AIリサーチ技術の最前線!RAG・RAR・DeepResearchを徹底比較
近年、生成AI(Generative AI)の進化に伴い、情報検索と推論の高度化が求められるようになっている。特に、企業におけるナレッジマネジメント、意思決定支援、リサーチ業務では、RAG(Retrieval-Augmented Generation)、RAR(Retrieval-Augmented Reasoning)、ChatGPTのDeep Research(以下、DeepResearch)という3つの異なるシステムが活用されている。
これらのシステムの目的や仕様、データフローの違いを明確にし、実際のユースケースをもとにどのように使い分けるべきかを考察する。
3つのシステムの目的と役割
RAG(Retrieval-Augmented Generation)
目的
RAGは、企業のナレッジ検索やFAQの最適化を目的とし、事前に整理されたデータを活用して高速かつ正確な情報検索を実現する。
定義
RAGは、事前にベクトル化されたデータをデータベースに格納し、ユーザーのクエリに対して類似性の高い情報を検索・提供するシステムである。リアルタイムでのデータ更新は行わず、定期的なデータ更新を前提とする。
主に検索精度と応答速度を最優先し、高速な情報検索を求める業務に適用される。
要求仕様
- 検索精度と応答速度を最優先
- ベクトルデータベースを活用
- 高速かつ正確な情報検索を実現し、FAQや契約書検索などのユースケースに適用
RAR(Retrieval-Augmented Reasoning)
目的
RARは、検索結果を基に推論を行い、財務分析や医療診断など、単なる検索では解決できない複雑な問題の意思決定を支援する。
定義
RARは、検索結果を統合し、論理推論(Chain of Thought, Tree of Thought)を実行することで、単なる情報取得ではなく、データ間の関連性を分析し、最適な結論を導き出すシステムである。
リアルタイムのデータ処理にも対応し、複数のデータソースを組み合わせた高度な検索・推論を実現する。
要求仕様
- 検索結果の正確性を保ちつつ、リアルタイムデータの処理を可能にする
- 推論機能を強化し、統合データをもとに最適な解を導出
- 高度な検索精度と推論機能を組み合わせ、意思決定を支援するシステム設計
DeepResearch
目的
DeepResearchは、競合分析や市場調査、最新技術リサーチなど、リアルタイムのデータ収集・解析を通じて、深い洞察を提供する。
定義
DeepResearchは、非構造化データを直接処理し、OCR、Webクローリング、自然言語処理(NLP)を駆使してリアルタイムに情報を取得・分析するシステムである。
従来のデータベースに依存せず、インターネット上の最新の情報を取得し、検索精度よりも推論とデータ統合を重視することで、深い洞察を提供する。
要求仕様
- 検索精度よりも、推論とデータ統合を重視
- 多様なデータソースから情報を取得し、分析を行う
- 競合企業の最新動向や技術トレンドの把握に適用
RAG、RAR、DeepResearchの比較
RAG、RAR、DeepResearchは、それぞれ異なる目的と役割を持つAI技術であり、検索、推論、リアルタイム分析の違いによって適用領域が異なる。本セクションでは、それぞれのシステムの特性を表形式で比較する。
項目 | RAG (検索拡張生成) |
RAR (検索拡張推論) |
DeepResearch |
主な目的 | 高速かつ正確な情報検索 | 検索+推論で複雑な問題解決 | 柔軟なリサーチと洞察 |
検索速度 | 最優先(高速) | 速いが、推論処理が追加される | 遅くてもOK(数分~1時間) |
検索精度 | 最重要(検索ミスが許されない) | 検索結果の正確性+推論補完 | そこまで重要ではない(推論で補完) |
リアルタイムデータ | 基本的に扱えない | 扱える(検索と推論を組み合わせる) | 扱える(Webクローリング、OCR、API統合) |
推論の活用 | 最小限(検索結果をそのまま活用) | 検索結果を統合・整理・分析し、推論を行う | ToT, CoT, 複雑な推論を駆使 |
データの構造化 | 必須(ベクトルDB) | 必須+推論用にデータ加工 | 不要(非構造化データを直接処理) |
適用範囲 | FAQ検索、ナレッジ検索 | 法律、財務分析、医療診断、複雑な意思決定支援 | 市場調査、ニュース分析、競合リサーチ |
システムの要求仕様の違い
検索精度と応答速度の違い
- RAG:検索速度を最優先し、事前に構造化されたデータベースから即座に情報を取得
- RAR:検索精度を維持しつつ、複数のデータを組み合わせて推論
- DeepResearch:リアルタイム検索を行うが、情報が多少不正確でも推論で補完可能
データの処理方法
- RAG:データは事前にベクトル化し、検索時には既存データを素早く取得
- RAR:検索結果を分析し、ルールベース推論や機械学習を活用
- DeepResearch:OCR、Webクローリング、API連携を駆使し検索ごとに最新情報を収集
データフローの違い
RAGのデータフロー
- 事前に企業のデータを収集・ベクトル化
- ベクトルデータベースに保存
- ユーザーのクエリに対し、最も類似するデータを検索
- ChatGPTが検索結果を要約し、回答を生成
RARのデータフロー
- クエリに応じて複数のデータソースを検索
- 得られたデータを統合し、矛盾をチェック
- AIが論理的な推論(Chain of Thought, Tool Use)を実行
- データ間の関係を考慮し、最適な結論を導く
DeepResearchのデータフロー
- クエリの内容に応じて、リアルタイムにデータを収集(Web、データレイク、API)
- OCR・NLPを用いてデータを解析
- 取得データを統合し、AIが推論
- ユーザーにレポートや分析結果を提供
具体的な使い分け
AI技術の発展により、企業はさまざまな業務でRAG(検索拡張生成)、RAR(検索拡張推論)、DeepResearchを活用している。しかし、それぞれのシステムには異なる特性があり、適用すべきシナリオが異なる。本章では、RAG・RAR・DeepResearchの活用事例を具体的に示し、それぞれのシステムが最も効果的に機能する場面を解説する。
RAGの実際の事例
💡 検索精度と応答速度が重要な場面で活用
💡 FAQやナレッジ検索、文書要約など、決まった情報を検索・提供するタスクに適用
① 社内ナレッジ検索
📚 事例: 企業のFAQ・社内規程検索
- 用途: 「休暇申請のルールは?」という問い合わせに対し、即座に正確な情報を提供
- 動作:
- ユーザーが質問を入力
- 社内のFAQやマニュアルからベクトル検索
- 最も関連性の高い文書を検索し、要約を生成
- ユーザーに回答を提供
- なぜRAGが適している?
- 検索速度が重要であり、リアルタイムデータ処理は不要
- FAQデータベースは定期更新されるため、事前に最適化可能
② 契約書検索
📜 事例: 法的文書の高速検索
- 用途: 「この契約書の免責条項を教えて」と検索し、過去の契約書データベースから関連情報を取得
- 動作:
- ユーザーが特定の契約条項に関する質問を入力
- 過去の契約書データをベクトル検索
- 関連する契約条項を要約し、該当部分を抽出
- ユーザーに契約の詳細を提示
- なぜRAGが適している?
- 契約書は事前にデータベース化しやすく検索クエリに対して高速な応答が求められる
- リアルタイムの情報更新は不要で、事前に整理されたデータが重要
RARの実際の事例
💡 検索した情報をそのまま出すのではなく、推論を加えて最適な結論を出す場面に活用
💡 財務分析、医療診断、法律判断など「情報を組み合わせて考える」分野に適用
① 財務リスク分析
📊 事例: 企業のリスク評価
- 用途: 「企業Aの今後1年間の財務リスクは?」を分析
- 動作:
- 企業Aの財務データを検索
- 市場動向や競合データも取得
- AIがデータを統合し、リスクスコアを算出
- 「企業Aのリスクスコアは75/100。理由は〇〇。」と出力
- なぜRARが適している?
- 検索だけではなく、データを統合・推論する必要がある
- 市場データや競合データも考慮して分析する必要がある
② 医療診断支援
🏥 事例: AIによる患者診断サポート
- 用途: 「この患者に最適な治療法は?」を推論
- 動作:
- 患者の症状・検査データを取得
- 最新の医学論文・診断ガイドラインを検索
- AIがデータを統合し、治療方針を推論
- 「患者の症状に基づき、治療法Aが推奨される」と出力
- なぜRARが適している?
- 医療データを統合し、推論を行う必要がある
- 診断は単純な検索ではなく、AIの意思決定が必要
DeepResearch の実際の事例
💡 リアルタイムデータや非構造化データを使い、AIが推論を行う場面に活用
💡 市場調査、競合分析、最新のニュース検索などのリサーチ業務に適用
① 競合企業分析
📈 事例: 競合企業の最新戦略の調査
- 用途: 「競合B社の最近の動向を調査」
- 動作:
- WebクローリングでB社のニュース、IR情報を収集
- SNSの評判や最新の製品リリース情報を解析
- AIが情報を整理し、「B社は最近〇〇に注力している」と報告
- なぜDeepResearchが適している?
- リアルタイムのデータを取得する必要がある
- 検索ではなく、データを統合・整理することが重要
② 最新のAI技術トレンドの調査
🤖 事例: AIの最新論文やニュースをまとめる
- 用途: 「最新のAI技術トレンドを知りたい」
- 動作:
- 最新のAI関連論文、ニュース記事をWebから取得
- 主要な技術の進展を分析
- 「最近のトレンドは〇〇技術である」と要約
- なぜDeepResearchが適している?
- RAGではカバーできない最新情報が必要
- 大量の非構造化データを要約する必要がある
💡 まとめ
- RAG → 検索速度が重要な場面(FAQ, ナレッジ検索、契約書検索)
- RAR → 検索+推論が必要な場面(財務分析、医療診断)
- DeepResearch → リアルタイム情報の統合分析(競合調査、トレンド分析)
まとめ
💡 RAG・RAR・DeepResearchの違い
- RAG:検索精度と速度を重視し、事前にベクトル化されたデータを検索
- RAR:検索した情報を統合し、推論による意思決定支援を行う
- DeepResearch:リアルタイム検索+推論により、市場調査や技術リサーチを実施
💡 どのシステムを選ぶべきか?
- FAQ・社内ナレッジ検索 → RAG
- 法律、財務、医療の分析 → RAR
- 最新のニュースや市場調査 → DeepResearch
💡 企業のニーズに応じて、これらの技術を組み合わせることで、最適なAIシステムを構築できる。 🚀
参考サイト
- RAG(Retrieval-Augmented Generation):
Retrieval-Augmented Generation: 2024年のAI革新 – GleanGlean - RAR(Rephrase and Respond):
プロンプトエンジニアリング「Rephrase and Respond」の紹介 – PKSHA Technologyvoice.pkshatech.com - OpenAI公式サイト:
Introducing Deep Researc
以上
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。