしょう。

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事中(運用サイト:https://arpable.com)
趣味はダイビングと囲碁。2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。