※本記事は継続的に最新情報へアップデートしています。
2026年、日本の遺言制度は「手書きの紙」だけを前提とする時代から、大きく動き始めた。
けれども、私たちが未来へ残すものは、預金や不動産だけではない。スマートフォンには、家族との写真、声、動画、メッセージ、そして「その人らしさ」が蓄積されている。
デジタル遺言は、人生の後始末ではなく、何を残し、誰に託し、どこまで使ってよいかを自分で選ぶための、新しい終活の形である。
✅ 先に結論
- 2026年6月、保管証書遺言の創設を含む民法等改正法が成立・公布されたが、具体的な利用開始日はまだ決まっていない。
- 保管証書遺言は、パソコンやスマートフォン等で作成した電磁的記録などを、所定の本人確認を経て法務局で保管する新しい遺言方式である。
- 自宅のパソコン、アプリ、動画、メールへ保存しただけでは、法律上有効な保管証書遺言にはならない。
- AI時代の終活では、財産に加えて、写真、声、文章、SNS、AIによる人物再現を誰に託すかも決めておく必要がある。
終活とは、人生を閉じる準備ではない。自分が大切にしてきたものを、どのように未来へ引き継ぐかを設計することである。
2026年、遺言が「紙だけ」のものではなくなった
2026年の法改正は、遺言書の作り方だけでなく、自分の意思を未来へ引き渡す仕組みを変える転換点である。
休日にスマートフォンのアルバムを開くと、家族旅行の写真、子どもの笑い声、何気ない食卓の動画が並んでいます。銀行の預金には金額が表示され、不動産には登記があります。しかし、家族にとって大切な写真や声、言葉には価格がありません。それでも、これらはその人が歩いてきた時間であり、未来へ引き継がれていく人生の資産です。
一方、日本の遺言制度は長い間、本人が紙へ手書きする自筆証書遺言か、公証人が関与する公正証書遺言を中心に運用されてきました。残される資産や思い出がデジタルへ移る一方で、意思を伝える制度は紙を中心としたままだったのです。
2026年に成立した民法等改正法は、このずれを埋める大きな一歩です。政府は2026年4月3日に法案を閣議決定して国会へ提出し、6月17日に成立、6月24日に法律第45号として公布しました。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年4月3日 | 法案を閣議決定し、国会へ提出 |
| 2026年6月17日 | 参議院本会議で可決され、法律が成立 |
| 2026年6月24日 | 法律第45号として公布 |
| 出典:法務省「民法等の一部を改正する法律案」「民法等の一部を改正する法律について」 | |
改正法では、自筆証書遺言の押印要件を見直すとともに、電磁的記録等で作成して法務局が保管する「保管証書遺言」が創設されました。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言に加わる、新しい普通方式の遺言です。
ただし、法律が成立した日と、実際に制度を利用できる日は同じではありません。保管証書遺言は法務局のシステム改修を伴うため、公布から3年以内に政令で定める日に施行されます。2026年7月現在、具体的な開始日は未定です。
今すぐスマートフォンだけで遺言を完成できるわけではない——ここが、ニュースを見た人が最初に押さえるべき点です。
デジタル遺言とは?いつから、どう使えるのか
一般に呼ばれる「デジタル遺言」と、法律上の保管証書遺言は、役割も成立条件も異なる。
「デジタル遺言」という言葉は、現在二つの意味で使われています。
広い意味でのデジタル遺言
終活アプリ、クラウド上のエンディングノート、動画メッセージ、音声録音、家族へ送ったメールなど、デジタル機器を使って残した意思表示を広くデジタル遺言と呼ぶことがあります。これらは家族へ希望や思いを伝えるうえで役立ちますが、民法が定める方式を満たさなければ、財産の承継を決める遺言としての効力は原則として認められません。
法律上の保管証書遺言
改正法で創設された保管証書遺言は、電子ファイルを自分の端末に保存するだけの仕組みではありません。中心となる手続きは、次の3段階です。
- 遺言の全文等を記載・記録した証書を作成する
電磁的記録の場合は、全文と氏名を記録し、署名または法務省令で定める代替措置を講じます。 - 遺言書保管官の前で全文を口述する
本人が内容を理解し、自分の意思で作成したことを確認するための手続きです。 - 法務局で保管する
所定の手続きを経た証書が法務局で保管されて、初めて効力が生じます。
⚠ スマートフォンに保存しただけでは有効にならない自宅のパソコン、スマートフォン、USBメモリー、個人クラウドへ遺言ファイルを保存しただけでは、保管証書遺言としての効力は生じません。法務局への申請と保管が効力発生の条件です。
口述が難しい場合には、通訳人による申述や自書で代える特則も設けられました。また、申出があり、遺言書保管官が相当と認める場合には、映像と音声を相互に確認できる方法を使える規定もあります。
ただし、誰でも無条件に「完全オンライン」で完結できるとは限りません。本人確認、通信方法、電子署名、ファイル形式、手数料などは、今後の省令や運用発表で具体化されます。
制度の細部はまだ確定していません。それでも、現在の遺言と何が違い、どのような人に役立つ可能性があるのかは、すでに見えてきています。
今までの遺言より便利?メリットとデメリット
新制度が常に最善とは限らず、作りやすさ、本人確認、公的保管、費用、相続関係で選ぶことが重要である。
保管証書遺言が始まれば、すべての人が新方式を選ぶべきなのでしょうか。答えは「いいえ」です。遺言方式には、それぞれ異なる強みがあります。
| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 保管証書遺言 |
|---|---|---|---|
| 本文の作成 | 原則として本人が自書 | 公証人が作成 | 書面または電磁的記録等で作成 |
| 本人意思の確認 | 自書・署名等 | 公証人が確認 | 保管官の前で全文を口述 |
| 保管 | 自宅または法務局の保管制度 | 公証役場 | 法務局での保管が効力要件 |
| 検認 | 自宅保管は原則必要。法務局保管制度利用時は不要 | 不要 | 不要 |
| 費用 | 比較的低い | 財産額等に応じた公証人手数料 | 2026年7月現在、詳細未公表 |
| 向いているケース | 財産・相続関係が比較的単純 | 複雑な相続、確実性を重視 | 手書きの負担を減らしつつ、法務局による公的保管と本人確認を重視したい方 |
| ※出典:法務省「民法等の一部を改正する法律について」ほか。2026年7月時点。保管証書遺言の費用、電子署名、本人確認、オンライン手続きの詳細は、今後の政令・省令・運用発表により確定します。 | |||
期待されるメリット
- 長文を手書きする負担を減らせる
- 財産内容の整理や修正がしやすい
- 法務局保管により、紛失、隠匿、改ざんのリスクを抑えられる
- 保管官が本人の口述を確認する
- 家庭裁判所の検認が不要になる
注意すべきデメリット
- 端末で作成しただけでは効力が生じない
- 全文の口述など、所定の手続きが必要になる
- 通信環境やデジタル操作への対応が必要になる可能性がある
- 費用、本人確認、利用できる形式がまだ確定していない
- 内容の法的妥当性を公証人が設計する公正証書遺言とは役割が異なる
パソコンで作れることと、遺言内容が法的に適切であることは別問題です。相続人が多い、不動産や自社株がある、相続人以外へ財産を渡す、遺留分をめぐる対立が予想される場合には、弁護士や公証人などの専門家へ相談した方が安全です。
アプリや動画メッセージは遺言になるのか
デジタルサービスは終活を便利にするが、法的な遺言と、希望や思いを伝える記録は役割が異なる。
「デジタル遺言」と検索すると、終活アプリ、エンディングノート、動画保存、メッセージ配信など、さまざまな民間サービスが見つかります。便利なサービスですが、財産の分け方を書き込んだだけで法的な遺言になるわけではありません。
| 手段 | 主な役割 | 法的な位置づけ |
|---|---|---|
| 法定方式の遺言 | 財産承継、遺言執行者の指定 | 方式を満たせば法的効力を持つ |
| エンディングノート | 希望、連絡先、家族への共有 | 通常は遺言と同じ効力を持たない |
| 動画・音声 | 気持ちや背景を本人の声で伝える | 原則として法定遺言の代わりにはならない |
| 死後事務委任契約 | 契約解約、納骨、アカウント処理など | 受任者との契約に基づいて実行 |
例えば、財産を誰へ渡すかは法定方式の遺言へ記載し、その理由や家族への思いは動画やエンディングノートで補足できます。遺言書が法的な設計図だとすれば、動画やノートは、その設計図に込めた意味を伝える手紙です。
どちらか一方を選ぶのではなく、法的効力と気持ちの伝達を分けて組み合わせることが、デジタル時代の自然な終活です。
財産だけでなく「デジタルな自分」も残る
AI時代の遺産には、金銭的価値を持つデジタル資産と、その人らしさを形づくる人格データがある。
現代の遺産は、通帳や不動産だけではありません。ネット銀行、ネット証券、暗号資産、収益化されたWebサイトなど、財産的価値を持つデジタル資産があります。その一方で、SNS、メール、クラウド、電子書籍などは、利用規約や契約条件によって、相続人が自由に引き継げない場合があります。
さらにAI時代には、もう一つの分類が必要です。
- 家族との写真
- 本人の声
- 動画に映った表情や動き
- 日記、ブログ、メール
- SNSの投稿や会話履歴
これらは思い出であると同時に、生成AIが「その人らしさ」を再現する材料にもなります。写真から表情を動かし、短い音声から似た声を作り、大量の文章から話し方や価値観を模倣できるようになったからです。
写真を残すことと、その写真から本人そっくりのAIを作ることは同じではありません。過去の記録を再生するだけなら、アルバムやホームビデオの延長です。しかしAIが本人の声で新しい言葉を話し、相談へ答えるようになると、記録は「新しい発言を生み出す人格モデル」へ変わります。
何を保存するかだけでなく、そのデータを使って何を生成してよいかまで考える必要が生まれたのです。
AIは「自分らしさ」をどこまで再現してよいのか
故人AIの核心は技術の可否ではなく、本人の同意、利用目的、開始と停止を誰が決めるかにある。
AIによる人物再現には、大きく三つの段階があります。
- 記録を残す:写真、音声、動画、手紙を保存する
- 声や姿を生成する:写真を動かし、本人に似た声で文章を読む
- 会話や人格を模倣する:日記やSNSを基に「その人ならどう答えるか」を生成する
三段階目では、本人が生前に一度も語っていない言葉をAIが作り出します。家族の思い出を語る、人生観を次世代へ伝えるといった前向きな使い方がある一方で、本人が望まない広告、政治的発言、財産分配に関する発言を生成する危険もあります。
大切なのは、故人AIを一律に良い、悪いと決めることではありません。本人が次のことを選べるようにすることです。
- AIによる再現を認めるか
- 写真、声、文章のどこまで使ってよいか
- 家族だけの利用に限定するか
- 一般公開や商業利用を認めるか
- 本人が語っていない内容を生成してよいか
- 誰が作成し、誰が停止・削除できるか
日本の個人情報保護法は、原則として生存する個人に関する情報を対象としています。ただし、故人の情報が同時に生存する遺族の情報でもある場合や、故人の著作物、遺族自身の人格的利益、名誉、契約上の権利が関係する場合には、別の法的問題が生じます。詳しくは、個人情報保護法の解説をご覧ください。
したがって、「亡くなった人の情報なら自由に利用できる」という意味ではありません。AIで作られた音声や映像が本人のものと誤解されれば、なりすましやディープフェイクの問題にもつながります。具体的なリスクは、ディープフェイク対策とAIガバナンスで整理しています。
海外では「声」やデジタルレプリカを守る動き
米国テネシー州では、2024年施行のELVIS法により、氏名や肖像に加えて「声」を保護対象として明確化しました。映画やゲームの分野でも、俳優の顔、声、動作をAIで再利用する際に、本人や適切な権限者の同意を求める契約整備が進んでいます。
海外の流れが示しているのは、AIによる再現をすべて止めることではありません。本人の選択を中心に置き、利用目的、期間、管理者を明確にするという方向です。各国のAI規制の違いは、AI規制の完全ガイドで解説しています。
今日から始める「残す・託す・範囲を決める」
制度の施行を待つ必要はなく、何を残し、誰に託し、どこまで使えるかを決めることから始められる。
終活と聞くと、財産目録、葬儀、墓、介護、相続税などを一度に決める作業を想像しがちです。しかし、最初からすべてを完成させる必要はありません。デジタル遺言を考える入口として、まず三つを整理します。
何を残すか
財産と契約だけでなく、写真、動画、音声、日記、ブログ、SNSなどを一覧にします。そのうえで、「残す」「削除する」「家族だけに渡す」を分けます。パスワードや暗号資産の秘密鍵は遺言書へ直接書かず、安全な別の方法で管理します。
誰に託すか
財産を受け取る人と、データを管理する人は同じとは限りません。遺言執行者、家族、専門家、デジタル機器に詳しい担当者など、役割を分けても構いません。「誰かが何とかしてくれる」ではなく、どの作業を誰に頼むかを言葉にします。
どこまで使ってよいか
写真や声を残す場合は、利用範囲も決めます。
- 家族だけで見ることを認める
- 本人が生前に録音した言葉の再生だけを認める
- AIによる新しい発言の生成は認めない
- 指定した事業者・期間・目的に限って認める
- 一般公開、広告、商品販売には使わない
「残すか、消すか」の二択ではなく、誰が、何の目的で、いつまで使えるかを決めることが大切です。
AIによる人物再現を認めない場合も、家族内の利用だけ認める場合も、その意思をエンディングノート、遺言の付言事項、死後事務委任契約などへ残します。ただし、その一文だけで第三者に対する包括的な差止権が生まれるとは限りません。契約、アカウントの公式設定、家族への共有を組み合わせることが現実的です。
AIサービスを利用するときは、保存期間、学習への利用、削除方法、事業者が終了した場合のデータの扱いも確認します。AIシステムの安全性は、AIが変えるセキュリティ、AIが生み出した発言や行動の責任境界は、Agentic AIの暴走とAIガバナンスも参考になります。
一次情報から確実に言えること
法律は成立済みだが、開始日、費用、電子署名、オンライン運用の詳細は今後の正式発表を確認する必要がある。
2026年7月時点で確実に確認できるのは、保管証書遺言が法律として創設され、署名等、全文口述、法務局での保管が必要になることです。システム改修を要する制度は、2026年6月24日の公布から3年以内に施行されます。
一方、具体的な利用開始日、申請手数料、電子署名や本人確認の方式、利用できるファイル形式、ウェブ会議を使える条件などは、今後の政令、省令、法務省の運用発表を待つ必要があります。
法務・税務上の注意本記事は一般的な制度理解のための情報です。相続人、財産、遺留分、事業承継、税務、家族関係によって適切な方法は異なります。個別の遺言作成や契約については、弁護士、公証人、司法書士、税理士などの専門家へ相談してください。
まとめ:終活は「自分らしさ」を未来へ渡す設計
デジタル遺言が問い直しているのは形式ではなく、自分の意思と思い出をどのように未来へ引き継ぐかである。
2026年の民法等改正法により、遺言は紙と手書きだけを前提とした制度から、電磁的記録を受け入れる制度へ動き始めました。保管証書遺言が施行されれば、手書きの負担を減らしながら、本人確認と法務局による公的保管を利用できるようになります。
ただし、デジタル遺言は、スマートフォンへファイルを保存するだけの制度ではありません。また、AI時代の終活は、財産の分け方だけを決めれば終わりでもありません。
写真を残すのか。声を残すのか。SNSを残すのか。AIによる会話の再現を認めるのか。誰に管理を託し、どこまで利用を認めるのか。
技術が選択肢を増やしたからこそ、本人の意思を明るく、具体的に残すことが大切になりました。
家族が将来、AIの作った「本人らしい答え」に頼らなくても済むように。
自分が答えられる今のうちに、自分自身の言葉で意思を残しておく。
スマートフォンのアルバムに残る笑い声や表情を、誰に、どこまで託すのか。その答えを自分の言葉で残すことが、2026年から始まる新しい終活の第一歩です。
専門用語まとめ
デジタル遺言とAI時代の終活を理解するために、主要な用語を簡潔に整理する。
- 保管証書遺言
- 電磁的記録等で作成し、本人による全文口述等を経て法務局で保管されることで効力が生じる、新しい普通方式の遺言です。
- デジタル遺言
- 広い意味では、デジタル機器やサービスで残す意思表示全般を指します。法律上の保管証書遺言とは区別が必要です。
- デジタル遺産
- ネット銀行、暗号資産、電子データ、オンライン上の権利や契約など、デジタル環境に存在する財産・データの総称です。
- 故人AI
- 故人の写真、声、文章などを基に、外見、音声、会話傾向をAIで再現したシステムです。
参考文献 / 出典
法制度に関する記述は、法務省、国会、個人情報保護委員会などの一次情報を中心に確認している。
補足Q&A
利用開始時期、アプリの効力、AI再現への意思表示について、検索時に多い疑問へ回答する。
Q1.デジタル遺言はいつから使えますか?
2026年6月に法律は成立・公布されましたが、2026年7月現在、保管証書遺言の具体的な開始日は未定です。公布日の2026年6月24日から3年以内に、政令で定める日に施行されます。
Q2.スマートフォンのアプリで作れば遺言として有効ですか?
アプリへ入力しただけでは、法律上の保管証書遺言にはなりません。署名等、保管官の前での全文口述、法務局での保管など、法律と省令で定める手続きが必要です。
Q3.AIで自分を再現しないでほしいと書けば禁止できますか?
本人の意思を示す重要な資料になりますが、その記載だけで、あらゆる第三者に対する包括的な差止権が生まれるとは限りません。契約、死後事務委任、公式設定、家族との共有を組み合わせることが重要です。
更新履歴
- 2026年6月成立・公布の民法等改正法を反映し、デジタル遺言とAI時代の終活ガイドへ全面改版。
- 初版公開。