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人工知能

AI規制とは?日本は本当に緩いのか――EU・米国・中国との違いと企業対応【2026年版】

最終更新:
※本記事は継続的に最新情報へアップデートしています。

ある日、採用選考AIが一人の応募者を落とした。本人は理由を知らず、人事担当者もAIの判断根拠を説明できない。そのとき、責任を負うのはAIを開発した会社か、導入した企業か、それとも、その結果を採用判断に使った人間なのか。

その答えは、国境を越えた瞬間に書き換わる。「日本は巨額の制裁金がないから緩い」――その理解は半分だけ正しい。企業の前には、AI法だけでは読み解けない複雑な「規制地図」が、すでに広がっている。

本記事では、その地図を国別制度の一覧として眺めるのではなく、自社のAIをどこまで動かし、どこで人が止め、誰が責任を引き受けるのかという実務の物語として読み解く。

✅ 先に結論

AI規制は、AI利用を一律に止める制度ではありません。人の権利、安全、生活への影響に応じて、開発・提供・利用の責任を変える仕組みです。

  • 日本:AI法を中心に、個人情報保護法、著作権法、業法、行政指針を重ねて判断します。
  • EU:EU AI Actによって、禁止行為、透明性、汎用AI、高リスクAIの義務が段階的に適用されます。
  • 米国:連邦政策はイノベーションを重視しますが、既存法、州法、分野別規制、訴訟上の責任は残ります。
  • 中国:生成AI、推薦、深度合成、生成コンテンツ表示、擬人化対話などを用途別に規律しています。
  • 企業の第一歩:法律一覧の作成より先に、AI台帳を作り、用途・対象者・データ・判断への影響を可視化します。
この記事の著者・監修者 ケニー狩野(Kenny Kano)
Arpable 編集部(Arpable Tech Team)
株式会社アープに所属するテクノロジーリサーチチーム。人工知能の社会実装をミッションとし、最新の技術動向と実用的なノウハウを発信している。役職(株)アープ取締役。Society 5.0振興協会・AI社会実装推進委員長。中小企業診断士、PMP。著書『リアル・イノベーション・マインド』▶ 詳細情報

AI規制とは何か――なぜ必要なのか

AI規制とは、技術そのものを禁じる制度ではなく、利用目的と人への影響に応じて責任を配分する仕組みである。

AIは、同じモデルでも使い方によってリスクが変わります。社内文書を要約するAIと、採用候補者を選別するAIでは、誤りが起きたときの重さが同じではありません。

迷惑メールを誤って振り分けても、多くの場合は元へ戻せます。しかし、融資、採用、医療、教育、社会保障でAIが誤った判断をすれば、本人の生活や将来へ長く影響します。

AI規制の核心は「AIを使ったか」ではなく、「誰に、どの場面で、どれほど回復しにくい影響を与えるか」を問うことです。

規制が必要なのは、AIの判断が見えにくく、誤りが一気に広がり、本人がその評価に気づきにくいからです。さらに、モデル提供者と導入企業の責任が分かれ、国境を越えれば複数のルールが重なります。

法律名を覚えるだけでは足りません。企業は、利用目的、対象者、使用データ、判断の可逆性、人間による監督、停止権限を一つの流れとして設計する必要があります。

日本は本当にAI規制が緩いのか

日本は包括的な禁止・制裁中心ではなく、AI法と既存法、行政指針を重ねて統制する多層型の制度である。

日本企業が最初に向き合うのは、AI法の制裁ではありません。AIが扱った個人情報と、AIへ委ねた業務判断です。

日本のAI法は、2025年6月4日に公布・一部施行され、同年9月1日に全面施行されました。正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」です。

EU AI Actのように、AIシステムを分類して企業へ詳細な適合義務と制裁金を直接課す法律ではありません。AIの研究開発・活用を推進しつつリスクへ対応する基本的な枠組みを定め、企業の具体的な対応は既存法や行政指針と重ねて判断する構造です。

2026年7月14日には、人工知能基本計画の第Ⅱ期が閣議決定されました。AIの進歩に合わせて、国の計画や指針も継続的に見直されます。

ここだけを見ると、日本は「緩い」と映ります。しかし、一つのAI利用に複数の法律が重なることを忘れてはいけません。

日本企業のAI利用に重なる主なルール
論点 主な法令・規律 確認すること
個人データ 個人情報保護法 取得目的、第三者提供、AI学習、生体情報、子どもの情報
学習素材・生成物 著作権法、不正競争防止法、契約 学習利用、類似生成、営業秘密、ライセンス条件
消費者への表示 景品表示法、消費者契約法、業法 誤認表示、AI利用の表示、説明内容、勧誘方法
採用・労務 労働法制、公正採用の考え方 評価項目、差別・バイアス、人間による再確認
医療・金融・交通 各分野の業法・安全規制 認可、品質、安全性、説明責任、継続監視
※代表的な論点を整理したものであり、個別のサービスには別の法令、契約、業界規則が適用される場合があります。

個人データ、AI学習、顔特徴データ、子どもの情報については、2026年改正個人情報保護法と重ねて判断する必要があります。

日本は「AIだけを対象にした事前義務や制裁が比較的限定される」という意味ではEUより柔軟ですが、「AIなら自由に使える」という意味ではありません。

EU AI Actは誰に、いつから適用されるのか

EU AI Actは、AIの用途とリスクに応じて禁止・透明性・高リスク義務を段階的に適用する法的拘束力の強い制度である。

EU市場へ製品を出した瞬間、AIは単なる便利な機能ではなく、説明・記録・監督すべき規制対象へ変わる可能性があります。

EU AI Actは2024年8月1日に発効しました。AIの提供者と導入者に対し、用途とリスクに応じた義務を課す包括的な法的枠組みです。

重要なのは、すべての規定が同じ日に適用されるわけではないことです。

EU AI Actの主な適用時期
適用時期 主な規定 企業の確認事項
2025年2月2日 禁止されるAI行為、AIリテラシー 禁止用途の停止、関係者への教育
2025年8月2日 ガバナンス、汎用AIモデルの義務 透明性、著作権、安全・セキュリティ対応
2026年8月2日 Article 50の透明性義務が原則適用開始 AIとの対話表示、生成・合成コンテンツの識別・表示
2027年12月2日 生体認証、重要インフラ、教育、雇用など一部の高リスク規則 リスク管理、データ品質、ログ、文書、人間監督
2028年8月2日 規制対象製品に組み込まれる高リスクAI 製品安全規制との統合、適合性評価
※2026年7月時点の欧州委員会資料に基づきます。Article 50は2026年8月2日から適用されます。2026年8月2日以前に市場投入された一部の生成AIシステムについては、Article 50(2)のマーキング・検出義務に限り、2026年12月2日までの限定的な経過措置が予定されています。最新の法令・ガイドラインを確認してください。

EU AI Actの4段階リスク分類

EU AI Actは、AIを「許容できないリスク」「高リスク」「透明性リスク」「最小または無リスク」に整理します。

禁止対象には、有害な操作、社会的スコアリング、一定の感情認識、顔認識データベースを作るための無差別な画像収集などが含まれます。

高リスクAIでは、リスク評価、データ品質、ログ、技術文書、利用者への情報、人間による監督、堅牢性、サイバーセキュリティ、正確性などが求められます。

図 EU AI Actの高リスクAI分野マップEU AI Actの4段階リスク分類を示すインフォグラフィック。上から順に「禁止AI」「高リスクAI」「限定リスクAI」「最小リスクAI」の4層で構成され、それぞれに代表例と企業に求められる対応を表示。禁止AIは社会的スコアリングや一部の生体識別用途、高リスクAIは採用・教育・医療・重要インフラ、限定リスクAIはチャットボットや生成AIの透明性表示、最小リスクAIは一般的な補助AIを例示。右側には案内役の女性ビジネスパーソン、下部には「重要なのはAIそのものではなく、用途と影響の大きさ」という要旨を配置した解説図。

日本企業にも及ぶ域外適用とブリュッセル効果

EUに本社や拠点がなくても、EU市場へAIシステムを提供する場合や、AIの出力がEU域内で利用される場合には、適用対象となる可能性があります。

さらに企業は、市場ごとに異なる設計を維持するより、厳しいEU基準を世界共通仕様として採用することがあります。この結果、EUのルールが域外にも広がり、事実上の世界標準になる現象がブリュッセル効果です。

ただし、規制負担は企業規模によって同じではありません。大企業は文書化や監査の体制を整えやすい一方、スタートアップや中小企業には人材、費用、市場投入速度の負担が重くなります。

EU対応の本質は、EU向けの書類を増やすことではなく、開発段階から説明・記録・停止を組み込む「コンプライアンス・バイ・デザイン」へ移ることです。

高リスクAIで求められる判断根拠と説明可能性については、XAIと因果AIの実践ガイドで詳しく解説しています。

ここまで読むと、EUだけが特別に厳しく、米国では自由にAIを使えるように見えるかもしれません。しかし、規制の条文が少ないことと、企業の責任が軽いことは同じではありません。

米国はAI規制を撤廃したのか

米国は連邦一律の事前規制より競争力と導入促進を重視するが、既存法・州法・分野別規制による責任は残る。

「規制を減らす」という政策の下でも、AIが差別や損害を生めば、企業の責任まで消えるわけではありません。

米国では、2025年1月23日の大統領令でAI開発・導入を妨げる規制障壁の見直しへ転じ、同年12月11日には州ごとに異なるAI規制を問題視し、全国的な政策枠組みを重視する方針を示しました。さらに2026年6月2日の大統領令では、AIイノベーションを維持しながら、連邦政府、重要インフラ、国家安全保障分野のサイバー防御とAIリスク管理を強化する方向が打ち出されました。

しかし、包括的な一つの法律がないことと、責任がないことは同じではありません。

  • 消費者保護・差別禁止・プライバシー法は、AIを使った場合にも適用される
  • 金融、医療、雇用、交通などの分野別規制は、用途ごとに事業者を規律する
  • 州法は地域によって異なり、連邦政策との関係も変化する
  • 契約責任、製造物責任、不法行為責任など、事故後の責任は残る
  • NIST AI RMFは任意だが、リスク管理や調達の共通言語として利用される

米国のアプローチは、政府が事前に一律のリスク分類を行う形式ではなく、既存法、分野別監督、自主的フレームワーク、そして市場と訴訟を通じて規律を維持するモデルです。

米国で事業を行う企業は、「包括法がないから対応不要」と判断するのではなく、用途ごとに適用法と州差を調べる必要があります。

中国のAI規制は何が違うのか

中国は包括法一つで統制するより、生成AI、推薦、深度合成、表示、擬人化対話を用途別に規律する行政主導型である。

中国で問われるのは、AIが何を判断したかだけではありません。何を生成し、誰へ届け、社会へどのような影響を与えたかです。

中国では、2023年8月15日から「生成式人工智能服務管理暫行弁法」が施行され、中国国内の公衆へ生成AIサービスを提供する事業者を対象に、訓練データ、個人情報、違法コンテンツ、安全評価、アルゴリズム届出などを規律しています。

2025年9月1日には「人工智能生成合成内容標識弁法」が施行され、AIで生成・合成したテキスト、画像、音声、動画などについて、利用者が認識できる明示表示と、ファイル内部のメタデータ等による暗黙表示が求められるようになりました。

さらに2026年7月15日には「人工智能擬人化互動服務管理暫行弁法」が施行され、人格やコミュニケーションを模倣して感情的な対話を行うAIサービスについて、未成年者保護、依存・誘導、個人情報、安全評価などの規律が導入されました。

中国の特徴は、国家安全、社会秩序、コンテンツ管理、個人情報保護、産業振興を一体で扱うことです。EUのような横断的リスク分類とは異なり、サービス形態や技術用途ごとの規則が積み上がります。

中国向けサービスでは、利用規約を翻訳するだけでは足りません。中国国内の公衆向け提供に該当するか、アルゴリズムやモデルの届出、安全評価、生成物表示、データ越境、コンテンツ管理を確認する必要があります。

日本・EU・米国・中国のAI規制を比較する

AI規制の地図を示すインフォグラフィック。中央に採用選考AIの判断画面があり、そこからEU「事前規制・高リスク義務」、米国「州法・分野別規制」、日本「AI法+既存法」、中国「用途別・行政主導」の4地域へ矢印が伸びる。下部には企業共通の対応として「説明」「人間による監督」「停止・記録」の3項目を配置。右側には規制地図を案内する女性ビジネスパーソンが立ち、下部の帯には「誰が説明し、誰が止め、誰が責任を負うのか」と書かれている。

四地域の違いは規制の強弱ではなく、誰がどの時点で責任を負い、何を証明するかという設計思想にある。

EUは事故が起きる前にガードレールを設置し、米国は走行の自由を広く残しながら、既存法や用途別ルール、事故後の責任で規律します。中国は走行区域と通行方法を行政が細かく定め、日本は共通の進行方向を示しながら、既存の交通法規を組み合わせます。

どの国もAIを止めようとしているのではありません。ただし、誰が道路を設計し、誰が運転を監督し、事故の責任を負うかが異なります。

日本・EU・米国・中国のAI規制アプローチ比較
比較軸 日本 EU 米国 中国
基本思想 推進とリスク対応の両立 基本権・安全を守るリスクベース規制 競争力・導入促進と用途別責任 発展と安全、社会秩序の統合
中心制度 AI法、基本計画、指針、既存法 EU AI Act 大統領令、既存法、州法、分野別規制 用途別行政規則、届出、安全評価
企業負担 複数法令の横断判断 分類、文書、ログ、適合性、監視 州差、訴訟、分野別ルール 届出、表示、内容・データ管理
実務上の注意 「罰則が弱い=自由」ではない 域外適用と段階施行 包括法不在でも責任は残る 国内公衆向け提供の該当性
※2026年7月24日時点の公表資料を基にArpable編集部が整理。各国・地域の制度は継続的に更新されます。

グローバル企業は、国ごとに別々のガバナンスを作るより、AI台帳、リスク分類、データ・著作権確認、テスト、ログ、人間監督、生成物表示、委託先との責任分界、停止手順を共通基盤として持つ方が運用しやすくなります。

四つの規制地図を並べても、自社が何をすべきかはまだ決まりません。次に必要なのは、国を見ることではなく、自社のAIが誰の人生へ触れているかを見ることです。

自社AIが高リスクかをどう判断するか

自社AIが高リスクかを判断する6つの質問を整理した図。中央に「このAI導入、本当に通常承認でよいか?」という問いがあり、その周囲に「誰へ影響するか」「何を決めるか」「どのデータを使うか」「判断を覆せるか」「誤りはどこまで広がるか」「誰が止めるか」の6項目が配置されている。下部には「1つでも重大な懸念があれば追加審査へ進む」という結論と、AIエージェント型AIや契約・取引関与時の注意点が補足されている。

高リスク判断はモデル名や業界名ではなく、用途、対象者、データ、決定への関与、被害の回復可能性で行うべきである。

同じ生成AIでも、社内文書の下書きに使うのか、採用候補者を自動選別するのかで、企業が負う責任の重さは一変します。

条文や専門用語の暗記に時間を使う前に、現在稼働しているAIと導入を検討しているAIを、次の6つの問いで点検してください。

  1. 誰へ影響するか:従業員、応募者、患者、児童、消費者など、保護が必要な人を含むか
  2. 何を決めるか:採用、融資、診断、教育、価格、保険、処遇など重要な判断へ使うか
  3. どのデータを使うか:個人情報、要配慮情報、生体情報、機密情報、著作物を扱うか
  4. 判断を覆せるか:人間が確認し、本人が異議を申し立て、修正できるか
  5. 誤りはどこまで広がるか:一人のミスで終わるか、多数へ自動的に反復されるか
  6. 誰が止めるか:異常を検知し、権限を停止し、影響範囲を確認できる責任者がいるか

一つでも重大な懸念があれば、通常のIT導入と同じ承認では不十分です。法務、情報セキュリティ、データ、業務責任者を含む追加審査へ進めます。

AIエージェントが外部送信、購入、データ変更、システム操作を行う場合は、規制要件をID、最小権限、人間承認、監査ログ、停止機能へ変換する必要があります。具体的な技術統制は、AIエージェントセキュリティとMCP・A2A時代の安全設計で整理しています。

また、AIが契約や取引に関与する場合、「AIが勝手に実行した」という説明では責任を回避できません。権限と契約上の責任分界については、Agentic AIの契約責任とAlignmentを参照してください。

NIST AI RMFを規制対応へどう使うか

NIST AI RMFを規制対応へどう使うかを示した図。左側に「法律・ガイドラインが示す要求」、中央に「NIST AI RMF 1.0」、右側に「企業の実務運用」が配置されている。中央には4つの基本機能として「GOVERN」「MAP」「MEASURE」「MANAGE」が循環する形で示され、それぞれに「方針・責任・監督体制」「利用状況・影響・リスク把握」「正確性・バイアス・安全性・説明可能性の測定」「優先順位付け・軽減・停止・改善」が対応している。下部には、EU AI Actなどの規制要求を、責任者の設定、用途台帳、評価テスト、停止条件やログ管理へ落とし込む流れが整理されている。

NIST AI RMFは法律ではないが、各国規制を日常のリスク管理へ落とし込む共通プロセスとして有効である。

NIST AI Risk Management Framework 1.0は、AIリスクを管理するための任意フレームワークです。法律でも認証制度でもありません。

それでも実務で効くのは、法令やガイドラインが求めるリスク管理を、現場で回せる4つの運用プロセスへ翻訳できるからです。

  • GOVERN:方針、責任、文化、権限、監督体制を定める
  • MAP:利用状況、影響を受ける人、リスクと便益を把握する
  • MEASURE:正確性、バイアス、安全性、説明可能性を測定する
  • MANAGE:優先順位を決め、軽減、停止、改善を行う

例えばEU AI Actがログ、人間監督、リスク管理、文書化を求めるなら、GOVERNで責任者を決め、MAPで用途を特定し、MEASUREでテストし、MANAGEで残余リスクと停止条件を管理します。

法律は「何を守るべきか」を示し、NIST AI RMFは「組織でどう回すか」を示す。両者は競合ではなく、役割の異なる道具です。

枠組みを理解しただけでは、AIは安全になりません。会議室の原則を、台帳、審査、ログ、停止条件へ変えるところから、企業の本当の仕事が始まります。

企業が90日で整えるAI規制対応

最初の90日で完成した制度を作る必要はなく、AI台帳・リスク分類・責任者・停止条件を先に整えるべきである。

1〜30日:AIの所在と用途を可視化する

  • 自社開発、SaaS、組込み機能を含むAI台帳を作る
  • 利用部門、目的、対象者、データ、モデル、委託先を記録する
  • 採用、医療、金融、教育、生体認証など高影響用途を優先抽出する
  • 生成物を外部公開する業務と、AIが外部操作する業務を分ける

31〜60日:判断基準と責任分界を作る

  • 低・中・高リスクの社内分類基準を定める
  • 禁止、条件付き許可、人間承認必須の利用を決める
  • モデル提供者、開発者、導入部門、利用者の責任を分ける
  • 個人情報、著作権、セキュリティ、業法の確認票を作る
  • 事故時の報告、停止、影響調査、再開の責任者を決める

AI生成物の表示やなりすまし対策は規程だけでは完結しません。本人確認、送金、契約、広報フローまで含む防御は、ディープフェイク対策2026で詳しく解説しています。

61〜90日:審査・監視・教育を小さく運用する

  • 重要案件を2〜3件選び、審査ゲートを試行する
  • 精度、バイアス、セキュリティ、説明可能性の評価項目を定める
  • ログ、モデル変更、データ更新、委託先変更を監視する
  • 経営層と現場向けに役割別のAIリテラシー教育を行う
  • 審査期間、手戻り、インシデント、例外申請を測定して改善する

重要なのは、最初から巨大な委員会や規程集を作ることではありません。使われているAIを把握し、高影響な案件だけを確実に止め、問い直せる仕組みを先に動かすことです。

一次情報から決まったこと・未確定なこと

制度の方向性と主要日程は確定している一方、ガイドライン、標準、改訂版フレームワークには未確定部分が残る。

2026年7月24日時点の確定事項と継続確認事項
区分 内容
確定 日本のAI法は2025年9月1日に全面施行済み
確定 人工知能基本計画の第Ⅱ期は2026年7月14日に閣議決定
確定 EU AI Actの禁止行為・AIリテラシー、汎用AIモデル規則は適用済み
確定 EUのArticle 50透明性義務は2026年8月2日から原則適用開始(一部の既存システムには限定的な経過措置あり)
継続確認 EU高リスクAIの最終法令、整合規格、個別分類ガイドライン
継続確認 米国の連邦政策と州法の関係、分野別ガイダンス
継続確認 NIST AI RMF 1.0の改訂内容と公開時期
継続確認 日本の適正性確保指針や各省庁・業界の具体的運用
※施行日だけで対応を判断せず、自社用途、適用地域、契約関係、最新ガイドラインを確認してください。

まとめ――規制地図を持つ企業だけが前へ進める

AI規制への対応力とは、法律を暗記する力ではなく、用途ごとの影響を見抜き、説明・監視・停止できる組織能力である。

冒頭の採用選考AIが、一人の応募者を落とした場面をもう一度考えてみてください。

AIの利用目的を記録し、評価項目を検証し、人間が判断を見直す。さらに、本人が異議を申し立てられる運用が整っていれば、AIは人を不透明に選別するブラックボックスではなく、人間の意思決定を支える道具になります。

反対に、誰も説明できず、誰も止められず、責任の所在も分からないなら、どれほど高性能なAIでも、企業は安心して走らせ続けられません。

EUはリスク分類と法的義務、米国は競争力と用途別責任、中国は行政主導の用途別統制、日本は推進の枠組みと既存法の重ね合わせを選びました。制度は違っても、企業へ突き付ける問いは共通しています。

そのAIは誰に影響し、何を決め、どのデータを使い、誤ったときに誰が説明し、誰が止めるのか。

規制は単なるコストではありません。医療、金融、公共、雇用など、信頼が市場参入条件になる領域では、説明でき、監視でき、必要なときに止められるAIが競争優位になります。

AI規制は、AIを止めるブレーキではありません。人を置き去りにせず、AIを遠くまで走らせるための地図です。

専門用語まとめ

各国制度の違いを理解するため、AI法、EU AI Act、汎用AI、NIST AI RMFなどの主要用語を整理する。

日本のAI法
正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」。AIの研究開発・活用を推進しつつ、リスクへ対応する基本的枠組みを定めます。
EU AI Act
AIの用途とリスクに応じて、禁止行為、高リスク義務、透明性義務、汎用AIモデルの規律などを定めるEUの包括的なAI規則です。
汎用AIモデル(GPAI)
幅広い用途に利用でき、多様な下流システムの基盤となるモデルです。EU AI Actでは透明性、著作権、安全性等の義務が設けられています。
NIST AI RMF
米国NISTが策定した任意のAIリスク管理フレームワークです。GOVERN、MAP、MEASURE、MANAGEの4機能で継続的にリスクを管理します。
ブリュッセル効果
EUの市場ルールがグローバル企業の共通仕様として採用され、EU域外へ事実上の世界標準として波及する現象です。

参考文献 / 出典

制度内容と施行時期は、日本・EU・米国・中国の政府機関およびNISTの一次情報を中心に確認している。

規制を企業へ実装するには、全社運営、標準化・教育、案件ポートフォリオ管理を役割分担する必要がある。

補足Q&A

「日本は緩いのか」「中小企業にも必要か」「何から始めるか」という検索者の主要な疑問を補足する。

Q1.
日本のAI規制はEUより緩いのですか?

A1. 包括的な事前義務と制裁の強さではEUより柔軟ですが、AI利用が自由という意味ではありません。

日本ではAI法に加え、個人情報保護法、著作権法、消費者保護、労働法制、業法、契約を重ねて判断します。EU市場へ提供するサービスにはEU AI Actが関係する可能性もあります。

Q2.
中小企業にもAI規制対応は必要ですか?

A2. 専任部門は必須ではありませんが、利用目的・データ・責任者を把握する最低限の管理は必要です。

AI台帳を作り、高影響用途だけを追加審査する軽量な仕組みから始めます。すべてのAIへ同じ重い審査を課すと、現場がルールを避けてシャドーAIへ流れるおそれがあります。

Q3.
AI規制対応では、最初に何をすべきですか?

A3. 規程の作成より先に、社内で使われているAIと利用目的を棚卸ししてください。

AI台帳に利用部門、用途、対象者、データ、モデル・サービス、委託先、人間承認、停止責任者を記録します。現状が見えなければ、どの法律を確認すべきかも判断できません。

更新履歴

各国のAI制度、適用時期、ガイドライン、企業実務の変化に応じ、主要な改版内容を記録する。

  • 2026年7月24日:日本・EU・米国・中国のAI規制比較、最新適用時期、NIST AI RMF、90日ロードマップを反映し全面改版
  • 2025年6月30日:EU AI ActとNIST AI RMFを中心に更新
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ケニー 狩野
ケニー狩野(Kenny Kano)は、AI社会実装・技術経営・ITコンサルティングを専門とする経営者・監修者。株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会 AI社会実装推進委員長。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、キヤノンで国内外の開発や中国・インド・オーストラリアを含むオフショア案件を牽引。独立後はAI社会実装支援に従事し、Arpableで人工知能・先端技術分野の記事を約2年間で約300本監修。中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ。著書『リアル・イノベーション・マインド』。実務と経営を橋渡しする。