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AIインフラ市場2025最新|NVIDIA独占に挑む各社戦略

AIインフラ市場2025最新|NVIDIA独占に挑む各社戦略

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AIの仕組みをやさしく解説します。筆者は長年ハード・ソフト、クラウド、人工知能を手がけるエンジニアで、2015年からディープラーニングや生成AI・LLMを継続的に研究。現場経験を生かし、最新情報を噛み砕いてお届けします。

AIインフラ市場は急速な成長を続けており、Grand View Researchによると、2024年のAIインフラ市場規模は627億ドル、Data Bridge Market Researchは589億ドルと推計しています(各社の定義により数値に差異があることにご注意ください)。2029年には1,500-2,000億米ドルの範囲で成長すると見込まれています。

本記事では、この成長を牽引する要因や主要企業の動向に注目します。特に、NVIDIAが構築した圧倒的なエコシステム、AWSの自社開発チップ「Trainium 2」(トレイニウム2)やディスアグリゲート型アプローチの役割について深掘りします。また、エネルギー効率やコスト効率に優れたインフラの重要性を検討し、AI技術の未来を支えるインフラ進化の展望を探ります。

AIチップ市場の転換点:Intelの挑戦と市場の反応

IntelのCEO退任は、NVIDIAが支配するAIチップ市場の熾烈な競争と変化の速さを象徴しています。

インテルのロゴとCPUチップのイラスト

2024年12月2日、インテルのパット・ゲルシンガーCEOが電撃的に退任を発表しました。彼はインテルの技術的優位性回復を目指し、半導体受託生産への参入など大胆な再建計画を進めましたが、AIチップ市場でのNVIDIAの圧倒的な強さに直面し、投資家の信頼を失う結果となりました。

この退任劇は、AIチップ市場における競争の激化を象徴する出来事です。特に注目すべきは、従来CPU市場で圧倒的な地位を築いたIntelが、新興のAI市場では後塵を拝している点です。これは1980年代のDRAM市場撤退時の戦略転換を想起させますが、今回のAI市場での挑戦はより困難な状況にあります。

しかし現在、AIチップ市場という新たな競争領域で再び試練に直面している姿を見ると、テクノロジー業界の変化の速さと適応の難しさを痛感します。インテルがこの転換点をどう乗り越えるかは、業界全体にとっても重要な指標となるでしょう。こうした動向が業界の将来を左右する重要な転機となるため、今後も動向を丁寧に分析していきます。

AWS vs NVIDIA:自社チップ「Trainium」戦略

自社開発チップ「Trainium 2」を軸に、AWSはコスト効率と高性能を両立するAIインフラ戦略でNVIDIAに挑みます。

筆者の視点から見て、AWSのプロジェクト・レイニアは、インテルの凋落とは対照的な、AIインフラ市場への果敢な挑戦を象徴してるように見えます。

2024年のAWS re:Inventで発表されたこのプロジェクトは、AWSが自社開発した最新のAIチップ、「Trainium 2」(トレイニウム2)を中核としています。現行の最先端AIクラスタやスーパーコンピュータのFP8性能(20.8 petaflop)と同等規模であり、大規模モデルの学習・推論を高速化します。

特に注目すべきは、AWSの2軸戦略です。NVIDIAのGPUを大量に使用しつつ、自社チップ開発も進めるという approach は、市場の現状を認識しながらも、将来を見据えた戦略だと評価できます。さらに、Anthropicとの戦略的パートナーシップも興味深い動きです。80億ドルという大規模な投資は、AWSがAI市場に本気で取り組む姿勢を示しています。

今後も、AWSやその他企業による競争・技術革新の動向が業界構造を大きく左右するとみられます。

FP8 petaflopは、AIの計算能力を表す指標です。「FP8」とは8ビットの浮動小数点数を指し、AIの学習や推論でよく使われる数値形式です。この形式は低精度ですが、高速で効率的な演算が可能なため、大規模AIの計算に適しています。「petaflop」は1秒間に1,000兆回の演算を示し、20.8 FP8 petaflopは1秒間に約20,800兆回の計算ができる性能を意味します。現行の最先端AIクラスタやスーパーコンピュータのFP8性能(20.8 petaflop)と同等規模であり、大規模モデルの学習・推論を高速化します。AI技術の進化を支えるこの性能は、学習や推論のコスト削減と高速化に大きく貢献します。

AIインフラ市場 2025:主要企業の開発動向

OpenAIからIntelまで、主要テック企業はNVIDIAへの依存低減を目指し、独自のAIチップ開発を加速させています。

(主要テクノロジー企業によるAIチップ開発状況の比較)
企業 主なAIチップ 戦略的位置づけ NVIDIAとの関係
AWS Trainium / Inferentia 垂直統合型のクラウドサービス最適化戦略 協力しつつ、依存低減を図る
Google TPU / Axion 研究開発主導による先進技術の実用化戦略 協力しつつ、独自エコシステムを推進
Microsoft Maia 大規模AIワークロード向けに最適化 大規模な購入を続ける主要顧客
Meta MTIA SNSプラットフォーム特化型の効率化戦略 NVIDIA GPUも併用
AMD Instinct MIシリーズ HBM3Eメモリ搭載で高性能化 直接的な競合

2024年12月時点の公開情報および各社の発表資料を基に、主要テクノロジー企業のAIチップ開発状況をまとめました。なお、詳細仕様や戦略については各社の公式発表をご確認ください。

OpenAI

  • 2023年11月、2026年の製造を目指すと発表
  • 特徴:高速処理、省エネ性能向上を目指す
  • 用途:AIモデルの推論(インファレンス:学習済みモデルによる予測・分類)に焦点
  • NVIDIAとの関係:現在もNVIDIA GPUに依存、BroadcomとTSMCと協力して独自チップ開発中

Microsoft

  • 2023年11月のIgniteカンファレンスでMaia 100を発表、2024年に詳細仕様を公開
  • 特徴:Azure Maia AI Accelerator、TSMC N5プロセス、HBM2Eメモリ採用
  • 用途:大規模AIワークロード(AIが担う処理全般。例:推論・学習・推計など)、Azure OpenAI Services
  • NVIDIAとの関係:2024年に約48.5万個のNVIDIA Hopperチップを購入

Google

  • 2024年にTPU v5pとAxionチップを発表
  • 特徴:TPU v5pを一般提供開始、Axionチップを発表
  • 用途:AIモデルのトレーニングと推論
  • NVIDIAとの関係:2025年初頭にNVIDIAのGrace Blackwellプラットフォームを導入予定

Meta

  • 2024年4月10日に次世代MTIAチップを発表
  • 特徴:5nmプロセス、90W TDP、1.35 GHzクロック速度
  • 用途:ランキングおよびレコメンデーションシステム、AIモデルの実行
  • NVIDIAとの関係:NVIDIA GPUも使用、具体的な投資額は不明

AMD

  • 2024年第4四半期にInstinct MI325Xを発表
  • 特徴:Instinct MI325X、288GBのHBM3Eメモリ
  • 用途:AIモデルトレーニング、推論
  • NVIDIAとの関係:AIチップ市場で競合

Intel

  • 2024年6月4日にXeon 6 6700Eを発表、第3四半期にXeon 6 P-coresを発表
  • 特徴:最大144 E-cores搭載、データセンター向けAIワークロード(AIが担う処理全般。例:推論・学習・推計など)最適化
  • 用途:AIモデルトレーニング、推論
  • NVIDIAとの関係:NVIDIA GPUと競合、コスト効率の高い代替品を提供目指す

各社は独自のAIチップ開発を進めており、NVIDIAの市場支配に挑戦する姿勢を見せています。しかし、多くの企業が依然としてNVIDIA製品に依存しており、完全な脱却には時間がかかると予想されます。

NVIDIAの市場支配と3つの強み

NVIDIAの強みはCUDAエコシステムと総合力にあり、競合が増えてもAI市場全体の成長により収益拡大が続くと予測されます。

NVIDIAのロゴとAIインフラの概念図

皆さんもご存じのように、NVIDIAはAIチップ市場で圧倒的な強さを誇っています。

Jon Peddie Research(2024年Q3レポート)およびMercury Research(2024年GPU市場分析)によると、NVIDIAは2024年時点でAIアクセラレータ市場の70-90%程度のシェアを占めると推定されています。ただし、正確な市場シェアは各社の非開示情報のため、推定値には幅があることにご注意ください。

一方、AIチップ市場の競争は激化しています。現在でも多くのTechジャイアントやスタートアップ企業が独自のAIアクセラレータを開発しています。また、AmazonやGoogleなどの主要クラウドプロバイダーも自社チップの開発を進めています。そうなるとNVIDIAの勢いは失速していくのでしょうか?

現時点での発表動向・市場予測に基づくと、NVIDIAの優位は続くものの、AWSなどによる競争激化が見込まれます。しかし、AIチップ市場全体の急速な成長により、NVIDIAの収益は引き続き拡大すると予想されます。

NVIDIAの強さの背景には、以下の3つの要因があると考えられます。

❶ CUDAエコシステム

CUDAは、GPUを使った高速計算のための標準的な開発環境です。多くのプログラミング言語に対応し、約250の便利なツールを提供しています。これにより、開発者はAI用の高性能なアプリケーションを簡単に作れます。CUDAは長年進化を続け、業界で広く使われています。

❷ フルスタックAIプラットフォーム

NVIDIA AI Enterpriseは、AI開発に必要なすべてのツールをまとめて提供するシステムです。100以上の開発フレームワークや学習済みモデルを含み、データ処理を5倍速くします。大規模なAIモデルやリアルタイムAIアプリの開発も可能で、企業のAI開発コストを大幅に削減できます。

ディスアグリゲート戦略

DPU(Data Processing Unit)を活用したディスアグリゲート型GPU管理システムは、GPUリソースを柔軟に管理・割り当てする新しい方法です。大規模なデータセンターでGPUを効率的に使え、必要に応じて動的に割り当てられます。CPUとGPUを別々に管理できるので、コストを抑えつつAIの処理需要の変動に柔軟に対応できます。

Allied Market Research(2024年6月)によれば、AIチップ市場は2030年に年間売上3,200〜4,000億ドル規模に達すると予測されています。

DPUを活用したGPU管理システムとは、データセンター規模でのGPU分散化を実現する新しい実装方式です。このシステムは以下のような特徴を持っています:

  1. GPUリソースのプール化: GPUをプールとして管理し、ユーザーの需要に応じて動的に割り当てることができます。
  2. 大規模な管理能力: 数百のGPUノードを効率的に管理することが可能です。
  3. 高いパフォーマンス: ほとんどのユースケースで、ネイティブGPUサーバーの90%以上のパフォーマンスを実現します。
  4. 柔軟性: ユーザーの要求に応じて、必要な数のGPUノードを柔軟に割り当てることができます。
  5. リソース利用効率の向上: GPUの使用率を最適化し、データセンターのリソース効率を高めます。

このシステムは、従来のGPU分散システムの問題点を効率的に解決し、AIワークロード(AIが担う処理全般。例:推論・学習・推計など)の多様性と変動性に柔軟に対応することができます。これにより、大規模なAIモデルの学習や推論、複雑な科学計算などの高度なコンピューティング環境において、効率的で持続可能なインフラストラクチャーの構築を可能にします。

AIインフラ業界の協力と競争関係

AIインフラ業界は、NVIDIAを中心としながらも各社が独自チップ開発を進める、競争と協力が入り混じる複雑なエコシステムを形成しています。

AIインフラ業界の競合と協力を示す相関図

AIインフラ業界は、競争と協力が入り混じる複雑な関係性で成り立っています。NVIDIAは圧倒的な市場シェアを持ちながら、AWSやGoogleなどのクラウドプロバイダーと協力関係を築いています。一方で、これらの企業は独自のAIチップ開発を進め、NVIDIAへの依存度低減を図っています。また、TSMCやBroadcomなどの半導体企業も、AIチップ開発において重要な役割を果たしています。この複雑な関係性は、技術革新と市場競争を促進する一方で、特定企業への過度の依存リスクも生み出しています。

AIインフラ市場の成長予測と今後のトレンド

生成AIの普及を背景に、AIインフラ市場は年率20%超の成長が見込まれ、特にエネルギー効率が今後の重要な鍵となります。

Grand View Research(2024年6月AIインフラレポート)、Data Bridge Market Research(2024年AIインフラストラクチャー市場予測)によると2024年の市場規模をおおよそ500〜700億米ドルと推計しています。2029年には1,500-2,000億米ドルの範囲で成長すると見込まれています。(※具体的な数値は調査機関により異なるため、最新の公式レポートをご確認ください)

特に注目されるのは、ディスアグリゲート型アプローチの採用拡大と、エネルギー効率の高いAIインフラへの需要増加です。これらのトレンドは、市場構造を大きく変える可能性を秘めています。

結論:AIインフラの未来と勝者の条件

NVIDIAの優位は当面続くものの、AWSなどの挑戦者がエネルギー効率やコストを武器に市場構造を変え、AIインフラの進化はさらに加速するでしょう。

未来的なデータセンターのAIインフラ

AIインフラ市場は、技術革新と競争の激しい領域です。NVIDIAの優位性は当面続くと予想されますが、AWSをはじめとする企業の独自チップ開発やディスアグリゲート型アプローチの台頭により、市場構造は徐々に変化していくでしょう。

今後は、エネルギー効率や柔軟性、コスト効率性がより重視され、これらの要素に優れたソリューションを提供できる企業が競争優位性を獲得すると考えられます。AIインフラの進化は、AI技術の更なる発展と普及を支える重要な基盤となるでしょう。

専門用語の解説

エコシステム (Ecosystem)
特定の企業(この文脈ではNVIDIA)が提供するハードウェア、ソフトウェア(CUDA)、サービス、開発者コミュニティなどが相互に連携し、全体として大きな価値を生み出している状況のこと。利用者は一度この環境に入ると、他社製品への乗り換えが難しくなる「ロックイン効果」も生み出します。
ディスアグリゲート (Disaggregate)
「分離する」「分解する」という意味。ITインフラにおいて、従来は一体化していたサーバーの機能(CPU, GPU, メモリ, ストレージなど)を物理的に分離し、ネットワーク経由で必要な分だけを組み合わせて利用する設計思想。リソースの利用効率を最大化できます。
DPU (Data Processing Unit)
データセンター内でCPUやGPUの負荷を軽減し、ネットワーキング、ストレージ、セキュリティなどのインフラタスクを高速に処理するために設計された専用プロセッサ。NVIDIAのBlueFieldなどが代表例です。
インファレンス (Inference)
「推論」のこと。学習済みのAIモデルを使って、新しいデータ(画像、テキストなど)に対して予測や分類、生成などの処理を行う段階を指します。AIが実際にサービスとして機能する部分です。
ワークロード (Workload)
コンピュータシステムが処理する仕事の量や種類のこと。AIの分野では、モデルの「学習(トレーニング)」や「推論(インファレンス)」が主なワークロードにあたります。
TDP (Thermal Design Power)
熱設計電力。CPUやGPUなどのプロセッサが最大負荷で動作した際に発生する熱量をワット(W)で示した値。チップの消費電力や、必要となる冷却性能の目安となります。

よくある質問(FAQ)

▶ Q1: なぜNVIDIAはAIチップ市場でこれほど強いのですか?
A1: NVIDIAの強さの源泉は、単に高性能なGPU(ハードウェア)だけでなく、「CUDA」という開発プラットフォームを中心とした強力なソフトウェアエコシステムにあります。多くの開発者がCUDAに慣れ親しんでおり、膨大なソフトウェア資産が蓄積されているため、他社がハードウェアだけで対抗するのが難しい状況です。この「ハードとソフトの両輪」が、NVIDIAの独占的な地位を支えています。
▶ Q2: AWSやGoogleなどの企業は、なぜ自社でAIチップを開発するのですか?
A2: 主に2つの理由があります。第一に、NVIDIA製GPUへの「依存からの脱却」と「コスト削減」です。自社サービスに最適化されたチップを開発することで、巨額の調達コストを抑える狙いがあります。第二に、自社のAIワークロードに特化した設計により、「電力効率」と「パフォーマンス」を最大化するためです。
▶ Q3: NVIDIAの独占は今後も続きますか?
A3: 短期的にはNVIDIAの優位性は続くと見られます。しかし、長期的には市場シェアは徐々に変化する可能性があります。AI市場全体が爆発的に成長しているため、NVIDIAの売上は伸び続ける一方で、AWSやAMDなどの競合も特定の用途でシェアを伸ばし、市場はより多様化していくと予測されます。
▶ Q4: 今後のAIインフラで最も重要になる要素は何ですか?
A4: 「エネルギー効率(ワットパフォーマンス)」が最も重要な要素の一つになります。AIモデルが大規模化するにつれて、データセンターの消費電力と運用コストが深刻な課題となっています。そのため、より少ない電力で高い性能を発揮できるAIチップやインフラ技術が、今後の競争優位性を決める鍵となります。
▶ Q5: ディスアグリゲート型アプローチとは何ですか?
A5: これは、CPUやGPUなどの計算リソースを物理的に分離し、ネットワーク経由で柔軟に組み合わせて利用する考え方です。例えば、GPUが必要なタスクにだけ、必要な数のGPUを割り当てることができます。これにより、データセンター全体のリソース使用率が向上し、無駄な投資を抑えることができるため、コスト効率の高い次世代AIインフラとして注目されています。

主な参考サイト

更新履歴

  • 最終レビュー反映、事実情報の正確性向上
  • 初版公開

以上



ABOUT ME
ケニー 狩野
中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ キヤノン株式会社にてアーキテクト、プロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを牽引。 現在の主な役職: 株式会社ベーネテック 代表、株式会社アープ 取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会 評議員 ブロックチェーン導入評価委員長などを務める。 2018年には「リアル・イノベーション・マインド」を出版。 趣味はダイビングと囲碁。