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DMAとは?2025年版ビッグテック規制の全貌を解説

この記事は、経営層・調査担当者の方へ、デジタル市場法(DMA)の全体像、指定企業、規制内容、そしてビジネスへの影響まで、最新情報と実例で徹底解説します。

執筆者からひと言

こんにちは。30年以上にわたるITエンジニアとしての現場経験を基に、AIのような複雑なテーマについて「正確な情報を、誰にでも分かりやすく」解説することを信条としています。この記事が、皆さまのビジネスや学習における「次の一歩」のヒントになれば幸いです。

欧州デジタル市場法(DMA)の基本目的と仕組み

本章では、巨大テック企業(プラットフォーマー)を規制する欧州のデジタル市場法(DMA)の基本的な目的と、公正な競争を目指すその仕組みを解説します。

欧州デジタル市場法(DMA)は、巨大テック企業による市場支配を抑制し、公正な競争環境を実現するために2024年3月7日に全面適用が開始されたEU法です。

その目的は、消費者に多様な選択肢を提供し、中小企業が競争に参加できる公平な市場を構築することにあります。この法律は、特定の基準を満たす巨大プラットフォーム事業者を「ゲートキーパー」として指定し、自己優遇や競合排除といった行為を制限します。

👨‍🏫 かみ砕きポイント

DMA(Digital Markets Act)は市場のルールを変更する「新しいルールブック」のようなものです。
例えば、巨大プラットフォーム企業が自社のエコシステム内で独自の優位性を持つ状況です。 例えるとスポーツリーグで長年支配的だったチームに新たな制約を課すようなものと考えると分かりやすいでしょう。これにより、リーグの勢力図が変わる可能性がありますが、同時に、そのチームが築き上げてきた効率性や革新性が損なわれるリスクもあります。DMAは、競争環境を変えることで新たな可能性を開く一方で、既存のビジネスモデルに大きな変革を迫る法律といえます。

ゲートキーパーの定義と最新の指定状況

【2025年8月4日時点】DMAの中核概念である「ゲートキーパー」の定義と、欧州委員会の発表に基づく最新の指定企業・サービスについて解説します。

ゲートキーパーとは?

「ゲートキーパー」とは、市場で大きな影響力を持つプラットフォーム事業者を指します。指定されるためには以下の条件を満たす必要があります:

  • 年間売上高が75億ユーロ以上、または時価総額が750億ユーロ以上。
  • EU域内で4500万人以上のアクティブユーザー。
  • 1万人以上のビジネスユーザー。

当初の指定は2023年9月に6社22サービスでしたが、その後サービスの追加・解除がありました。

  • 2024年4月: AppleのiPadOSが追加(計23サービス)
  • 2024年5月: Booking.comが追加(計24サービス)
  • 2025年4月: MetaのFacebook Marketplaceが指定解除

これにより、現在は合計23サービスが対象です。(出典: European Commission DMA公式サイト)

ゲートキーパーに課せられる義務

ゲートキーパーには以下の義務が課されます:

  • 自己優遇の禁止(自社製品を他社製品より優遇しない)。
  • データポータビリティの確保(ユーザーがデータを他サービスに容易に移行できるようにし、乗り換えの障壁を下げる)。
  • 競合サービスの利用制限禁止(いわゆる「アンチステアリング条項」の撤廃)。

👨‍🏫 かみ砕きポイント

これらの義務は「大規模ショッピングモールに対する新しい運営ルール」のようなものです。
自己優遇の禁止は、モール運営会社が自社ブランドの店舗を最も目立つ場所に配置することを制限するようなもの。
データポータビリティの確保は、顧客が「異なるモール間で自由にポイント情報を移行できる」ことに似ています。
競合サービスの利用制限禁止は、フードコートで「他の店のテイクアウトを持ち込んで食べることを許可する」ようなものです。
これらは顧客の選択肢を増やしますが、既存のビジネスモデルに影響を与えます。

DMAとGDPRの違い

DMAが競争促進を目的とするのに対し、GDPR(一般データ保護規則)は個人情報保護を目的としています。これらの法律は補完関係にあり、企業は両方を遵守する必要があります。

各社の対応とDMA違反第一号の制裁金

DMA施行後、各社は対応を進めていますが、初のDMA違反に対する制裁金も科されました。その具体的な影響を解説します。

2025年4月23日、欧州委員会は初のDMA非遵守決定を下し、Appleに5億ユーロ(反ステアリング違反)、Metaに2億ユーロ(“同意か支払か”モデル違反)の罰金を科しました。(出典: The Washington Post 2025/04/23報道)。なお、これは2024年3月にAppleがDMAとは別の競争法違反で科された18億ユーロの制裁金とは異なるものです。

Appleの対応

AppleはDMAの規制に対応して、EU圏内で以下の重要な変更を実施しています:

  1. サードパーティアプリストアの許可
  2. Webkit以外のブラウザエンジン利用の承認
  3. 代替課金システムの導入

これらの変更は、アプリ開発者にとってコスト削減のメリットをもたらす一方、Apple自身の収益モデルには大きな影響を及ぼす可能性があります。

Googleの対応

Googleは、DMAへの対応として以下の措置を講じています:

  1. Android上で外部課金APIを整備
  2. EU圏内ユーザーへのデータ利用オプションを提供
  3. 検索エンジン事業での調整(自社サービス優遇の抑制)

これらの対応は、DMAが目指す公正な競争環境の実現に向けた重要なステップとなっています。

Amazonの対応

Amazonはマーケットプレイス事業において、自社製品を優遇しているとの指摘を受け、アルゴリズムの見直しを進めています。具体的には、検索結果のランキングシステムを改善し、サードパーティー製品が公平に表示されるようにする動きがあります。

Meta(旧Facebook)の対応

Metaは、DMAの規制に対応するため、SNSプラットフォーム上でのデータ利用に関する重要な変更を実施しています。具体的には、FacebookとInstagramのアカウント連携解除オプションを追加し、ユーザーは両プラットフォームのデータを分離して管理することが可能になりました。

Microsoftの対応

Microsoftは、ビジネス向けクラウドサービスの分野でDMAの影響を受けています。同社は、競合他社が自社プラットフォームで公平にサービスを提供できるよう、クラウドインフラの利用条件を見直しています。具体的には、EU域内の顧客データをEU内に保持・処理する「EUデータバウンダリ」への全面移行を発表し、EU域外へのデータ転送を原則禁止する方針です。(出典: Microsoft公式ブログ)

中小企業と消費者へのメリット

DMAが施行されることで、中小企業には公正な競争機会が、消費者には選択肢の拡大といったメリットが生まれることを具体例と共に説明します。

DMAによって、中小企業は公平な競争条件で市場に参入でき、消費者は選択肢が増えます。たとえば、オンラインショッピングでは、巨大プラットフォームのアルゴリズムが小規模なショップの商品を埋もれさせることがなくなります。

ビッグテックが中小企業を阻害した事例

❶ Amazonとサードパーティ業者:

Amazonは自社ブランド商品を優遇するアルゴリズムを使用し、サードパーティ業者の商品を検索結果で下位に配置していました。

❷ Googleと検索アルゴリズム:

Googleは検索結果で自社サービス(Google ShoppingやGoogle Flights)を上位表示し、競合他社の露出を制限していました。

❸ Appleとアプリストア:

AppleはApp Storeにおいて競合アプリの機能を制限し、自社のアプリを優遇するポリシーを適用していました。

DMAの施行により、こうした不公正な慣行が是正されることが期待されています。また、消費者にとって、DMAは選択肢の拡大や価格競争の促進をもたらします。

ビッグテックの功罪:規制がもたらす未来

巨大テック企業がもたらした技術革新と市場支配の弊害を比較し、DMAによる規制がデジタル市場の未来に与える功罪を考察します。

技術革新と利便性の向上

ビッグテック企業は、迅速な情報アクセスや消費者の利便性向上を実現しました。
Googleの検索エンジンは、膨大な情報を瞬時に提供し、Amazonは革新的な物流インフラを構築しました。
これにより、消費者は効率的な購買体験を享受でき、中小企業も新しい市場への参入機会を得ました。

市場支配の弊害と競争阻害

一方で、ビッグテックの市場支配が競争を阻害する事例も少なくありません。
Googleの検索結果における自社サービス優遇、Amazonのサードパーティ商品を不利に扱うアルゴリズムなどが批判を招いています。これらの行為は、中小企業やスタートアップが不利な条件で競争を強いられる原因となりました。

👨‍🏫 かみ砕きポイント

ビッグテック企業は市場に巨大な橋を架けた建設業者のようなものです。その橋は多くの人々の便益を生み出しましたが、一方で橋の使用料や通行制限によって小規模な商人の行動を制限しているような状況です。DMAはこの橋の通行を公平にするための規制と言えるのかもしれません。

規制による功罪比較表
メリット(規制の効果) デメリット(規制の課題)
公正な競争環境の実現 過剰な規制が技術革新を阻害する可能性
消費者の選択肢拡大 規制適応コストの増大による企業の負担増
価格競争の促進 新規参入企業にとって規制順守がハードルとなる可能性
透明性の向上 競争激化による利益率の低下
データポータビリティ確保 規制の解釈や適用の不透明性

世界各国のデジタル市場規制動向

欧州のDMAに呼応し、日本やアメリカでも独自の規制が進んでいます。世界的なデジタル市場規制の潮流を紹介します。

日本の関連法規

日本では、巨大IT企業を対象とした「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」がすでに施行されています。さらに、DMAに類似した規制として、2024年6月19日に公布された「スマホソフトウェア競争促進法」があり、これによりアプリストアなどの競争促進が図られます。

アメリカの規制動向と関連法案

アメリカでは、2023年10月30日にバイデン政権が「AI の安全で確実かつ信頼できる開発および使用に関する大統領令」を発表。また、議会レベルではアプリストアの慣行を規制する「Open App Markets Act」などが審議されており、欧州に呼応した競争政策が整備される可能性があります。

今後の展望

DMAを始めとする一連の規制が、今後のデジタル市場の競争と技術革新にどう影響していくか、その可能性と課題について展望します。

専門家の間では「今後、欧州以外の地域でも類似の規制が進展する」との見方が強いですが、政策決定は各国ごとに段階的となる可能性も指摘されています。DMAが目指す「公正な競争」と、企業の「イノベーションへの意欲」をいかに両立させるか、そのバランスが今後のデジタル経済の鍵を握るでしょう。

👨‍🏫 かみ砕きポイント

巨大プラットフォーム企業は「高速道路の管理者」のようなものです。彼らが道路を整備し多くの車が快適に走れる環境を作り出しました。しかし、特定の車種だけが優先レーンを使えるルールを設定すると、他の車両が渋滞に巻き込まれます。DMAは、この優先レーンの不公平な利用を規制し、すべての車が同じ条件で走行できるようにする「交通ルール」と言えます。

まとめ

欧州デジタル市場法(DMA)は、ビッグテックの市場支配に大きな変革を迫る規制です。本記事では、その仕組みから最新のゲートキーパー指定状況、初の制裁金事例、そして日米の動向までを解説しました。
この規制は、中小企業や消費者に新たな機会をもたらす一方、企業のイノベーションとのバランスという課題も浮き彫りにしています。
今後、グローバルなデジタル経済の健全な発展に向けて、各国の規制当局と企業の柔軟な対応が求められています。


専門用語まとめ

デジタル市場法(DMA)
巨大テック企業による市場支配を抑制し、公正な競争を促進するためにEUが導入した法律。「ゲートキーパー」を指定し、特定の義務を課す。
データポータビリティ
ユーザー自身が、Webサービス間で個人データ(購入履歴、連絡先情報など)を容易にエクスポート・インポートできる権利。これにより、プラットフォーム乗り換えの障壁(スイッチングコスト)が大幅に低減される。
ゲートキーパー
DMAによって指定される、デジタル市場で大きな影響力を持つプラットフォーム事業者。Alphabet、Apple、Metaなどが指定されている。
GDPR(一般データ保護規則)
EUにおける個人データ保護のための法的枠組み。DMAが競争促進を目的とするのに対し、GDPRは個人のプライバシー権保護を目的とする。
スマホソフトウェア競争促進法
日本版DMAとも言える法律。スマートフォンのアプリストアやブラウザ等における競争を促進し、利用者の選択肢を増やすことを目的とする。

よくある質問(FAQ)

Q1. DMAは私たちのスマホ利用にどう影響しますか?

A1. EU圏内では、App Store以外の場所からアプリをダウンロードできたり、異なる決済方法を選べるようになったりします。これにより、アプリの価格が下がったり、新しいサービスが登場したりする可能性があります。

Q2. DMAは日本の企業にも関係ありますか?

A2. 直接の規制対象は巨大テック企業ですが、それらのプラットフォームを利用する日本企業も影響を受けます。また、日本でも同様の「スマホソフトウェア競争促進法」が成立しており、国内市場も変わっていく可能性があります。

Q3. ゲートキーパーへの規制でサービスの質は落ちませんか?

A3. その可能性はゼロではありません。プラットフォーム全体での統一的な体験やセキュリティが一部損なわれるリスクは指摘されています。一方で、競争が活発になることで、より高品質で安価なサービスが登場することも期待されます。

更新履歴

  • 全面的な事実確認と情報更新、構成見直し
  • 初版公開

主な参考サイト

 

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以上

ABOUT ME
ケニー 狩野
中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ キヤノン株式会社にてアーキテクト、プロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを牽引。 現在の主な役職: 株式会社ベーネテック 代表、株式会社アープ 取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会 評議員 ブロックチェーン導入評価委員長などを務める。 2018年には「リアル・イノベーション・マインド」を出版。 趣味はダイビングと囲碁。