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イノベーション

【最新調査】国内AI市場の未来予測 ─ 複数データで読み解く成長戦略

【最新調査】国内AI市場の未来予測 ─ 複数データで読み解く成長戦略

📌「試行」の終わり、「実装」の始まり

🚨 2025年最新情報

IDC Japan発表(2025年5月): 2024年の国内AIシステム市場は前年比56.5%増の1兆3,412億円に達し、予想を上回る急拡大。2029年には4兆1,873億円規模まで成長する見込み。2025年は「エージェンティックAI元年」として位置づけられており、既に上半期の段階で市場の転換点となる重要な動きが観測されています。

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本記事では、AIの進化を支える技術的背景を多角的に捉え、専門知識をわかりやすく解説します。筆者はハードウェアからクラウド基盤、AI実装まで幅広い開発領域で経験を積み、技術戦略や製品開発にも携わってきました。特に2015年以降は、ディープラーニングの急速な発展に加え、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の動向を継続的に分析・発信しています。単なる情報整理にとどまらず、現場で培ったリアルな視点を交えた考察をお届けすることを目指しています。

今は「実験」の終わり、そして「展開」の始まり

AIは単なる技術トレンドではなく、産業構造を根底から覆す社会変革のエンジンとなりつつあります。この大きな潮流は、国内の主要な調査機関やコンサルティングファームが発表するデータによって、共通の見解として裏付けられています。

📊 最新市場データ(2025年6月更新)

IDC Japan調査(2025年5月発表)では、2024年の国内AIシステム市場が前年比56.5%増の1兆3,412億円に達し、2029年には4兆1,873億円規模に成長すると予測。 従来予測を大幅に上回る拡大ペースを示しています。

株式会社矢野経済研究所は(2024年5月発表)、2023年度の国内AIシステム市場が前年度比139.5%の6,521億円に達し、2028年度には1兆5,361億円に拡大すると予測しています。 また、富士キメラ総研は(2025年1月発表)、生成AI関連市場が2028年度に1.7兆円を超えるとの見通しを示すなど、市場の爆発的な成長は疑いようのない事実です。

この力強い成長は、多くの日本企業がAI活用の転換点、すなわち概念実証(PoC)といった「実験フェーズ」を終え、いかにしてAIを事業の中核に組み込み、持続的な価値を創出するかという「実装・展開フェーズ」へと移行し始めていることを示しています。

本稿のポイント
本稿では、多忙な経営層の皆様が短時間で要点を把握できるよう、複数の最新調査を基に、AIによる社会実装の核心に絞って解説します。経営層が把握すべき「①未来のビジネス環境」「②自社の現在地」「③今すぐ始めるべきアクションプラン」を提示します。

社会変革の震源地:国内AI市場の爆発的成長

国内AI市場の急成長は、単なる経済指標ではありません。これは、AIが社会インフラとして不可欠な存在になる過程を数値化したものです。PwC Japan合同会社は(2023年11月発表)生成AIが日本のGDPを最大141兆円(25.8%)押し上げる可能性があると試算しており、AIへの投資がマクロ経済全体に与えるインパクトの大きさを示唆しています。

▶ 【各社による市場予測】(クリックで詳細表示)

【国内AI市場の成長予測】

IDC Japan (2025/5発表) 🆕
– 2024年実績:1兆3,412億円(前年比56.5%増)
– 2029年予測:4兆1,873億円(2024年比3.1倍)

矢野経済研究所 (2024/5発表)
– 2028年度に市場規模が1兆5,361億円に到達

富士キメラ総研 (2025/1発表)
– 2028年度に生成AI市場が1兆7,394億円に到達

MM総研 (2024/3発表) [5]
– 2029年度のAIサービス市場は1兆1,788億円規模になると予測

※調査機関によって対象範囲や算出基準が異なるため規模に差はありますが、いずれも市場が急激な成長を遂げ、1兆円を大きく超える規模へ拡大するという点で共通しています。

【未来像】自律型AIが主役へ:エージェンティックAIがもたらす社会変革

2025年は「エージェンティックAI元年」として位置づけられており、既に上半期の段階で、ビジネスの主役が「人間の指示を待つAIアシスタント」から、自ら目標を理解し、計画を立て、協働するAI群=「エージェンティックAI」へと本格的に移行する動きが見られます。これにより、人間とAIの関係性は根本から再定義され、社会は大きな変革の時代を迎えます。

エージェンティックAI(Agentic AI)とは
人間の指示を待つのではなく、与えられた目標(Goal)に対して自ら計画を立て、複数のツールやAIを連携させてタスクを自律的に遂行するAIシステム。OpenAIは(2024年5月発表のホワイトペーパーで)「限定的な直接の監督下で複雑な目標を追求できるAIシステム」[6]と定義し、汎用人工知能(AGI:人間のように幅広い課題を解決できるAI)への5段階ロードマップの第3段階として位置づけています。

🚀 最新動向(2025年7月時点)

  • OpenAI「Operator」: Webブラウザを介してタスクを自動実行
  • Microsoft「Copilot Studio」: ノーコード・ローコードでエージェント構築可能
  • Salesforce「Agentforce 2.0」: 外部API連携、Slackとの統合を強化
  • Gartner予測(2024年10月発表) 2025年に「エージェント型AI」が主流トレンドに[7]

人間は「使い手」から「監督者」へ

この変化の核心は、人間とAIの関わり方が「プロセスの中に入る(Human in the Loop)」から「全体を監督する(Human on the Loop)」(人間がAIを監督する体制)へとシフトすることにあります。

  • Before(Human “in” the Loop): 人間がAIの処理プロセスに直接関与し、「使いこなす」役割を果たす。
  • After(Human “on” the Loop): 人間はAIシステム全体を「戦略的に監督・評価」する立場へ。具体的には、AIが自律的に業務を遂行する過程で、重要な判断ポイントでのみ人間が介入し、最終的な責任を担う体制を指します。

【現在地】日本企業が直面する「PoCの壁」という転換点

市場の熱狂とは裏腹に、多くの日本企業が本格導入への移行に苦しんでいます。これは「PoCの壁」や「PoC疲れ」とも呼ばれる現象で、複数の調査データがその実態を明らかにしています。

📉 深刻化するPoC問題(2025年最新調査)

Ridgelinez「企業における生成AI活用実態調査2025」(2025年4月発表)によると、生成AI活用のPoCに取り組んだ企業のうち、本番稼働まで進んだのは33.2%に留まり、約3分の2がPoC段階で停滞している深刻な状況が明らかになりました。[8]

例えば、野村総合研究所(NRI)の調査(「DX白書2023」、2023年2月発表)では、AIを「全社的に活用」している日本企業はわずか6.7%に留まります。[9]また、MIT Sloan Management Review(2025年春号)の調査によると、AI投資を進めている企業のうち、投資利益が出ているのはたった10%という衝撃的な結果も報告されています。(調査期間:2024年9月-12月、対象:米国・欧州・日本の大企業500社)

この停滞の背景には、複合的な課題が存在します。

表1:AI導入における主な課題(各社調査より)
課題の領域 具体的な調査結果
人材・スキル AI導入の課題として「AI人材の不足」を挙げる企業が最多。(MM総研、2024年3月発表[5]
コスト・費用対効果 「費用対効果が不明確」であることが、AI導入の大きな障壁となっている。(NRI、2023年2月発表[9]
ガバナンス・セキュリティ 「情報漏洩などのセキュリティ」への懸念が根強く、ガイドライン策定が追いついていない。(NTTデータ経営研究所、2024年1月発表)
経営層のコミットメント AI活用に「準備万端」だと回答した日本企業はわずか4%に留まる。(シスコシステムズ、2024年5月発表)
技術的課題 🆕 PoCで期待した精度や処理速度が得られず、技術的課題から繰り返し実施により現場が疲弊。(三菱総合研究所、2024年11月発表)

【アクション】経営者が今すぐ打つべき3つの手

「PoCの壁」を突破し、AIを企業の成長エンジンとするために、最新の市場動向と各社の提言から導き出される3つのアクションを提示します。

【打ち手 1】 「価値創出」を起点にAIユースケースを再設計する

アクセンチュアは(「Technology Vision 2024」にて)「価値(Value)」こそが生成AI活用の原動力であると指摘しています。単なるコスト削減や効率化に留まらず、「AIでなければ生み出せない独自の価値は何か?」を問い直し、ユースケースを設計することが重要です。

🎯 価値創出の3段階戦略(2025年版)

  1. まず「生産性向上ユースケース」でコストを削減し、AI投資の原資と成功体験を生み出す。 (例:議事録作成、メール初稿作成、社内文書の要約)
  2. 次に「ビジネス機能ユースケース」で本業を変革する。 (例:企業データに基づく需要予測、不正検知、採用活動の最適化)
  3. 最終的に「産業特化ユースケース」で競合を突き放し、新たな市場を創造する。 (例:製造業における予知保全、金融業における資産管理、ヘルスケアにおける個別化診療支援)

【打ち手 2】 「責任あるAI」を前提に技術と組織を構築する

AIの能力を最大限に引き出すには、信頼と安全性を担保する基盤が不可欠です。これは「責任あるAI(Responsible AI)」(AIの倫理性・信頼性・安全性を確保する考え方)と呼ばれ、多くのコンサルティングファームがその重要性を強調しています。

技術の変革:

AIの判断の公平性や透明性を確保する技術や、セキュリティ・プライバシーを保護する「AIネイティブ」なインフラへの移行が求められます。

組織の変革:

NRIの提言にもあるように、経営層が主導してAI活用方針を明確化し、全社的なAIリテラシーの向上と、AIのリスクを管理するガバナンス体制を構築することが急務です。

【打ち手 3】 タイムラインを区切り、段階的に実行する

壮大な変革も、具体的なステップに分解すれば実行可能です。以下の3段階のロードマップを参考に、着実な導入を進めることが推奨されます。

フェーズ1:基盤構築と重点展開 (~12か月)

  • 目的: 限定された領域で成功モデルを確立し、効果を実証する。
  • アクション: ROIの高い業務にAIを導入。AI活用のガイドラインを策定し、一部の従業員への先行教育を開始する。
  • 🆕 エージェンティックAI対応: シンプルなAIエージェントでタスク自動化を実験。

フェーズ2:全社展開と自律化の実装 (12~24か月)

  • 目的: 成功モデルを横展開し、AIの自律性を実装する。
  • アクション: リスクの低い業務からAIの自律運用を開始し、全社的なリスキリングを本格化させる。IT運用の自動化も実装する。
  • 🆕 エージェンティックAI対応: 複数エージェント間の連携と、human-on-the-loop体制の構築。

フェーズ3:スケールとビジネス変革 (24か月~)

  • 目的: 全社的にAIを拡張し、AIを前提とした新しいビジネスモデルを創造する。
  • アクション: 人材を再配置してAIとの協働体制を本格化させ、新たな収益源となるサービスや事業を立ち上げる。
  • 🆕 エージェンティックAI対応: 業界特化型エージェントによる新ビジネス創出。

結論:傍観者でいる時間は終わった

エージェンティックAIによる社会変革は、もはや避けられない未来です。そして今、多くの日本企業がその入り口である「PoCの壁」の前に立っています。

重要なのは、この変革を単なる「コスト負担を伴うIT投資」ではなく、「産業構造の再定義による新市場創造の機会」として戦略的に捉えることです。経営者には今、自社の事業領域をAI前提で再定義し、効率化による投資原資の創出から戦略的成長領域への再投資という持続的な変革サイクルを構築することが求められています。

2025年は「エージェンティックAI元年」として、AI活用の分水嶺となる年です。今こそ、未来の競争優位を確立するため、具体的なアクションを開始する時です。


出典

  1. IDC Japan株式会社(2025年5月)「国内AIシステム市場予測発表」, https://my.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ53362125
  2. 株式会社矢野経済研究所(2024年5月)「AI(人工知能)システム市場規模推移・予測」, https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3541
  3. 株式会社富士キメラ総研(2025年1月)「2024 生成AIの活用と開発の方向性」, https://www.fuji-keizai.co.jp/report/detail.html?code=832401822
  4. PwC Japan合同会社(2023年11月)「生成AIに関するグローバル調査」, https://consul.global/news/news15775/
  5. 株式会社MM総研(2024年3月)「AIサービス市場規模の推移・予測」, https://www.m2ri.jp/report/market/year.html?year=2024
  6. OpenAI(2024年5月)「ホワイトペーパー(該当するもの)」, https://learn.microsoft.com/en-us/azure/ai-services/openai/whats-new
  7. Gartner, Inc.(2024年10月)「Top Strategic Technology Trends 2025」, https://blog.devolutions.net/2025/01/gartners-top-10-strategic-technology-trends-for-2025/
  8. Ridgelinez株式会社(2025年4月)「企業における生成AI活用実態調査2025」, https://co-r-e.net/method/2025airesearchaideiiya/
  9. 株式会社野村総合研究所(2023年2月)「DX白書2023」, https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108046.pdf

よくある質問(FAQ)

▶ Q1: 結局「エージェンティックAI」とは、従来のAIと何が違うのですか?(クリックで開閉)
A: 最も大きな違いは「自律性」です。従来のAIが人間の指示を待つ「アシスタント」だったのに対し、エージェンティックAIは自ら目標を理解し、計画を立て、複数のAIが協働して複雑な業務を完遂する「自律型の実行部隊」です。これにより、人間は作業の指示者から、AI群全体の監督者へと役割が変わります。OpenAIは「限定的な直接の監督下で複雑な目標を追求できるAIシステム」と定義し、AGI(人間のように幅広い課題を解決できるAI)への第3段階として位置づけています。
▶ Q2: 多くの日本企業が直面している「PoCの壁」とは、どのような状況ですか?(クリックで開閉)
A: AI技術の検証や部分的な導入(PoC)は行ったものの、コスト、人材不足、費用対効果の不明確さといった課題から、全社的な本格導入になかなか踏み出せない「停滞期」を指します。2025年最新の調査では、PoCを実施した企業の67%が本番稼働に進めておらず、MIT調査ではAI投資で利益を出している企業はわずか10%という深刻な実態が報告されています。三菱総合研究所は「技術的課題、業務課題の明確化不足、導入効果の試算が正しく行われていない」ことを主因として挙げています。
▶ Q3: 企業として、AI導入は何から手をつけるべきですか?(クリックで開閉)
A: 段階的なアプローチが有効です。まず、議事録の自動作成など、すぐに効果が出てコスト削減に繋がる「生産性向上ユースケース」から着手し、投資原資を確保します。次に、その原資を活かして需要予測など本業を高度化する「ビジネス機能ユースケース」へ進み、最終的に業界特有の課題を解決する「産業特化ユースケース」で競争優位を確立するというステップアップ戦略が推奨されます。2025年からは、シンプルなエージェンティックAIの実験も並行して進めることが重要です。
▶ Q4: 「PoCの壁」を突破するための具体的な方法はありますか?🆕(クリックで開閉)
A: 三菱総合研究所が提言する通り、①AI導入後の業務の姿(あるべき姿)をステークホルダー間で明確に共有し、②PoCから本格導入に至る工程表を事前に作成することが重要です。また、完璧な精度を求めず、人間の作業支援ツールとして位置づけることで、AIの性能を現実的に活用できます。技術面では「100点満点のシステムを狙わない」姿勢も成功の鍵となります。
▶ Q5: エージェンティックAIの導入リスクはどのように管理すべきですか?🆕(クリックで開閉)
A: エージェンティックAIの自律性は大きな利点ですが、同時にリスク管理も重要です。①透明性・公平性・説明責任を確保するフレームワークの構築、②自律性と人間の監視のバランス調整、③倫理的・法的基準への適合確保が必要です。UiPathやGartnerが推奨するように、「Human on the Loop」(人間がAIを監督する体制)体制で人間が最終的な監督責任を担い、AIの判断を評価・承認する仕組みの構築が不可欠です。

主な外部サイト(参考サイト)

 

以上

以上