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RelationalAI×Snowflake:最新ナレッジグラフ推論解説【2025】

RelationalAI×Snowflake:最新ナレッジグラフ推論解説【2025】

 

【2025/9/30 最新】RelationalAIが Snowflake社主催の「Modern Marketing Data Stack 2026」で AI/ML 分野の “One to Watch” に選出。
本記事では、サイロ化と用語不一致をリレーショナル知識グラフ(RKGS)で解消し、Snowflake上でデータ移動なしに推論・最適化まで一気通貫で回す方法を解説します。さらに、90日導入ステップと運用の勘所を、実務担当者向けに整理しました。

この記事の結論:
「意味統一(RKGS:Relational Knowledge Graph System)→差分追随(IVM:Incremental View Maintenance)→処方的最適化」をSnowflake内で実現するRelationalAIにより、データ移動なしで“根拠ある自動化”が加速する。 
  • 要点1:部門ごとにバラつく用語・定義を、データのそばのセマンティクスで統一し、ダッシュボード不一致を解消。
  • 要点2:返品・遡及修正へ差分再計算(IVM:Incremental View Maintenance)で準リアルタイム追随、速報性とコストを両立。
  • 要点3:目的関数×制約で意思決定を数学化し、在庫・需給・審査・マーケに説明可能な最善案を提供。
Q1. RelationalAIはSnowflake専用ですか?
A. 専用ではありません。マルチクラウドに展開していますが、Snowpark Container Services上のネイティブ統合が強みです。
Q2. グラフDBと何が違う?
A. RKGSは関係(リレーション)を第一級で扱い、事実(ベース)意味(導出)を同基盤で管理。再帰・制約・最適化まで単一ワークフローで実行できます。
Q3. 導入は難しい?
A. 既存Snowflakeにデータ移動なしで導入。まずは1ドメイン×KPI固定の90日スコープが最適です。

この記事の著者・監修者

ケニー狩野(Kenny Kano)
株式会社アープ取締役。AI開発に10年以上従事、特にディープラーニングや、LLMとDBを利用したRAG等の先端技術を用いた企業のAI導入を支援。
公的役職:一般社団法人Society 5.0振興協会にて、AI社会実装推進委員長を務める。中小企業診断士、PMP。著書に『リアル・イノベーション・マインド』

はじめに:企業が直面する「データ活用の壁」

要約:データは集まったのに定義がバラバラ──壁の正体は意味の断絶偶発的な複雑性です。
検証ポイント:「顧客」定義のズレ/部門別ダッシュボード不一致/仕様変更のたびに増えるコードと会議時間

企業が直面する「データ活用の壁」営業の「アクティブ顧客」と企画の「エンゲージドユーザー」は同じでしょうか?

意味の不統一こそ、AI/BIの全社活用を阻む最大の障害です。
さらに、要件→コードへの翻訳で意図が歪み、偶発的複雑性が雪だるま式に拡大します。
結果、手作業の調整システムのサイロ化が進み、コスト増・エラー増・意思決定の遅延が常態化します。
本記事では、この“壁”をSnowflakeの境界内で崩す新機軸――RelationalAI(RKGS+IVM+処方的最適化)のアプローチを解説します。

RelationalAIとは:データを動かさず「意味と推論」を載せる

RelationalAIは、Snowflakeに“隣接”して動くナレッジグラフ+推論の補助実行エンジン(ソフトウェア)
既存データを移動せず、同一アカウント境界のまま「関係(リレーション)・ルール・予測・最適化」を一体運用できます。
Snowflakeとのネイティブ統合が強みですが、製品自体はマルチクラウド展開です。

先に誤解を解く(2点)

  • Snowflake専用ではない:統合が強力なだけで、製品自体はマルチクラウド展開。
  • 「コプロセッサ」はハードではない:本記事でのコプロセッサは比喩。Snowflakeの汎用処理の“隣で”知識と推論を担うソフトウェア層(補助実行エンジン)を指す。

何が違う? 一般的なグラフDBとの違い

多くのグラフDBは「ノードと矢印」でつながりを表し、関係は“線”として扱います。
これに対してRKGS(RelationalAI)は、関係そのものを独立したデータ(レコード)として管理し、日時・価格・チャネルなどの属性や、ルール/制約/履歴を同じ土台で扱います。
その結果、定義の一元化・差分再計算(IVM)・制約下の最適化まで、データを動かさず同一基盤で完結します。

プロパティグラフ(例:Cypher)とRKGS(RelationalAI)の比較
観点 一般的なグラフDB RKGS(RelationalAI)
関係の表現 ノード間の矢印(エッジ)が中心。関係は「線」として保持 関係を“データ行”として扱う(主語・述語・目的語+属性・制約・履歴を一体管理)
事実と意味 事実グラフ中心。導出や定義はアプリ側に散在しがち 事実(ベース)と導出(定義・ルール)を同一基盤で一元管理
推論の範囲 経路探索・パターン照合が主用途 再帰・制約・最適化まで一枚岩。処方的に「最善案」を返せる
更新への強さ 全再計算になりやすく運用負荷が増大 差分再計算(IVM)で準リアルタイム追随。返品・遡及に強い
実行位置 専用基盤に別置き→データ移動が前提になりやすい Snowflake境界内で“隣接実行”→データを動かさない

最短の理解:意味をデータのそばに置き、差分で回し、制約の中で最善案を返すしかもSnowflakeの境界内で完結——それがRelationalAI。

「意味の断絶」を解く:RKGSで事実と定義を一箇所に

朝の合同会議は続く。

営業は「アクティブ顧客が2,300」、企画は「エンゲージドユーザーは1,850」。
数字が合わない理由は、“事実”は同じでも“数え方(定義)”が部門ごとに違うからです。RKGSは、この定義の違いを同じ土台で管理し、ダッシュボードの不一致を根本からなくします。RKGS:基底関係(Facts)と導出関係(Meaning)を同一基盤で管理し、定義の差を可視化

この章で確認できること:

アクティブ顧客やエンゲージドといった用語を、社内で同じ意味にそろえます。
ATP(Available to Promise)=在庫 − 予約数」のような計算式も、一か所で決めて共有します。定義を変えたときは、すべてのダッシュボードにすぐ反映されます。

RKGS(Relational Knowledge Graph System)は、Snowflake上の「購入・在庫・予約・支払い」といった事実データと、「アクティブ顧客」「ATP」などの数え方・ルール(定義)を同じ場所で管理します。
つまり、「何が起きたか(事実)」と「どう数えるか(定義)」をセットで持ち、常に同じ答えを返せるようにする仕組みです。

  • 在庫表示の食い違い:
    ECでは「在庫あり」なのに、出荷側は「出せない」。予約分が在庫から引かれていないのが原因。
  • RKGSの解き方:
    ATP=実在庫 − 予約数 を公式として一か所に定義。すべての画面と部門が、同じ公式から同じ数値を取るようにする。
  • 運用の軽さ:
    期間や閾値を変えるときは、定義だけ更新すれば全体に即反映。個別システムの修正や全件再集計は不要。

その結果、部門間のダッシュボードは一致し、会議は「数字合わせ」から“どの施策を打つか”の議論に進みます。

グラフDBとの違い:関係を「線」ではなく“入れ物”に

一般的なグラフDBは関係を「線(エッジ)」で表しますが、RKGSは関係そのものを情報を入れる“入れ物(テーブル行)”として扱います。
だから、なぜその結論になったかの説明や、社内ルールの適用、在庫配分などの最適化まで同じ場所で回せます。

営業と企画の合同会議:

会議で「昨日の売上、どの施策が効いた?」と部長。営業は「Aキャンペーンです」と答える一方、企画は「地域プロモの影響も大」と主張。

一般的なグラフDBだと「顧客A → 製品B(購入)」という“線”は引けますが、その線にいつ・どこで・いくらで・どのキャンペーンでといった詳しい事情を書き込みにくい。

RKGSなら、この関係そのものが正式な入れ物なので、日時・店舗・価格・キャンペーンIDなどを一緒に持てます。すると、「なぜAキャンペーンと言えるのか」を根拠つきで示せるわけです。

違いの核心(ポイントだけ)

  • 関係=入れ物:ノード間の“線”ではなく、関係自体が属性を持つ正式レコード。
  • 理由が残る:関係に紐づく属性(日時・場所・施策・契約など)から、結論の根拠をたどれる。
  • ルールと制約を直結:会計・法務の条件や社内ポリシーを、定義として同じ基盤に置ける。
  • 最適化まで一体:在庫・需給・審査ラインなどを目的関数×制約で解き、現場に“最善案”を返せる。
  • 差分更新(IVM)で速い:返品や遡及修正が来ても、変わったところだけ再計算。速報性とコストの両立。

まとめると、RKGSは「矢印の集まり」ではなく“関係そのものを第一級で扱う”知識の土台です。定義の統一から理由説明、そして最適化による打ち手の提示までを、Snowflakeの境界内で一気通貫に運用できます。

 

偶発的な複雑性を減らす:REL言語と差分再計算(IVM)

IVM:差分再計算で“変わったところだけ”更新

昨日の合同会議。部長が「昨日の売上、どの施策が効いた?」と尋ねると、営業は「Aキャンペーンです」と即答し、企画は「地域プロモの寄与が大きい」と反論した。両者が見ているダッシュボードの数字が微妙に違うせいで、議論は空回りする。原因は単純で、定義と集計のルールが部門ごとにばらけているからだ。

RelationalAI は、この“意味のずれ”を最初から潰しにかかる
やり方は二つの柱で説明できる。

一つ目の柱は「REL(関係のための宣言言語)」

やりたいことを短く書く。
例えば「アクティブ顧客=過去14日以内に購入した人、または連続ログイン中の人」「昨日の売上=日付が昨日の確定取引の合計」といった定義を、手順ではなく定義そのもので表す。定義は共有の置き場にあり、営業も企画も同じ文を参照する。期間窓や閾値を変えても、定義の差し替えだけで全員に同時反映される。

二つ目の柱は「IVM(差分再計算)」。

数字が変わったところだけを更新する仕組みだ。
返品が1件あった、キャンペーン対象を数%広げた――そんな変更が起きても、全件やり直さずに影響範囲だけが再計算される。だから、朝の売上速報は止まらないし、会議中に定義を微修正しても数分で更新が届く。

偶発的な複雑性を減らす:REL言語と差分再計算(IVM)

この二つがそろうと、同じ出来事を同じ言葉で数え、変更は即座に全員に届く
営業の画面も企画の画面も、元になっている定義は一つだけ。
部長が「では、Aキャンペーンと地域プロモの寄与を分解して見せて」と言えば、REL に書かれたルールに沿って、IVM が差分を保ったまま寄与分解を再計算する。議論は「数字合わせ」から「打ち手の検討」に戻る。

要するに、RelationalAI はデータそのものを動かさず、定義(意味)をデータのそばに置いて共有し、変化点だけを素早く更新する。これだけで、部門間の食い違いは日常から例外に変わる。今後の会議では、誰がどの画面を見ていても同じ答えになる――その状態が“標準”になる。

4つの推論を同じ土台で回す:グラフ/ルール/予測/最適化

ひとつの知識基盤の上で「見つける → 確かめる → 見通す → 決める」を往復できます。
ツールを行き来せず、同じデータ・同じ定義のまま結論まで到達するため、話が早く、根拠も残ります。

営業と企画のつづき:寄与は何が効いた?

部長「昨日の売上、Aキャンペーンと地域プロモのどっちが効いた?」。
チームはRKGSの上で、次の4ステップを同じ土台のまま回します。

1)グラフ(関係を見つける

何が何に影響したかのつながりを抽出します。たとえば
「キャンペーン閲覧 → カート投入 → 決済」の経路や、
共購買ネットワーク、地域コミュニティの塊(クラスター)を見つけます。

入力:クリック・購買履歴・位置情報
出力:影響経路・中心ノード・コミュニティ

2)ルール(根拠で確かめる

「直前24時間に接触した施策のみを寄与対象」
「社内購入は除外」など、寄与の判断基準をルールで明示。
その場の思いつきではなく、誰が読んでも同じ判定になります。

入力:寄与ルール・除外条件・コンプラ規定
出力:施策ごとの寄与フラグと根拠ログ

3)予測(先行きを見通す

関係の特徴(つながりの強さ・近さ・所属クラスター)を使って、
「次に買いそう」「離脱しそう」「需要が跳ねそう」を見積もります。
ルールで定義した用語や制約をそのまま特徴量にできるので、説明がしやすいのが利点です。

入力:関係特徴・過去の反応・季節要因
出力:来週の需要予測・離脱確率・見込み反応

4)最適化(制約の中で決める

目標(売上・利益・在庫回転)と制約(在庫・納期・法務・予算)をセットにして、
「どこに予算を配分し、何をいつ補充するか」
最善案を返します。
根拠(使われたルール・在庫・制約違反の回避理由)も同時に残ります。

入力:目的関数・制約・最新在庫と予約
出力:配分案・補充案・期待効果と説明

ポイント:

  • 同じ定義・同じデータで4つのステップを往復できる(途中でツールや定義を変えない)
  • 寄与の計算式や除外条件はルールとして可視化され、あとから監査・再現が容易
  • 差分再計算(IVM)で、返品1件・閾値変更などの小さな変化にもすぐ追随

まとめ:「見つける→確かめる→見通す→決める」を同じ土台で回せるから、
会議は数字合わせから打ち手の検討へ。現場が動きやすい理由と根拠が、最初から最後まで揃います。

4つの推論を同じ土台で回す:グラフ推論/ルールベース推論/予測分析/最適化分析


RelationalAI:4つの推論ワークロード

要約:
ひとつの知識基盤の上で「見つける → 確かめる → 見通す → 決める」を往復できます。ツールを行き来せず、同じデータ・同じ定義のまま結論まで到達するため、話が早く、根拠も残ります。

営業と企画のつづき:どの施策が効いた?

4つの推論を同じ土台で回す:グラフ推論/ルールベース推論/予測分析/最適化分析部長「昨日の売上、Aキャンペーンと地域プロモのどっちが効いた?」。
チームは次の4つの推論を、同じ土台(RKGS+IVM)でそのまま回します。

グラフ推論(関係を見つける)

施策と購買のつながりを抽出。例:「キャンペーン閲覧 → カート投入 → 決済」の経路、共購買ネットワーク、地域コミュニティの塊。

入力:クリックや購買の履歴データ/出力:影響経路・中心ノード・コミュニティ

ルールベース推論(根拠で確かめる)

寄与の判定基準を明示。例:「直前24時間に接触した施策のみ寄与対象」「社内購入は除外」。誰が見ても同じ判定になり、監査も容易。

入力:寄与ルール・除外条件・コンプライアンス規定/出力:施策別の寄与フラグと根拠ログ

予測分析(先行きを見通す)

つながりの強さや近さ、所属クラスターなどの関係特徴から、「次に買いそう」「離脱しそう」「需要が跳ねそう」を見積もる。定義や制約を特徴量として使えるので説明しやすい。

入力:関係特徴・過去反応・季節要因/出力:需要予測・離脱確率・見込み反応

最適化分析(制約の中で決める)

目標(売上・利益・在庫回転)と制約(在庫・納期・法務・予算)をセットにして、「どこに予算を配分し、何をいつ補充するか」の最善案を返す。使われたルールや在庫、制約回避の理由を同時に保存。

入力:目的関数・制約・最新在庫と予約/出力:配分案・補充案・期待効果と説明

ポイント:

  • 同じ定義・同じデータで4つの推論を往復(途中でツールや定義を変えない)
  • 寄与の計算式や除外条件はルールとして可視化され、あとから監査・再現が容易
  • 差分再計算(IVM)により、返品や閾値変更など小さな変化にもすぐ追随

まとめ:見つける → 確かめる → 見通す → 決めるを同じ土台で回せるから、会議は数字合わせから打ち手の検討へ。現場が動きやすい理由と根拠が、最初から最後まで揃います。

最新アップデート:Text-to-Reasonerとエコシステム

【2025年9月30日】Snowflakeの「Modern Marketing Data Stack 2026」でRelationalAIがAI/ML Development & DeploymentカテゴリーのOne to Watchに認定。マーケ領域では、関係性を用いたハイパーパーソナライゼーションや予測セグメンテーションの実装文脈で評価が高まっています。

【2025年6月3日】Snowflake SummitでText-to-Reasoner(プレビュー)を発表。RAGやtext-to-SQLの一歩先として、RKGSに定義された意味・ルール・制約に基づく推論/シミュレーションを志向。AT&Tとの共同提出でSpider 2.0ベンチマークにて上位成績を発表。

【2025年9月23日】Snowflake・Salesforce・BlackRock・dbt Labs・RelationalAIなどがOSI(Open Semantic Interchange)を共同発表。メトリクス・ディメンション・関係の共通語彙をオープンに定義し、ベンダー間の意味互換性を高める“セマンティクスのロゼッタストーン”構想が動き出しました。

実世界の片鱗:説明可能な推奨と大企業導入例

部長が「この製品、なぜ今補充なの?」と聞くと、画面には“理由”が並びます。
・安全在庫を下回っている(目安は7日分)
・リードタイムは14日、予約注文が120件ある
・代替品の在庫も薄い/販促Aが継続中
結論と根拠がセットで見えるので、議論は「数字合わせ」ではなく「次の一手」に集中できます。

公開されている導入例(要点)

・AT&T:
Snowflakeの公式発表で、RelationalAIを使った不正検知や依存関係の可視化が紹介。
・Cash App(Block):
コミュニティ検出や中心性分析など、グラフ手法の活用事例が資料で説明。
・Blue Yonder:
サプライチェーンのナレッジグラフで、レガシーコードを大幅削減し、処理時間を短縮したと一次情報で言及。

現場でのメリット(まとめ)

・推奨に“なぜそう言えるか”が添えられ、納得と実行が進む
・ルールや制約、計算式が明示され、説明責任や監査に強い
・差分更新(IVM)で、返品や遡及修正にもすばやく追随

まずは自社の優先領域で「結果」と「理由」を同じ画面で出す体験を作る。そこから全社展開へ広げるのが近道です。

どのビジネスに向くか:在庫・需給・不正・売上認識・マーケ

要約:
定義が食い違い、かつ素早い判断が求められる領域ほど、RKGS+IVM+最適化の相性が良い。結果だけでなく「なぜその結果か」の理由も示せるため、現場が動きやすくなります。

よく効く場面の例

  • 在庫/需給:在庫と予約が別管理で数字が合わない問題を、
    RKGSで定義を一箇所に集約し、
    IVMで入出荷や返品の差分だけ即時反映
    欠品率が下がり、納期の守りやすさが上がります。
  • 不正検知:アラート過多で対応が追いつかない状況を、
    ルールをRKGS側に明示し、IVMで新しいパターンだけ再計算。
    偽陽性が減り、初動が速くなります。
  • 売上認識:遡及修正のたびに全再集計していた運用を、
    締め条件や返品の扱いなどの定義をRKGSに置き、
    IVMで変更点だけ再計算。月次締めの時間を短縮できます。
  • マーケティング:部門ごとにKPI定義が違い効果測定で揉める課題を、
    用語と計算式を共通化し、寄与分解を差分で更新
    施策の良し悪しがすぐ見えるようになります。

導入すると何が変わるか

  • 定義の一本化で「数字合わせの会議」が減る
  • 差分再計算で速報が途切れず、意思決定が早まる
  • 最適化で目的と制約を明文化し、現実的な最善案を自動提示できる

効果を測る指標の例

  • 欠品率、納期遵守率
  • 偽陽性率、初動までの時間
  • 月次締め所要時間
  • LTVや施策ROIの改善幅

まとめ

課題の根っこは「定義が散らばっている」「更新が遅い」「次の一手が決まらない」の三点です。
RKGSで定義をまとめ
IVMで差分だけ素早く回し
最適化で打ち手を決める
この流れが入ると、KPIがぶれずに回り始めます。

まとめ:データを動かさず「意味と推論」を現場に届ける

RelationalAIは、Snowflakeのアカウント境界の中で、データのそばに意味(セマンティクス)を置き、差分だけを素早く更新し、決められた制約の中で最善案を返すための“根拠ある自動化”の土台です。
部門ごとの用語ズレやシステムのサイロ化、全件再計算の遅さといった長年の悩みを、RKGS+IVM+最適化の組み合わせで具体的に解消します。
まずは「1ドメイン × KPI固定」で90日間のスモールスタート。
その後は、OSIによる共通語彙や SPCS のネイティブ実行を活かして横展開し、欠品率、納期遵守、不正検知の偽陽性、月次締めの所要時間、LTV といった“経営に効くKPI”で定着させてください。

専門用語まとめ

RKGS(Relational Knowledge Graph System:リレーショナル知識グラフ)
事実(ベース関係)と意味(導出関係)を同基盤で扱い、定義ズレの可視化と説明可能性を高めるアプローチ。
IVM(Incremental View Maintenance:差分再計算)
変更の影響範囲だけを更新する方式。速報性・コスト・監査性を両立させる。
SPCS(Snowpark Container Services)
Snowflake内でコンテナ化アプリを実行する仕組み。RelationalAIのネイティブアプリがここで動作し、データ移動なしで推論を実行。
GNF(Graph Normal Form:グラフ正規形)
第六正規形(6NF)に基づく完全正規化。各リレーションはキー列+最大1つの値列で、NULLや空行を排除。
OSI(Open Semantic Interchange)
Snowflake・Salesforce・BlackRock・dbt Labs・RelationalAIなどが推進する、メトリクス・ディメンション・関係の共通語彙を定めるオープン標準。
Text-to-Reasoner
自然文の質問を、定義・ルール・制約に基づく推論に接続する機能。2025年時点ではプレビュー段階。

よくある質問(FAQ)

Q1. RelationalAIはSnowflake専用ですか?

A1. 専用ではありませんが、Snowflakeネイティブ統合(Marketplace導入/SPCS稼働)に強みがあり、境界内実行でデータ移動を不要化できます。

Q2. グラフDBと比べたメリットは?

A2. RKGSは関係を第一級で扱い、再帰・制約・最適化を同じ知識基盤で運用。導出の根拠追跡が容易で、監査・説明責任に強いのが特徴です。

Q3. どこから始めるのが最短ですか?

A3. 在庫・需給/不正/売上認識/マーケなど、KPIと痛みが直結する1ドメインで90日スコープ。定義統一→IVM→最適化の順で段階導入が現実的です。

Q4. 既存BIや業務OSは使い続けられますか?

A4. はい。推論結果はSnowflakeのビュー等で公開でき、既存のダッシュボードや業務OSがそのまま消費できます。

主な参考サイト

合わせて読みたい

更新履歴

  • 初版公開
    (2025年9月30日のMarketing Stack認定、9月23日のOSI発表、6月3日のText-to-Reasoner発表等、2025年の最新情報を反映)

 

ABOUT ME
ケニー 狩野
AI開発に10年以上従事し、現在は株式会社アープ取締役として企業のAI導入を支援。特にディープラーニングやRAG(Retrieval-Augmented Generation)といった最先端技術を用いたシステム開発を支援。 一般社団法人Society 5.0振興協会ではAI社会実装推進委員長として、AI技術の普及と社会への適応を推進中。中小企業診断士、PMP。著書に『リアル・イノベーション・マインド』。