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AI革命第二章:次世代アーキテクチャの台頭

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AI革命第二章:次世代アーキテクチャの台頭

今回は、AI研究の最前線から、未来を変える可能性を秘めたホットな話題をお届けします。
私はこの数年、急成長するAI分野を追い続けてきましたが、今まさに「AI革命の第二章」が始まろうとしています。ChatGPTやMidjourneyのような対話・画像生成AIが私たちの日常を変えた「第一章」の次に来るものは何か?その答えは、AIの「脳」そのものを再設計する動きにあるんです。

これまでのAIは確かに賢いけれど、2つの大きな課題を抱えています。ひとつは「なぜそんな判断をしたの?」と聞いても答えられない「ブラックボックス問題」。もうひとつは「動かすのに莫大な電力とコストがかかる」という効率の悪さです。

でも大丈夫!今日ご紹介する「KANs」と「Flow Matching」という2つの新技術は、これらの問題に真正面から挑戦しています。難しい技術も、できるだけわかりやすく解説していきますね。

AI革命の「第二章」、その扉は今まさに開かれようとしています。このワクワクする最前線の旅に、一緒に出かけてみませんか?

なぜAIは新しい「脳」を求めるのか? – 現在の課題と次世代への期待

まず、根本的な問いから始めましょう。「なぜ、今、AIの新しい設計図が必要なのか?」

Transformerや拡散モデルをはじめとする現在の主流AIアーキテクチャは、目覚ましい成果を上げてきました。自然言語処理、画像認識、音声合成など、かつてはSFの世界だったことが次々と現実になっています。しかし、これらの成功の陰で、無視できない課題も顕在化しています。

現在のAIが直面する主要課題

ブラックボックス問題:AI判断の不透明性がもたらす信頼性の危機
現代の大規模AIモデルは、その判断プロセスを人間が理解できる形で説明できないという「ブラックボックス問題」を抱えています。
特に金融審査、医療診断、自動運転など、判断の根拠説明が必須とされる重要分野では、この不透明性が信頼性の危機を招き、AI導入の大きな障壁となっています。
説明責任を果たせないAIは、その性能がいかに優れていても、人命や重要決定に関わる現場での実用化が進まないという現実があります。次世代AIには透明性と説明可能性の向上が強く求められています。

スケーリングの壁:巨大化するAIモデルの計算コストと環境負荷
性能向上=”大規模化”には限界が見え始めました。パラメータ爆増はGPU費用と電力を押し上げ、環境負荷とコスト障壁を生んでいます。

  • コスト障壁:最先端AIの開発・運用は、豊富な資金とリソースを持つ一部の巨大テック企業に偏りがちです。
  • 環境負荷:データセンターが消費する電力は世界的に増大しており、AIの計算コスト増大はその一因となっています。持続可能性の観点からも、よりエネルギー効率の良いAIが求められています。

技術的限界

  • パラメータ効率の限界:特に、特定の数学的関係性や物理法則のような構造化された問題を学習する場合、従来のモデルではその関係性を捉えるために非効率なほど多くのパラメータを必要とすることがあります。
  • 性能向上の鈍化:モデルサイズを大きくし続けても、性能向上が飽和し始める兆候も指摘されています。単に大きくするだけではない、よりスマートなアプローチが必要です。

次世代AIへの期待

これらの課題を克服し、「より賢く(高性能)、より分かりやすく(高解釈性)、そしてより効率的に(省エネ・高速・高パラメータ効率)」動くAIを実現すること。これが、次世代アーキテクチャに課せられたミッションです。世界中の研究者たちは、AIの基本的な構造、まさに「脳の設計図」に立ち返り、これらの要求を満たす全く新しいアプローチを模索しています。

その挑戦の中で、特に大きな注目を集めているのが、今回ご紹介するKANsとFlow Matchingなのです。これらの新しいアーキテクチャを理解するために、まずは現在の主流モデルの基礎となっている、最も古典的なニューラルネットワーク「MLP」について、その基本と限界を改めて確認しておきましょう。

図解:従来のニューラルネットワーク(MLP)- 深層学習の原点とその限界

図1:従来のニューラルネットワーク(MLP)の概念図

図1:従来のニューラルネットワーク(MLP)の概念図
(図1の内容説明: この図は多層パーセプトロン(MLP)と呼ばれる従来型AIの基本構造を示しています。青い円で表された「入力層」、オレンジ色の円で示された「隠れ層」、緑の円の「出力層」という階層構造が特徴です。最も重要なのは、「点(ノード)」が計算の主役である点です。各ノードで複雑な計算処理が行われ、灰色の線(エッジ)はただ情報を伝えるだけの役割です。このアーキテクチャでは、ノード間の「重み」という数値が学習によって調整されていきます。しかし、この構造では内部の判断プロセスを追跡しにくい「ブラックボックス問題」や、高性能化には膨大な「重み」パラメータが必要になる「計算コスト問題」という限界がありました。MLPはAIの基礎を築きましたが、「説明しにくさ」と「燃費の悪さ」が課題となっています)

もう少し技術的な核心に触れると、

  • 計算の中心はノード: MLPの計算の主役はノードです。各ノードは、前の層からの入力信号に、接続エッジの重み (w) を掛けて合計し、バイアス (b) を加えた後、固定された活性化関数 f(x) (例: ReLU, Sigmoid) を適用して非線形変換を行います。(output = f(Σ(w * input + b)))
  • 学習対象は重みとバイアス: AIの学習とは、大量のデータを用いて、モデルの予測と正解の誤差を最小化するように、多数のエッジの重み (w) とノードのバイアス (b) を調整するプロセスです(バックプロパゲーションと勾配降下法)。
  • 能力と限界: MLPは「ユニバーサル近似定理」により理論上どんな関数も近似できる強力なモデルですが、その内部動作はブラックボックスとなりがちで、人間による解釈が困難です。また、複雑な関数や特定の関係性を表現するためには膨大なパラメータ(重み)を必要とし、計算コストやエネルギー消費が大きくなるというパラメータ効率の悪さも課題となっています。

このMLPの基本構造と課題、特に「ブラックボックス問題」と「パラメータ効率の悪さ」を念頭に置くと、次に紹介するKANsの革新性がより明確になるでしょう。

KANs:解釈性と効率性を高める次世代AIアーキテクチャ

さて、いよいよ本題の一つ目、KANsの登場です。
2023年にMITの研究チームによって提案されたこの新しいアーキテクチャは、AIコミュニティに大きな衝撃を与えました。その名前は、20世紀の偉大な数学者、アンドレイ・コルモゴロフとウラジミール・アーノルドに由来します。
彼らが証明した「コルモゴロフ-アーノルド表現定理」が、KANsの理論的なバックボーンとなっているからです。

この定理、非常にざっくり言うと「どんなに複雑な多変数関数(例えば )でも、実はもっと単純な一変数関数(例えば )の組み合わせ(足し算や合成)で表現できる」という、驚くべき数学的な事実を示しています。
KANsは、この定理のアイデアをニューラルネットワークの設計に大胆に取り入れたのです。

MLPとの根本的な違い:計算の主役交代!

KANsがなぜ革新的か? それは、従来のMLPとは計算のやり方が根本的に異なる点にあります。MLPでは計算の主役はノードでしたが、KANsでは計算の主役はエッジ(接続線)に移ります。
KANsの各エッジは、単なる重みではなく、学習によって形状が変化する「適応的な一変数関数」そのものとして機能します。一方、ノードの役割は非常にシンプルになり、単に接続されているエッジからの出力値を合計するだけです。

表1:MLPとKANsの比較

特徴項目 従来のMLP (Multi-Layer Perceptron) KANs (Kolmogorov-Arnold Networks)
計算の中心 ノード (ニューロン) エッジ (接続線)
ノードの役割 重み付き和の計算 + 固定された活性化関数 の適用 単純な加算 (Σ) のみ
エッジの役割 学習可能な重み (w) (単一の数値) を持つ 学習可能な一変数関数 (形状が変化) を持つ
学習対象 エッジの重み (w) とノードのバイアス (b) エッジ上の関数の形状パラメータ
活性化関数 ノードに配置 (ReLU, Sigmoidなど、固定) エッジに配置 (B-スプラインなどで表現、学習により適応)
表現効率 (目安) 汎用的だが、特定関数には多くのパラメータが必要 特に数学的構造を持つ関数に対して非常に高い効率を示す
解釈性 低い (ブラックボックス) 高い (エッジ上の関数の形状を可視化・分析可能)
理論的背景 ユニバーサル近似定理 コルモゴロフ-アーノルド表現定理
主な課題 ブラックボックス問題、パラメータ効率、勾配消失/爆発 学習時間の長さ、汎用性の検証、スケーラビリティ

KANsのメカニズムを図解

図2 新しいAI(Kolmogorov-Arnold Networks:KANs)の仕組み図2 新しいAI(Kolmogorov-Arnold Networks:KANs)の仕組み

(図2の内容説明: KANs(Kolmogorov-Arnold Networks)の革新的な点は、計算の主役が「点(ノード)」から「線(エッジ)」に変わったことです。従来のMLPとは逆に、KANsでは橙色の円で表されたノードは単純な加算処理しか行わず、オレンジ色の線(エッジ)自体が学習して形を変える「賢い関数」として働きます。各エッジには「f(x) = sin(x) + x²」のような具体的な関数形があり、学習過程でこの関数の形自体が最適化されていきます。右下の図はエッジの「関数」の形を視覚的に表現しています。KANsの特徴は、少ないパラメータで高い効率性を実現できること(小さく軽いAI)と、エッジの関数形を直接観察できるため判断プロセスが透明になる可能性(ブラックボックス問題の軽減)にあります。これにより、AIが「なぜそう判断したか」の説明が容易になる可能性があります)

KANsが実現した技術的ブレークスルーの本質

KANsがもたらした技術的なブレークスルーの本質は、ニューラルネットワークにおける計算の主役が、従来の「ノード」から「エッジ」へと劇的に移行した点にあります。このパラダイムシフトにより、AIの構造と学習プロセスが一変しました。

  • 計算の主役はエッジ: KANsの最大の特徴は、計算の中心がエッジ上にある点です。各エッジには、学習によって形状そのものが変化する一変数関数 \phi(x) が配置されています。入力信号 x は、まずこのエッジ上の関数 \phi(x) によって非線形変換を受けます。この関数 \phi(x) は、B-スプラインなどの数学的手法を用いて表現され、データに応じてその形状が柔軟かつ精密に調整されます。
  • ノードは単純加算: エッジで変換された信号を受け取るノードは、MLPで用いられた複雑な活性化関数を必要とせず、単にそれらの入力値を足し合わせる( \Sigma )だけの単純な役割を担います。これにより、計算構造がより明確になります。
  • 学習対象は関数の形状: KANsにおける学習とは、データに最適な応答を生み出すよう、各エッジ上の関数 \phi(x) の形状そのものを最適化するプロセスです。

この「計算の主役をノードからエッジ(関数)へ移す」という根本的な発想の転換が、KANsの革新的な利点の源泉となっています。

KANsの衝撃的な利点

驚異的なパラメータ効率

KANs が注目される最大の理由は 圧倒的なパラメータ効率です。
最新論文は、特定の合成関数タスクで KANs が MLP の 1/100 未満のパラメータ数でも精度を上回った と報告しています。
これは──

  • モデルを100分の1に小型化できる
  • メモリ消費と学習・推論コストを大幅に削減できる
  • GPU・電力の使用量を抑え 省エネとコスト削減を同時に実現できる
  • 資金力の限られた中小企業や研究機関、個人開発者でも 高性能 AI を扱える“民主化”を加速できる

つまり KANs は「サイズを大きくすれば精度が伸びる」という従来の常識をくつがえし、軽量・高速・高精度を同時に達成する次世代アーキテクチャとして期待されているのです。
(出典:KAN: Kolmogorov-Arnold Networks

「なぜ?」に答えられるAI:ブラックボックスへの挑戦

従来のAIの大きな問題点は「なぜそう判断したの?」という質問に答えられないこと。
でもKANsなら違います!

KANsでは、学習の結果として各エッジ上に具体的な関数の形が生まれ、それをグラフとして見える化できるんです。これにより「AIがどう考えたか」のプロセスが人間にも理解しやすくなります。

特に金融審査、医療診断、自動運転など「なぜそう判断したのか」の説明が不可欠な分野では、このメリットは計り知れません。AIの「説明責任」を果たせれば、信頼性が一気に高まり、様々な分野での実用化が加速するでしょう。

科学の進化を加速:データから新発見を生み出す可能性

KANsはデータの中から数学的な関係性やパターンを「発見」する能力に優れています。
学習した関数の形を分析することで、データの背後に隠れた物理法則や数式のヒントを得られるかもしれません。

MIT研究チームのZiming Liu氏も「物理学のモデリング改善や知識抽出のため」にKANsを設計したと説明しています。これが実現すれば…

  • 物理学、化学、生物学などで、実験データから未知の法則を発見できるかも
  • 複雑な現象を解釈しやすい関数の組み合わせで表現できるように

まだある課題:発展途上の技術だから

もちろん、まだ完璧ではありません。現時点での主な課題は:

  • 学習に時間がかかる(今後の改善が期待される分野)
  • 画像認識や自然言語処理などでの性能はまだ検証が必要
  • 大規模データセットでの効果はこれから検証
  • 実装が複雑で、使いやすいツールの開発が待たれる

でも、これらの課題は研究の進展とともに解決される可能性が高いです。
KANsが示す「関数中心」という新発想は、AIの未来に新たな扉を開きつつあります。
より効率的で、理解しやすく、そして人間の科学的探求を助ける新世代AIへの期待が高まっています!

生成AIの進化を加速する – Flow Matching

どんな技術?従来の「拡散モデル」との違い

Midjournyや安定拡散(Stable Diffusion)などで見る驚くほどリアルなAI画像、これらの多くは「拡散モデル」という技術で作られています。この方法は「ノイズ画像」からスタートして、少しずつノイズを取り除きながら、最終的に綺麗な画像を作り出します。言わば「砂嵐から一歩一歩丁寧に像を掘り出す」ようなプロセスです。

対するFlow Matchingは全く新しいアプローチ!「ノイズから完成画像までの最適な流れ(フロー)そのもの」を直接学習します。例えるなら、拡散モデルが「山頂から一歩一歩慎重に下る道筋」を学ぶのに対し、Flow Matchingは「山頂から麓までの完璧な滑り台の形」を直接設計するようなもの。

3つの大きなメリット

①シンプル&効率的な学習プロセス

Flow Matchingの理論は従来より格段にシンプル。複雑なシミュレーションステップが不要なため、実装が容易で学習も安定します。結果として、より速く、より効率的なモデル開発が可能になります。

②画像生成の品質と応用範囲の広さ

最新の「Stable Diffusion 3」がこの技術を採用しています。Stability AIの公式発表によれば、この最新モデルは拡散トランスフォーマー(DiT)アーキテクチャとFlow Matchingを組み合わせた設計になっています(出典:Stable Diffusion 3)。

この新設計により、テキストに忠実な画像生成や文字のレンダリング能力が向上しています。さらに、この技術は画像だけでなく、動画、3D、音楽、音声はもちろん、新薬開発のための分子構造生成まで、幅広い分野に応用できる可能性を秘めています。

③AIの民主化:誰でも使える最先端技術へ

シンプルで実装しやすいということは、これまで巨大テック企業しか扱えなかった最先端AI技術のハードルが下がるということ。スタートアップや個人クリエイター、研究者たちも高度な生成AI技術を活用できるようになれば、より多様なアイデアと革新が生まれるでしょう。

例えてみると?

拡散モデルとFlow Matchingの違いを日常に例えると…

拡散モデル:彫刻家が大理石から少しずつ削り出して像を作るように、ノイズから少しずつ削り取って画像を作ります。丁寧だけど時間がかかる。

Flow Matching:水が高いところから低いところへ流れる最適な経路を一度に描くように、ノイズから完成画像への「流れる道筋」そのものを学習します。一気に効率よく変換!

この新しい技術が広がれば、より速く、より高品質な生成AIの世界が私たちの身近になるかもしれません。AIクリエイティブの未来がさらに広がりそうですね!

画像生成プロセスの違い図3 画像生成プロセスの違い

(図3の内容説明:この図は画像生成AIにおける二つの異なるアプローチを比較しています。上半分の「拡散モデル」では、ノイズ画像(左)から完成画像(右)へと変換する過程で、小さなステップを何百回も繰り返し、少しずつノイズを除去していきます。これは時間と計算コストがかかるプロセスです。
一方、下半分の「Flow Matching」では、ノイズから完成画像への「最適な流れ(フロー)」そのものを学習します。オレンジ色の矢印で示された一気に滑り降りるような直接的な変換経路により、より効率的に画像を生成できる可能性があります。点線で示されたフローは、変換の過程で画像がどのように変化していくかをイメージしてます。
Flow Matchingは従来の拡散モデルと比べて、生成プロセスを効率化し、より高速かつ高品質な画像生成を実現する可能性を持っています)

Flow Matchingの課題と今後の展望

Flow Matchingもまた発展途上の技術であり、いくつかの課題や研究テーマが存在します。

生成速度:

理論的には効率的ですが、実際の生成(サンプリング)速度は、使用する数値解法(ODEソルバーなど)やモデルの設計に依存します。拡散モデルにも高速化技術が登場しているため、実用的な速度面での明確な優位性を確立するには、さらなる研究が必要です。

最適な学習戦略と定式化:

Flow Matchingには様々な定式化や学習方法が提案されており(例:条件付きフローマッチング)、どの方法が特定のタスクやデータに対して最適なのか、まだ活発に研究が進められています。

大規模モデルへの適用:

非常に大規模なモデル(例えば数千億パラメータ級)において、Flow Matchingがどのように機能し、学習の安定性や効率性がどうなるかは、今後の検証が待たれる領域です。

しかし、Flow Matchingが生成モデルの分野に新たな可能性をもたらしていることは間違いありません。そのシンプルさ、理論的な扱いやすさ、そして既に示されている高い性能と汎用性は、今後の生成AI研究開発において重要な役割を果たしていくでしょう。
拡散モデルで培われた知見とFlow Matchingの新しいアイデアが融合することで、さらに高性能で効率的な生成AIが登場する日も近いかもしれません。

図解:アーキテクチャ革新がもたらすインパクト

さて、KANsとFlow Matchingという二つの革命的技術が切り拓く未来とは? これらは単なる研究室の中の話ではありません。あなたのビジネス、私たちの経済、そして社会全体を根本から変える可能性を秘めています。今からその衝撃波がどのように広がっていくのか、具体的に見ていきましょう。あなたの業界や日常生活にどんな変化が訪れるのでしょうか?

図4:次世代AIアーキテクチャがもたらす多層的なインパクト図4:次世代AIアーキテクチャがもたらす多層的なインパクト

(図4の内容説明:この図は、KANsやFlow Matchingといった新しいAI基礎技術(中心のオレンジ円)が社会へと波及していく流れを同心円状に表現しています。その影響はまず「AIの進化」(青い円:効率化、解釈性向上、高性能化)へと広がり、次にその進化したAIが「ビジネス・経済」(左下の緑楕円:コスト削減、信頼獲得、DX加速)と「社会全体」(右下の紫楕円:科学加速、民主化、関係性変化)へと段階的に波及効果をもたらす様子を示しています。下部の時間軸は、これらの変化が徐々に広がっていくことを表しています。)

KANsとFlow Matchingが変える世界 – 波及効果の連鎖

この新技術の革命は、ドミノ倒しのように社会全体に広がっていきます。特に注目すべきは、AIの進化が単に「精度を上げる」だけでなく、「質を高める」方向へシフトしている点。効率性、解釈性、信頼性、そしてアクセシビリティという4つの要素が重視されるようになります。

この変革の波は、AI自身から始まり、ビジネス・経済を経て、社会全体へと広がっていきます。

1. AI自身の進化:より賢く、効率的で、分かりやすく

まず最初に変わるのはAI自身です。

❶効率性の大幅向上(コスト削減と省エネ)

KANsが示す驚異的なパラメータ効率(従来の1/100以下で同等性能!)とFlow Matchingの学習効率向上により、AI開発・運用に必要なGPUや電力が激減します。これはAIモデルの小型化やメモリ使用量削減にもつながり、中長期的には環境負荷低減にも貢献するでしょう。

❷解釈可能性の向上(ブラックボックス問題への挑戦)

従来のAIの最大の課題「ブラックボックス問題」。KANsなら学習された関数を可視化できるため、「なぜそう判断したのか」を人間が理解しやすくなります。金融、医療、自動運転など高い説明責任が求められる分野では、これが決定的に重要です。AIへの信頼性向上につながる大きな一歩と言えるでしょう。

❸生成能力の進化と民主化

Flow Matchingは高品質な生成能力を維持しつつ、学習プロセスをシンプル化します(Stable Diffusion 3でも採用済み)。これにより、巨大テック企業だけでなく、スタートアップや個人クリエイターなど、より多くの人が最先端AI技術を扱えるようになります。

2. ビジネス・経済への波及:競争ルールの変化

次に波及するのは、ビジネスの現場と経済構造です。

❶新たな事業機会の爆発的創出

説明可能なAIの登場で、金融、医療、法務など規制の厳しい産業でも革新的サービスが生まれやすくなります。また、アクセスしやすい生成AI技術は、クリエイティブ産業、教育、製品設計などの分野で、これまでにないビジネスモデルやイノベーションを加速させるでしょう。

❷市場構造への影響

AIの効率化は業界の勢力図も変えます。GPUメーカーへの依存度変化や、新しい計算原理に適したAIチップの需要増、そして新アーキテクチャ対応ツールを提供する企業の台頭など、AIエコシステム全体に構造変化が起きる可能性があります。投資家はここに大きなチャンスを見出すかもしれません。

❸AI活用の民主化による競争環境の変化

開発・運用コストの低下で、これまで大企業だけが独占していた最先端AIが中小企業やスタートアップにも手が届くようになります。この「AI民主化」が市場に新たな競争軸をもたらし、業界地図を塗り替える可能性も。経営層は早めにこのトレンドを捉え、自社のDX戦略に組み込むことが重要です。

3. 社会全体へのインパクト:未来の形を変える力

最終的に、これらの技術革新は社会や科学技術のあり方にも影響します。

❶科学的発見の加速

特にKANsは、データから数学的関係性や物理法則を「発見」する能力に優れています。物理学、化学、生物学などの分野で、実験データから未知の法則を見つけ出す強力なパートナーとなるでしょう。

❷AIと人間の関係性の変化

「理由が分からない魔法の箱」から「理解可能な信頼できるツール」へ。解釈可能なAIの登場で、過度な期待や恐怖ではなく、より建設的で現実的なAIとの関係が築けるようになります。

❸AIリテラシーと社会基盤整備の必要性

技術が進化する中、AIの仕組みや可能性・限界を社会全体が理解することがますます重要に。また、説明責任、著作権、アルゴリズムのバイアスなど、倫理的・法的課題についても、技術進歩と並行した議論と合意形成が必要になります。

KANsとFlow Matchingは、AIが直面する本質的な課題に挑む有望な試み。広く普及するにはまだ時間がかかるかもしれませんが、そのポテンシャルは計り知れません。AI革命の第二章は、静かに、しかし確実に始まっているのです。

結論:AI革命、いよいよ第二章へ!

AIの歴史は今、大きな転換点を迎えています。ChatGPTやStable Diffusionのような技術が切り拓いた「第一章」は確かに世界を変えました。でも、その成功の影で「なぜそう判断したの?」という説明ができないブラックボックス問題や、「もっと大きく、もっと多く」と資源を食いつぶす効率の悪さという課題も見えてきました。

この記事で紹介した2つの新技術が、まさにAI革命「第二章」の主役候補です。

KANsは、AIの「頭脳」を根本から作り直すことで、判断の理由が説明できて、しかも少ないパラメータで高性能を実現する可能性を示しています。これが実現すれば、医療や金融など「なぜ」が重要な分野でもAIがもっと活躍できるようになります。

Flow Matchingは、生成AIの仕組みをよりスマートに再設計することで、美しい画像や音楽をより速く、より効率的に生み出せる道を開いています。この技術は、クリエイティブなAIをより多くの人が使えるようにする可能性を秘めています。

これらの技術が示す方向性は明確です。AIはただ「賢い」だけでなく、「効率的」で「わかりやすく」「信頼でき」「誰でも使える」ものへと進化しようとしています。

もちろん、これらはまだ発展途上の技術です。でも、その可能性は計り知れません。AIの未来は、私たちが思っているよりも早く、これらの技術によって書き換えられ始めているのです。

さあ、AI革命の第二章、その幕は確実に上がり始めています。この新しい波に乗り遅れないようにしましょう!


参考文献(代表的なもの)

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。