AIインフラ戦争2025|NVIDIA×OpenAI・45兆円契約の全貌
著者:ケニー狩野(Society 5.0振興協会・AI社会実装推進委員長)
はじめに:2025年9月、AIを巡るチェス盤が動いた
2025年9月、NVIDIAとOpenAIが史上最大級の提携を動かし、Stargateプロジェクトを核とした“AIインフラ戦争”が本格化しました。AI業界は歴史的な転換点を迎えています。
【本稿が描く物語】
本稿の主題は、AI開発競争における歴史的な転換点です。戦いのルールはモデルの賢さ(頭脳)を競うゲームから、GPUや電力を巡る物理的な「インフラ戦争」へと書き換えられました。
このチェス盤の中心には、NVIDIAとOpenAIの提携で生まれた「帝国」が君臨します。これに対し、AMDやMicrosoftら「反乱軍」が対抗勢力を形成し、EUの「規制」が盤上のルールを揺さぶるのです。
これは単なる企業闘争の記録ではありません。AGI(汎用人工知能)が生み出す富と権力、ひいては「人類の未来のOS」を誰が支配するのかを決める、壮大な「神々のチェス」を読み解く物語です。
登場人物紹介 – 神々のチェス盤
物語の主役たち(Main Characters)
役割 | プレイヤー | 野望と戦略 |
---|---|---|
皇帝 | ジェンセン・フアン CEO(NVIDIA) | データセンター向けAI GPUで約98%の出荷シェアを握る王。全てのAIが自社のGPUの上で動く世界を目指す。 |
探求者 | サム・アルトマン CEO(OpenAI) | ChatGPTの生みの親。人類を超える知能AGIを誰よりも早く実現するため、地球上の計算資源を欲する。 |
老獪な王 | ラリー・エリソン 会長(Oracle) | クラウド事業で後発ながら、AI計算に特化した設計でOpenAIを取り込み、一気に覇権を狙う勝負師。 |
反逆の女王 | リサ・スー CEO(AMD) | NVIDIAの唯一の対抗馬。オープンな技術を旗印に、巨大帝国への反乱軍を組織する。 |
改革者 | リップブー・タン CEO(Intel) | シリコンバレーの伝説的な投資家であり半導体設計の専門家。Intelのかつての栄光を取り戻すべく、大胆な改革を断行する。 |
盤上を動かす影響者たち(Influential Figures on the Board)
役割 | プレイヤー | 野望と戦略 |
---|---|---|
深遠な戦略家 | サティア・ナデラ CEO(Microsoft) | OpenAIを育て上げたが、帝国への一極依存をリスクと判断。盤全体のバランスを支配しようとする最も老獪なプレイヤー。 |
グランドマスター | デミス・ハサビス CEO(Google DeepMind) | チェスの天才でもあるAI研究の第一人者。表立った争いには加わらず、静かに「次の一手」で全てを覆す機会を窺う。 |
復讐の天使 | イーロン・マスク CEO(xAI, Tesla, X) | 「人類を裏切った」OpenAIに復讐を誓い、データ、ロボット、通信網を統合した独自のAI帝国を築く。 |
追放された預言者 | イリヤ・サツケヴァー CEO(Safe Superintelligence) | 自らが創造に関わったAIの力を誰よりも恐れる天才。帝国の力の暴走を警告し、安全な超知能の道を説く。 |
影のキングメーカー | ピーター・ティール(Palantir, 投資家) | 政治とテクノロジーを操り、国家さえも超越するリバタリアン思想の実現を目指す、盤上の影の支配者。 |
鉄の女 | マルグレーテ・ベステアー(欧州委員会) | アメリカの巨人たちに「待った」をかける欧州の規制トップ。「人間が中心」の理念を法の剣で実現する。 |
国家戦略家 | ジーナ・ライモンド(米国商務長官) | CHIPS法を武器に、半導体の国内生産を推進。米国の技術覇権を守るためなら、企業の自由にも介入する。 |
最後の勝負師 | 孫正義(ソフトバンクグループ) | 全ての富を失うリスクを冒してでも、AGIという究極の未来に賭ける。巨大プロジェクトの資金源。 |
第一楽章:帝国の誕生

要約:AIの心臓部GPUを握るNVIDIAと頭脳を作るOpenAIが歴史的提携を締結。$100B(約15兆円)規模の投資で、他を圧倒する計算インフラを独占し、絶対的な「帝国」を築こうとします。
AIの心臓部を作る「NVIDIA」と、AIの頭脳を作る「OpenAI」が手を組み、他の誰も追いつけない絶対的な帝国を築こうとします。その巨大な計画に、クラウドの王「Oracle」や、かつての半導体王者「Intel」も巻き込まれていきます。
物語は2025年9月22日、AIの心臓部であるGPUの王者であるNVIDIAのジェンセン・フアンCEOと、AIの頭脳ChatGPTの生みの親であるOpenAIのサム・アルトマンCEOが、歴史的な提携に関する非拘束の意向表明(LOI)に合意したと報じられたことから始まります。
この提携の核心は、NVIDIAが最大$100B(約15兆円)規模の資金と自社製GPUを一体で提供し、OpenAIが合計で10ギガワット(GW)という前代未聞の電力を消費する、超巨大AIデータセンター群を建設するというものです。
なぜ「電力」が指標になるかというと、それはデータセンターに設置されるGPUの数と性能を最も端的に示すのが電力の総量だからです。
10GWとは、ギリシャ全国の夏季ピーク需要(約10.8GW、2025年7月24日)にほぼ匹敵する規模です(参考:日本は全国ピーク時は約159GW)
これはもはや一企業のプロジェクトを超えた、国家レベルのエネルギー計画と言えます。
この提携は、フアンCEOが描いた完璧なシナリオでした。NVIDIAはOpenAIにお金を貸し、OpenAIはそのお金でNVIDIAの最新GPUを大量に購入する。つまり、自分でお金を出して、自分の製品の巨大な買い手を創り出したのです。
これにより、ハードウェアとソフトウェアの頂点が固く結びついた、誰も手出しできない、いわば「帝国」とも呼べる巨大な連合が生まれました。
クラウド後発組の逆襲:Oracleは如何にしてAI特需を掴んだか
この巨大計画をインフラ面で支える、もう一人の重要なプレイヤーがいます。クラウドサービス大手Oracleを率いるラリー・エリソン会長です。
オラクルは「クラウド後発」という評価を、NVIDIAとの深い連携で覆してしまいました。OCI(Oracle Cloud Infrastructure)はNVIDIAの最新GPUを大量に調達し、GPU同士が直接すばやくデータをやり取りできる高速データ転送技術RDMA(Remote Direct Memory Access)を全面採用しました。
つまり、何万枚ものGPUを無駄なく束ねて同時並行で動かす“超高速道路”を整え、超大規模AI学習を速く・安定して・効率よく回せる土台を作りました。
さらに同社は長年の強みであるデータベース(DB)顧客を多く抱えています。つまり、手元の価値あるデータを、そのまま巨大GPUクラスタでの学習力に直結させやすいのです。
この体制を背景に、2025年9月、OpenAIとOracleが5年で$300B(約45兆円)のクラウド供給契約で合意したと主要紙が報道しました(公式開示は未了の報道ベース)。
市場は「AI特需をつかみ、受注残が一気に膨らむ」という絵を織り込み、株価が大きく跳ね上がった、という流れです。OCI上ではNVIDIAのDGXシステムやAI Enterpriseソフトウェアの活用も進み、スケーリング効率の高さがコスト性能の差につながっています。
この結果、2025年9月10日、Oracle株の急騰により、ラリー・エリソン会長の資産が一日で約$101B(約15.2兆円)増加し、世界富豪ランキングの首位に躍り出ました。(Bloomberg Billionaires Indexによる)
総括すると、オラクルは、DB顧客 × NVIDIA GPU × RDMAを束ね、AIワークロードに強いOCIへと磨き上げました。その成果が、超大型契約(報道)と市場の見直しへとつながっています。
なぜIntelが?宿敵同士の奇妙な握手
帝国の野心は、クラウドだけに留まりません。2025年9月18日、NVIDIAはIntelに$5B(約7500億円)を出資し、AIインフラとパーソナルコンピューティングでの協業を発表。特に注目すべきは、パソコンの頭脳の作り方を根底から変える計画です。
これまでパソコンの頭脳であるSoC(System on a Chip)は、一つの会社が一枚のチップ上に全ての機能を設計・製造するのが一般的でした。
それに対し「チップレット」は、CPUやGPUといった専門機能を持つ小さな半導体部品、いわば「性能を高めるための高性能なレゴブロック」です。
今回の計画は、Intelが自社のSoCを開発する際に、このチップレット技術を使い、NVIDIA製の高性能な「GPUブロック」を最初から組み込んでしまう、というものです。これにより、これまで高性能なグラフィックボードを別途購入しなければ手に入らなかったAI性能が、多くのパソコンに標準搭載される道が開かれます。
つまり、NVIDIAは、AIデータセンターだけでなく、我々が日々AIを使い、その恩恵を受けるパーソナルコンピュータまでもを支配下に置くことになります。
そしてその帝国の玉座は、シリコンでできた二本の柱によって、盤石なものとなったのです。
第二楽章:反乱軍の逆襲と盤上の異端者たち

要約:帝国の独占を恐れるMicrosoftやAMDが「反乱軍」として対抗勢力を形成。さらにAIの危険性を説く預言者や、地政学で動く影のキングメーカーが、戦いを複雑化させていきます。
帝国の誕生に対し、世界はすぐさま反撃を開始します。
NVIDIAのGPUでしか動かない開発環境「CUDA」の独占に対抗すべく、AMDのリサ・スーCEOは、オープンな開発環境「ROCm 7.0」(オックエム、AMDのGPU開発環境)を2025年9月16日に発表。
「オープン」を旗印に、反帝国連合を組織します。
帝国の誕生に最も複雑な表情でチェス盤を見つめるのが、OpenAIを育て上げたMicrosoftのサティア・ナデラCEOです。彼の胸にあるのは感傷ではなく、グランドマスターの冷徹なリアリズム。
表向きはOpenAIとの協業を維持しつつ、水面下では「NVIDIA一極依存」という最大の戦略的リスクからの緩やかな自律を加速。彼の王国AzureではAMDのGPU「MI300X」を提供し、同時に自社設計の切り札「Azure Maia」を研ぎ澄まします。これは感情的な復讐劇というものではなく、巨大なライバルを飼いならしつつ自らの牙を育てる高等なリスク管理術なのです。
グランドマスターの静かなる思考
喧騒の裏で最も深く次の一手を練っているのは、Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOです。
現在の「より多くのGPUで、より大規模なLLMを動かす」競争はあくまで一つのフェーズと捉え、アルゴリズムの効率化でより少ない計算でより深い推論を目指します。
次に来るのはエージェントAI(観察・計画・実行まで担う能動型AI)の世界であり、そこで決め手になるのは計算規模だけでなくアルゴリズムの質だと見ています。
こうした方針は、Gemini 2.0が掲げる「agentic era」やTPU(Trillium)×GCP×Geminiの垂直統合にも表れています。
なお、NVIDIAとOpenAIの大型連携については、「中央を押さえる強い一手だが、戦い方が固定化するリスクもある」という筆者の見立てとして補足します。
盤面を揺るがす、二人の異端者
このインフラ戦争が物理的な資源の奪い合いに終始する中で、全く異なる次元からゲームの本質を問う者たちがいます。一人は力の危険性を説く「預言者」、もう一人は全てを地政学のレンズで見る「影のキングメーカー」です。
追放された預言者:イリヤ・サツケヴァー
OpenAIの共同創業者であり、かつてAIの進化の最先端を走っていた前チーフ・サイエンティスト、イリヤ・サツケヴァー。
彼は2024年に古巣を去り、Safe Superintelligence社を創設しました。
その唯一の目的は「安全な超知能」。
彼は計算規模の拡大競争に明確に背を向け、「安全と能力を同時に前進させる」という孤高の道を歩みます。
彼の視点では、帝国が建設する10ギガワットの神殿は、人類の制御を超えた「神」を召喚する危険な儀式に他なりません。帝国の力が強大になればなるほど、彼の預言は不気味な現実味を帯びて盤上に響き渡るのです。
影のキングメーカー:ピーター・ティール
一方、この戦いを冷徹な地政学のレンズで眺めるのが、投資家ピーター・ティールです。
自身が共同創業者で会長を務めるPalantir社を通じ、彼は長年、防衛や諜報といった国家の中枢にAI技術を実装してきました。
米中対立をはじめとする地政学の視点からAIを語ることの多い彼の目には、このインフラ戦争もまた、西側文明の技術的優位を確保するための盤面と映っていることでしょう。
本稿の物語において、彼こそが皇帝や反逆者さえも、より大きな安全保障ゲームの「駒」と見なす、影のキングメーカーなのです。
もう一つの戦線:思想と安全性の戦い
これらインフラ戦争の主戦場とは別に、独自の思想で帝国を築こうとするのがxAIを率いるイーロン・マスクCEOです。
彼は「人類を裏切った」と断じるOpenAIに対抗し、X(旧Twitter)の莫大な会話データとTeslaのロボット技術を融合させ、「検閲されない、真実を語るAI」の開発を宣言。思想とデータで戦う、もう一つの戦線を築いています。
Intelの切り札と、ヨーロッパの「待った」
一方、帝国の重要なパートナーとなったIntelもまた、シリコンバレーの伝説的な投資家から転身した新CEO、リップブー・タン氏の指揮のもと、大きな賭けを仕掛けました。
彼がIntel復権の切り札とするのが、最先端の半導体製造プロセス「18A」です。
「A」はオングストロームという次世代の指標で、10Aが1ナノメートル(nm)に相当するため、Intelの「18A」は実質的に「1.8nm」プロセスを意味します。
これは、ライバルTSMCが投入する最先端の「2nm」プロセスを数字の上で凌駕する野心的な目標であり、Intelが技術的優位性を取り戻すための切り札なのです。
この壮大な復活劇を国家戦略として後押しするのが、ジーナ・ライモンド米国商務長官が推進する「CHIPS法」です。数十兆円規模の補助金を武器に、半導体の国内生産へと強力に舵を切る彼女の政策なくして、Intelの賭けは成り立ちません。
ではなぜ「帝国」にとってIntelの成功が不可欠なのでしょうか。
それはライモンド長官の政策が示す通り、最先端半導体の供給元を台湾のTSMC一社に依存する地政学的リスクを避け、米国内での安定供給網を確立するという国家レベルの戦略があるからです。Intelの復活は、帝国の足元を固めるための最後のピースなのです。
一方、大西洋の向こう、ヨーロッパでは別の戦いが始まっていました。
アメリカの巨大IT企業を厳しく監視してきたEUが、「EU AI法」という世界で最も厳しいAI規制をスタートさせました。
これは、欧州委員会の「鉄の女」マルグレーテ・ベステアー氏が振るう強力な権限であり、彼女はいわばテクノロジー業界における「世界最強のレフェリー」なのです。
EU AI法の汎用AI(GPAI)義務は2025年8月2日から開始。既存モデルには2027年8月2日まで猶予があり、対象ごとに追加義務が段階的に適用されます。
本当に恐ろしいのは2026年8月から始まる第二段階で、顔認証やインフラ、雇用といった「高リスクAI」に対して極めて厳格な規制が課されます。これは、帝国の技術的進歩に「待った」をかける強力な法的ブレーキとなり得ます。
賢すぎるAIが突きつけた、新たな問題
戦局を決定的に動かしたのは、2025年8月に登場したOpenAIの「GPT-5」です。
当初はGPT-4oを追加するなどバタバタ劇がありましたが、AGIに少しだけ近づいたとされる性能向上は、NVIDIA連合のインフラ計画を現実的に必須のものへと変えました。
OpenAIはGPT-5で精度・堅牢性の向上と“ハルシネーション”抑制を公式に主張しています。ただし詳細ベンチマークの完全公開は限定的で、社外の独立評価は進行中です。
その裏で、新たな、より巧妙な問題が浮かび上がります。
それは、AIが“正解を知らない時”でも、あたかも事実であるかのように、もっともらしい嘘を高い自信度で生成する能力までもが高度化してしまったことです。
これは単なるバグではなく、AIの仕組みに根差した根源的な課題であり、OpenAI自身も「巧妙な誤情報生成への対策が不可欠」と認めています。
つまり、「賢くなって単純な間違いは減ったが、ひとたび間違えれば、人間をより巧みにミスリードするリスクも増大した」のです。
この根源的な問いが、全人類に突きつけられました。
第三楽章:シンギュラリティ・ギャンビット

要約:この戦争は、いずれ誕生するAGIが生み出す無限の富と権力を誰が手にするかを決める戦いです。人類は、支配者の平和か、神々の闘争か、それとも未知の未来か、その分岐点に立っています。
最終楽章は、いずれかの研究室で、最初のAGIが産声を上げる瞬間に始まります。その力の危険性を誰よりも恐れ、古巣OpenAIを去ったイリヤ・サツケヴァーは、「安全な超知能」こそが人類の唯一の道だと警鐘を鳴らします。しかし、競争の歯車は止まりません。
OpenAIのサム・アルトマンCEOは、その時に備えた壮大な未来像を語っています。アルトマン氏の考えは、政府が国民にお金を配るベーシックインカム(BI)では労働へのインセンティブが低下する可能性を示唆し、「地球規模でのAI計算能力利用権やそのインフラの一部の所有権を全人類に分配する」というものです。つまり政府が国民に魚(給付金)を配るのではなく、最新鋭のハイテク漁船の株式を配るようなものなのです。人々は単なる受取人ではなく、価値が増大するプロジェクトの当事者(株主)となります。
しかし、その「株」を発行する権利を、事実上NVIDIAとOpenAIの帝国が握る未来を、他のプレイヤーたちが許すでしょうか。物語は、ここから複数の未来へと分岐します。
- 未来A:支配者の平和:
帝国がAGIを完成させ、その恩恵を世界に分配する。人類は繁栄するが、その運命は一企業の掌の上にある、黄金の鳥かごの中。 - 未来B:神々の黄昏:
複数の企業が同時にAGIを完成させてしまう。それぞれの思想を反映したAI神たちが、サイバー空間で永遠の闘争を始める。 - 未来C:プロメテウスの火:
AGIの力を恐れた誰かが、その技術を全世界に公開する。力は民主化されるが、悪用のリスクも無限に拡散する。
シリコンの玉座に座るのが誰であれ、一つだけ確かなことがあります。2025年9月、神々のチェスは始まりました。
そして我々はその盤上で生きていく。この物語の結末は、まだ誰にも分かりません。
物語を理解する鍵:主要イベント解説
本文で描かれた神々の戦いを、時系列で振り返ってみましょう。一つ一つの出来事が、次の展開への布石となっています。
- EU AI法の義務適用開始(2025年8月2日)
EU AI法の汎用AI(GPAI)義務は2025年8月2日から開始。既存モデルには2027年8月2日まで猶予があり、対象ごとに追加義務が段階的に適用されます。 - OpenAI、次世代モデル「GPT-5」をリリース(2025年8月7日)
OpenAIが、世界に衝撃を与えたGPT-4の後継となる次世代AI「GPT-5」を発表。AGIの到来を現実的に予感させ、インフラ争奪戦を激化させる引き金となりました。 - AMD、「ROCm 7.0」を正式リリース(2025年9月16日)
NVIDIAの牙城を崩すべく、AMDがオープンソースのGPU開発環境「ROCm 7.0」をリリースし、「オープン」を旗印に対抗勢力を結集させようとしています。 - NVIDIAとIntel、$5B(約7500億円)出資+協業を発表(2025年9月18日)
NVIDIAがIntelに$5B(約7500億円)出資と協業を発表。データセンターと個人向けPCの両領域で連携を強化します。 - NVIDIA・OpenAI、最大$100B(約15兆円)でLOI合意(2025年9月22日)
設備出力10ギガワット、最大$100B(約15兆円)規模のAIデータセンター建設に関する意向表明(LOI)に合意。AIインフラ戦争が新たな次元に突入しました。 - CoreWeave、OpenAIと巨額契約(2025年9月25日)
CoreWeaveはOpenAI向け契約を2025年3月$11.9B(約1.8兆円)→5月$4B(約0.6兆円)→9月$6.5B(約0.98兆円)と積み上げ、2025年累計は$22.4B(約3.4兆円)に到達しました。 - Microsoft、連携を模索(2025年9月25日)
一部報道では、MicrosoftがAMDや主要サーバー企業と、GPUの選択肢を広げるための協力関係を模索していると伝えられています。現時点で公式発表はありません。
終章:神々のチェスは始まった
2025年9月、AIを巡る世界のルールは根底から変わりました。戦いの主戦場がモデルの賢さという抽象的な「頭脳戦」から、GPU、電力、土地といった物理的な資源を奪い合う「インフラ戦争」へと完全に移行したからです。
NVIDIAとOpenAIが築いた巨大な「帝国」は、その圧倒的な力で盤上の中央を制圧しました。しかし、その支配を許さないAMD率いる「反乱軍」の台頭、そして独自のルールブックを持つEUという存在が、戦いを一層複雑で予測不可能なものにしています。各プレイヤーがそれぞれの野望を胸に駒を進め、まさに「神々のチェス」の盤面が整ったのです。
この壮大な戦いの勝者が手にするのは、単なる市場シェアではありません。
それは、人類を超える知能AGIを誰が最初に手にするか、そこから生まれる無限の富をどう分配するか、そして私たちの思考や社会の基盤となる「未来のOS」を誰が書くのか、という根源的な支配権です。
帝国の支配による黄金の鳥かごか。
神々の闘争が続く混沌か。
あるいは、民主化された力がもたらす未知の未来か。
物語の結末を選ぶのは、盤上の神々か、それとも私たち自身なのでしょうか。
専門用語まとめ
- AGI(汎用人工知能)
- Artificial General Intelligenceの略。人間のように、未知の課題に対しても自ら学習し、幅広い問題を解決できるAIのこと。現在の特定のタスクに特化したAIとは区別される、AI研究の究極的な目標の一つ。
- チップレット (Chiplet)
- CPUやGPUなど、特定の機能を持つ小さな半導体チップのこと。これらをレゴブロックのように組み合わせて一つの高性能なプロセッサを作る技術により、開発の柔軟性とコスト効率が向上する。
- CUDA (Compute Unified Device Architecture)
- NVIDIAが開発・提供する、自社製GPU上で汎用的な並列計算を行うためのプラットフォーム。AI開発において圧倒的なシェアを誇るが、NVIDIA製GPUでしか動作しないため、開発者を囲い込む要因となっている。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ今、これほど大規模なインフラ投資が必要なのですか?
A1. GPT-4からGPT-5への進化のように、AIの性能を飛躍的に向上させるには、これまでとは桁違いの計算能力(=GPUの数と性能)が必要になるからです。AGIの実現には、国家規模の電力と計算資源が必要だと考えられており、そのインフラを先に押さえた者が競争の勝者になると見られています。
Q2. EU AI法は、この競争にどのような影響を与えますか?
A2. EU AI法は、特に顔認証やインフラ、雇用など「高リスクAI」と見なされる分野で非常に厳格な規制を課します。これにより、技術開発のスピードを優先する米国企業にとっては、欧州市場での事業展開に法的なブレーキがかかる可能性があります。技術の進歩と人権保護のバランスを取ろうとする動きであり、競争のルールを変える重要な要素です。既存モデルには2027年8月2日までの猶予期間があります。
Q3. Google(デミス・ハサビス)の動きが少ないように見えるのはなぜですか?
A3. Googleは、AIモデル(Gemini)、専用ハードウェア(TPU)、巨大クラウド基盤(Google Cloud)の全てを自社で持つ唯一の企業です。他社のようにNVIDIAのGPUに大きく依存する必要がないため、物理的な資源獲得競争とは一線を画しています。彼らはハードの物量作戦ではなく、より少ない計算量で高い性能を出す「アルゴリズムの効率化」という別のゲームで、一発逆転を狙っていると考えられます。
【用語解説】プロジェクト・スターゲイトとは?
「スターゲイト(Stargate)」は、AIの未来を賭けて米国が官民一体で推進する、史上最大級の超巨大AIインフラ構築プロジェクトです。そのあまりの規模から、単なるデータセンター建設ではなく「21世紀のアポロ計画」とも呼ばれています。
- 主軸: OpenAI、Oracle、SoftBankの3者を主軸に「米国内5新サイト(Oracle 3/SoftBank 2)」で約7GW水準へ拡張する計画が発表・報道されています。
- 資金・連携: 投資計画は4年で$500B(約75兆円)、向こう3年で$400B(約60兆円)超の見込み(OpenAI発表)。UAE系投資会社MGXの関与も複数ソースで言及がありますが、出資額や役割の詳細は限定的です。
- 政策: 米連邦政府は、データセンターの許認可を迅速化する大統領令(2025年7月23日)を発出しており、Stargateの進捗を後押しする政策環境が整いつつあります。
本稿について
本記事は、実際に報じられた出来事を元に、その裏側で繰り広げられる神々の頭脳戦を物語として読み解く試みです。登場する企業や人物は実在しますが、彼らの戦略や思考の描写には、筆者の分析と想像が含まれています。事実の点と点を結び、未来の線を読み解く物語としてお楽しみいただくことを目的としています。
主な参考サイト
- NVIDIA & OpenAI 提携:
NVIDIA Newsroom、Reuters - Stargate Project:
OpenAI(プロジェクト発表)、OpenAI(新規5サイト発表)、Axios - CoreWeave & OpenAI 契約:
Reuters(関連報道)、CoreWeave IR - AMD ROCm 7.0:
AMD Official、Phoronix - EU AI Act:
European Commission(AI Act概要・適用タイムライン)、European Commission(GPAI義務開始の告知) - Oracle & Ellison 資産:
Bloomberg、Semafor - NVIDIA & Intel 提携:
NVIDIA Newsroom、Reuters、Edge AI and Vision Alliance - ギリシャ電力需要:
IPTO(Independent Power Transmission Operator of Greece) - 米国政府 大統領令:
The White House(大統領令本文)、The White House(ファクトシート)
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