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AI

GraphRAGとは

はじめに
<知識グラフとRAGの融合で情報検索を進化させる>
RAG(Retriever-Augmented Generation) は、大規模言語モデル(LLM)による情報生成に外部の知識ベースを統合する手法として知られています。
GraphRAGは、そのRAGの発展型であり、特に知識グラフ(Knowledge Graph)を活用することで、情報の精度や信頼性を向上させることを目指しています。

ここでは、GraphRAGの特徴、技術的背景、応用例について詳しく見ていきます。

GraphRAGとは?

GraphRAGは、RAGの基盤を受け継ぎつつ、知識グラフの強力な特性を取り入れた次世代の情報生成技術です。
知識グラフは、概念やエンティティ間の関係を視覚的・構造的に表現するもので、情報の連携をより精密に捉えることが可能です。
これにより、従来のRAGと比較して、よりコンテキストに適した応答を生成することができます。

GraphRAGの主な特徴

1. 知識グラフの利用

GraphRAGの最大の特徴は、知識グラフを利用してデータ間の関連性を明確に理解する点です。
知識グラフは、様々なエンティティ(物、事象、人物など)とその関係を網羅的に示すネットワーク構造を持ちます。この構造に基づいて検索を行うことで、通常のキーワードベースの検索とは異なり、より関連性が深い情報を抽出することが可能になります。

例えば、「AIに関連する最新の技術動向」というクエリに対して、知識グラフを活用すれば、AIと密接に関係する他の技術や企業動向も加味した応答を返すことができます。
単なるキーワードの一致ではなく、エンティティ間の関係性を重視した検索結果が得られるのです。

2. 強化された検索精度

知識グラフはネットワーク構造を持つため、ユーザーが発する質問に対してキーワードの一致だけでなく、文脈に応じた情報の関連性を評価することができます。
これにより、GraphRAGはより精度の高い検索結果を提供することが可能です。

従来のRAGは、単に大規模データベースから適切な情報を引き出すことに主眼を置いていましたが、GraphRAGはその上にさらに、エンティティ間の関係を考慮することで、応答の信頼性を高めます。

例えば、医療に関する質問において、単に症状と対処法を示すのではなく、患者の既往歴や関連する医療知識のネットワークをもとに、より精緻な回答を生成することが可能です。これにより、ユーザーにとっての有用性が飛躍的に向上します。

3. 生成のコンテキスト強化

LLMが生成するコンテンツは、知識グラフから取得した情報を基に行われます。
これにより、生成された回答がコンテキストに対して適切である可能性が高まります。
特に、複数のエンティティが絡む複雑な質問に対して、知識グラフの持つ構造的情報が有効に働きます。

例えば、法律に関する複雑な相談や、医療に関する多角的な質問においても、GraphRAGは関係する全てのエンティティを考慮しながら最適な回答を提供します。

 RAGと知識グラフの統合技術

GraphRAGは、RAGの基本的なフレームワークをベースに、知識グラフとLLMを統合しています。
この統合によって、知識の精度とコンテキストの一貫性が向上します。
具体的には、質問に対して知識グラフを用いて適切なエンティティとその関係性を特定し、その情報をLLMに供給する形で生成プロセスが進行します。
このプロセスにより、単なるデータベースからの情報抽出以上に、深層的で意味のある情報提供が可能になります。

1. 知識グラフの構築とメンテナンス

知識グラフの質がGraphRAGの性能に直結するため、知識グラフの構築とそのメンテナンスは重要な課題です。

適切な知識グラフを構築するためには、ドメイン知識の深い専門家の協力が望ましいですが、AIを用いた自動生成も有効です。
また、常に最新の情報を反映させるための継続的なメンテナンスが求められます。GraphRAGの応用分野に合わせて知識グラフを最適化することで、応答の精度をさらに高めることが可能です。

2. 数学的な分析手法

GraphRAGにおける知識グラフの活用には、数学的な分析手法が重要な役割を果たします。
特に、グラフ理論と呼ばれる数学の分野が用いられます。グラフ理論を用いることで、ノード(エンティティ)とエッジ(関係)のネットワーク構造を解析し、関連性の強さや情報の流れを定量的に評価することが可能です。
さらに、PageRankアルゴリズムのようなランキング手法や、クラスタリングアルゴリズムを用いて、関連する情報を効果的に抽出し、LLMに供給する情報の精度を向上させます。

これにより、ユーザーの質問に対して最も関連性の高い情報を選別し、適切な応答を生成することが可能になります。

PageRankアルゴリズムは、ウェブページの重要性を評価するためのGoogle創設者が開発した手法です。
このアルゴリズムの基本的な考え方は、「重要なページからリンクされているページも重要である」というものです。各ページの重要度は0から1の間の確率として表現され、以下の要素を考慮します。
❶リンクの数:多くのページからリンクされているほど重要とみなされる。
❷リンク元の質:高いPageRankを持つページからのリンクはより価値がある。
計算は反復的に行われ、ダンピング係数(通常0.85)を用いて、ユーザーがランダムにリンクをクリックする確率も考慮されます24。
PageRankは、検索結果のランキングに革新をもたらし、Googleの成功の基礎となりました。

 

クラスタリングアルゴリズムは、データ分析や機械学習で広く使用される教師なし学習の手法です。
この手法の主な目的は、類似した特徴を持つデータポイントをグループ(クラスタ)にまとめることです。主なアルゴリズムには以下があります。

❶K-means:予め指定した数のクラスタにデータを分割する。
❷階層的クラスタリング:データ間の距離に基づいて段階的にグループ化する。
❸DBSCAN:密度ベースのアプローチで、ノイズにも強い。

クラスタリングは、データの構造を理解したり、異常検知、顧客セグメンテーションなどに活用されます。ただし、適切なクラスタ数の決定や、高次元データの扱いには注意が必要です。結果の解釈には、ドメイン知識が重要となります。

 

GraphRAGの応用例

1. 企業のナレッジマネジメント

GraphRAGは、企業内のナレッジマネジメントに大きな効果を発揮します。
例えば、社内文書やデータベースを知識グラフとして構造化することで、従業員が求めている情報を迅速に見つけることが可能になります。
従来の検索では膨大な文書の中から必要な情報を見つけるのが難しかったのに対し、GraphRAGは知識グラフのネットワークを活用して関連する情報を精確に抽出します。これにより、業務効率が大幅に向上します。

2. チャットボットによる顧客サポート

GraphRAGは、顧客サポートのチャットボットにも応用可能です。顧客の質問に対して、知識グラフを使って関連情報を検索し、LLMを利用して的確な回答を生成することで、顧客満足度を向上させます。
例えば、製品の使い方に関する質問やトラブルシューティングにおいても、製品に関連する知識全体を踏まえた回答を提供することができます。

3. 専門分野における情報提供

医療や法律など、専門知識が求められる分野においても、GraphRAGは大きな力を発揮します。知識グラフを利用することで、特定の症状に関連する病歴や治療法、あるいは法律の条文とその適用条件など、専門的な情報を網羅的に提供することが可能です。
これにより、ユーザーが必要とする正確な情報とその背景を理解しやすくなり、意思決定のサポートが強化されます。

GraphRAGの今後の展望とまとめ

1. 今後の技術発展の可能性

GraphRAGは、今後さらに多くの分野での応用が期待されます。
特に、知識グラフの質が向上し、LLMの精度が高まることで、GraphRAGの情報提供能力はさらに強化されるでしょう。
例えば、教育分野においては、学習者の進捗に応じた適切な教材の提供や、特定の分野の理解を深めるための補足情報の提供に役立てることが考えられます。

2. まとめ

GraphRAGは、知識グラフを活用してRAGの持つ生成能力をさらに強化する技術であり、特に複雑なドメインや専門知識が必要な場面で効果を発揮します。
知識グラフを利用することで、単なる情報検索を超えた深層的な知識提供が可能となり、ユーザーの意思決定を支援します。

企業のナレッジマネジメントやチャットボット、医療・法律分野での応用を通じて、GraphRAGは情報の信頼性と精度を大幅に向上させ、今後の情報生成技術の発展において重要な役割を果たすでしょう。

以上

筆者プロフィール
ケニー狩野(中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ)
キヤノン(株)でアーキテクト、プロマネとして多数のプロジェクトをリード。
現在、株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会評議員ブロックチェーン導入評価委員長。
これまでの知見を活かしブロックチェーンや人工知能技術の推進に従事。趣味はダイビングと囲碁。
2018年「リアル・イノベーション・マインド」を出版。