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AI

Sakana AI完全解説:NamazuモデルからM2N2まで【2026年3月最新】

最終更新:

※本記事は継続的に「最新情報にアップデート、読者支援機能の強化」を実施しています(履歴は末尾参照)。

この記事を読むとSakana AIの革新的な技術(M2N2・Namazu・AI Scientist)と日本の「ソブリンAI」戦略における重要性がわかり、AI業界の次世代トレンドを把握できるようになります。

この記事の結論:Sakana AIは、巨大リソースに依存する「スケーリング則」とは異なる「進化的AI」アプローチで急成長する、日本の「ソブリンAI」戦略の中核企業です。
  • 要点1:2026年1月、Googleとの戦略的パートナーシップを締結。2025年11月のSeries Bで評価額約26.5億ドル(約3,600〜4,000億円規模)に達したと複数メディアが報じており、日本史上最速でメガユニコーンに到達した。
  • 要点2:先行研究『Evolutionary Optimization of Model Merging Recipes』がNature Machine Intelligenceに掲載され、その発展形である「M2N2(進化的モデルマージ)」が中核技術となっている。2026年3月には日本特化モデル「Namazu」と無料チャット「Sakana Chat」を公開し、消費者向け市場へ初参入。
  • 要点3:防衛装備庁との委託研究契約(2026年3月)・三菱電機出資・シティグループ戦略投資など、「ソブリンAI」の切り札として国家・産業・金融の全方位で連携が加速している。

→ まずは第4章:M2N2革命で基本技術を理解し、次に第2.5章:2026年の戦略大転換でNamazuと防衛参入の最新動向を確認しましょう。

この記事の著者・監修者 ケニー狩野(Kenny Kano)

Arpable 編集部(Arpable Tech Team)
株式会社アープに所属するテクノロジーリサーチチーム。人工知能の社会実装をミッションとし、最新の技術動向と実用的なノウハウを発信している。
役職(株)アープ取締役。Society 5.0振興協会・AI社会実装推進委員長。中小企業診断士、PMP。著書『リアル・イノベーション・マインド』

革新的AI技術:sakana.aiの魅力と未来

序論:AIの潮流に逆らう「赤い魚」

2026年現在、AI開発は「スケーリング則」が主流ですが、東京のSakana AIは「進化」や「モデル融合」という異なる哲学で急成長しています。同社は世界的な技術権威と日本の国家戦略資産という二重の顔を持つ、特異な存在です。

巨大なGPUサーバールームの青い光の中を、赤い1匹の魚がネオンの残像として泳いでいるイメージ。群れから離れて独自の方向に進む象徴的な視覚表現。
解説:「群れに従わず、自らの進化戦略で泳ぐ赤い魚」というSakana AIの思想的メタファー。巨大計算資源への依存ではなく「進化と融合」で戦うという宣言を象徴する。

2026年、人工知能(AI)開発の潮流は、依然として「スケーリング則」の支配下にあります。より多くのデータを、より巨大な計算資源(GPUクラスタ)で、より大規模なTransformerアーキテクチャに投入する──。この力任せとも言える競争が、AIの性能向上の最短経路であると信じられています。

しかし、その激流に逆らい、まったく異なる航路を泳ぎ始めた一匹の「赤い魚」がいます。東京を拠点とするAI研究開発企業、Sakana AIです。

同社のロゴに描かれた、群れから離れて独自の方向へ進む赤い魚は、単なるデザインではありません。それは、「進化(evolution)」「群れ(collective intelligence)」「モデル融合(model merging)」といった自然界の生物的メタファーに着想を得て、新たなAIパラダイムを創造するという、業界の常識に挑戦する同社の哲学そのものを象徴しています。

Sakana AIは、2023年7月の設立からわずかな期間で、特異な二重のアイデンティティを確立しました。

一方では、現在の生成AIブームの火付け役となった独創的な論文『Attention Is All You Need』の共著者であるLlion Jones氏(CTO)と、Google Brainの元研究者であるDavid Ha氏(CEO)という、世界的な権威によって率いられる最先端の研究機関としての顔。

そしてもう一方では、日本の技術的野心と国家戦略において極めて重要な役割を担う、「戦略的国家資産」としての顔です。

このグローバルな研究リーダーシップと、国家レベルでの戦略的重要性という二面性こそが、Sakana AIを理解する上での鍵となります。本記事では、2026年3月最新の動向に基づき、同社の記録的な資金調達、革新的なコア技術、経営陣が描く未来像、そして日本における地政学的な重要性を網羅的に分析し、その全貌を解き明かします。

この章ではSakana AIの特異な立ち位置を確認しました。次の章では、まず「Sakana AIとは何か」を簡潔に定義し、その上で驚異的な成長スピードと投資家戦略を解説します。


第1章:Sakana AIとは?(概要とポジショニング)

Sakana AIは東京拠点のAIスタートアップで、Transformer共同開発者らが設立。巨大GPUの物量戦ではなく、既存モデルを融合・進化させる独自技術「M2N2」を武器に、国家的なAI主権(ソブリンAI)を支える企業として注目されています。

Sakana AIは東京を拠点とするAI研究・開発スタートアップで、Transformer共同開発者のLlion Jones氏らが設立。巨大GPUクラスタの物量戦(いわゆるスケーリング則)ではなく、既存モデルを融合・進化させる独自技術「M2N2」を武器に、国家的なAI主権(ソブリンAI)を支える企業として注目されています。

同社は、世界的な技術リーダーシップと、日本の国家戦略における重要性という二重のポジショニングを持つ点が特徴です。

この章でSakana AIの基本的な定義を確認しました。次の章では、その驚異的な成長スピードと、それを支える投資家戦略について具体的に見ていきます。


第2章:Sakana AIの異次元成長と戦略転換——評価額約26.5億ドルのメガユニコーンへの道

Sakana AIは2025年11月のSeries Bで評価額約26.5億ドル(約3,600〜4,000億円規模)に達したと複数メディアが報じており、正式に「メガユニコーン」の仲間入りを果たしました。Googleとの戦略提携、シティグループの戦略的投資、三菱電機出資など、2026年に入り資金調達と戦略提携が一気に加速しています。

大都会の高層ビル群の夜景。東京とシリコンバレーの金融・テック資本が一本のラインで接続されているようなイメージ。
解説:東京の金融・産業資本と、米シリコンバレー系VC/NVIDIAが同時に支える構図。Sakana AIは「国内の国家的基盤」と「世界のトップAI投資家」の二重の支持を受ける稀有な存在だ。

2.1 記録的スピードでの資金調達と「メガユニコーン」入り

Sakana AIの成長速度は、日本のスタートアップとして前例のないものです。2024年9月時点で、シリーズAラウンド後の評価額が約15億ドルに到達し、日本発スタートアップとして異例のスピードでユニコーン帯に入ったと報じられました。

そして2025年11月、Series Bラウンドで約200億円(約1億3,500万ドル)の資金調達を完了し、企業評価額は約26.5億ドル(約3,600〜4,000億円規模)に達したと複数メディアが報じている。正式にメガユニコーンの仲間入りを果たしています。MUFGをはじめとする金融機関、複数の国内外VCに加え、Googleからの資金調達も2026年1月のパートナーシップ締結と同時に実施されました。

この急速な評価額の上昇は、同社の技術的進捗と戦略的価値が、投資家から極めて高く評価され続けていることの証明です。

2.2 「研究ラボ」から「事業会社」への戦略シフト

資金調達の資金使途として、単なる研究者・エンジニアの採用拡大だけでなく、「営業・導入支援・流通面の拡大」が明確に挙げられています。

これは、Sakana AIが純粋な「研究開発ラボ」のフェーズから、技術の商業化と市場浸透を目指す「事業会社」へと、戦略の重心を明確にシフトしつつあることを示しています。

このシフトを裏付けるように、CEOのDavid Ha氏は「1年以内の黒字化」を公約しています。後述するMUFG・大和証券・三菱電機との提携は、単なるPoCではなく「複数年スパンの実務導入」を前提としたもので、Sakana AIの技術を銀行業務・投資提案・製造業務といった収益直結領域に組み込む取り組みです。

2.3 異例の二重投資家基盤:「シリコンバレー」と「オールジャパン」

Sakana AIの特異性を最も色濃く反映しているのが、その投資家基盤です。シード段階ではLux Capitalなど米国のディープテック系VCが参加し、シリーズAではNEA(New Enterprise Associates)など著名VCの出資が報じられています。一部ではKhosla Venturesといったシリコンバレー系投資家の関与も伝えられており、NVIDIAも戦略的パートナーとして名を挙げます。

同時に、日本側では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)など3大メガバンクや、NEC、富士通、KDDI、NTT、ソニーといった各業界を代表する日本企業群が支援主体として関与。さらに2026年2月にはシティグループから戦略的投資を受け、同年3月には三菱電機が出資を発表するなど、投資家基盤はグローバルにさらに多様化しています。

これは”シリコンバレーのトップ層”と”オールジャパン産業・金融連合”という、国家レベルでの極めて珍しい二重の支援構造が形成されていることを意味します。なお企業評価額の詳細は同社公式リリースおよび複数メディア報道を総合すると約26.5億ドル規模と報じられている。

この章ではSakana AIの異例の成長とそれを支える体制を見ました。次の章では、2026年に集中した戦略的大転換——Namazu公開・防衛参入・Google提携——を詳しく解説します。


第2.5章:2026年の戦略大転換——Namazu・防衛・Google提携

2026年に入ってSakana AIは「研究機関」から「社会実装企業」へのシフトを一気に加速させた。消費者向けチャットサービスの公開、国防領域への参入、Googleとの戦略提携という3つの軸が同時進行しており、評価額は約26.5億ドル規模に達したと複数メディアが報じている。

2.5.1 日本仕様モデル「Namazu」とSakana Chat公開(2026年3月24日)

2026年3月24日、Sakana AIは日本特化型言語モデル「Namazuシリーズ」(α版)と、それを搭載したチャットサービス「Sakana Chat」を公開した。同社が一般ユーザー向けのプロダクトを公開するのはこれが初めてであり、「研究ラボ」から「プロダクト企業」への転換を明確に示す一手となった。

Namazuはオープンウェイトの既存高性能モデルを、Sakana AI独自の「事後学習技術」で日本仕様に再適応させたモデルである。ベースモデルにはDeepSeek-V3.1、Llama-3.1-405B、GPT-OSS-120Bの3種類を採用。海外モデルが特定のデリケートな話題に対し回答を拒否したり、開発元のイデオロギーを反映した出力を行う問題を抑制しており、同社が公表した独自ベンチマークでは、Namazu-DeepSeek-V3.1-Terminusにおける特定タスクの回答拒否率がベースモデルの約72%からほぼゼロまで低減したと報告されている

Sakana Chatはアカウント登録不要・無料で利用可能(日本国内限定)。Web検索機能を統合しており、リアルタイム情報を取得して回答に反映する設計になっている。今後は複数のモデルウェイト公開とテクニカルレポートの公開も予定されている。なお、NamazuはSakana AIの「既存の高性能オープンモデルを活用し、日本仕様へ適応させる」路線を体現したプロダクトであり、同社の一貫した技術思想が反映されている。

※ Namazuの詳細な技術解説・Sakana Chatの使い方については、スポーク記事「Sakana AI「Namazu」完全解説:日本特化モデルの実力と使い方【2026年】」を参照。

2.5.2 防衛装備庁との委託研究契約締結(2026年3月13日)

2026年3月13日、Sakana AIは防衛装備庁 防衛イノベーション科学技術研究所と、「複数AI技術の組み合わせによる観測・報告・情報統合・資源配分高速化の研究」に関する複数年の委託研究契約を締結した。

研究の対象は陸・海・空のドローンを含む全領域で発生する膨大なマルチモーダルデータの統合分析であり、指揮統制システム(C2システム)の高度化を目指す基盤技術開発となる。Sakana AIが強みとするエッジデバイス上で動作する小規模視覚言語モデル(SVLM)技術と、複数AIエージェントの協調制御技術を軸に研究が進められる。

同社はこの分野を「金融」と並ぶ注力領域と明言しており、防衛・インテリジェンス専門チームを社内に編成している。この防衛参入は、低コスト・低電力での独自AIモデル開発というSakana AIのソブリンAI戦略の延長線上にある必然的な一手といえる。

2.5.3 Google戦略提携と評価額26.5億ドル到達(2026年1月)

2026年1月23日、Sakana AIは米Googleとの戦略的パートナーシップ締結を発表した。Googleが提供するGeminiおよびGemmaを自社の研究・プロダクト開発に活用し、日本のAIエコシステム発展と信頼性の高いAI導入を共同で推進する内容で、Googleからの資金調達も同時に実施された。

このパートナーシップにより、Sakana AIが研究している複数モデル協調推論技術「AB-MCTS」とGeminiモデル群を組み合わせた実証が加速する見込みだ。また金融機関・政府機関など高度なセキュリティが求められる基幹産業への信頼性の高いAI導入支援を両社で手がけるとしている。

2026年2月にはシティグループから戦略的投資を受け、3月には三菱電機が出資を正式発表。三菱電機は同社のSerendie関連事業拡大を目的とし、「複雑かつ暗黙知を多く含む高難度業務のAI最適化」での協業を開始する。

📊 Key Numbers — Sakana AI 2026年3月時点

  • 企業評価額:約26.5億ドル(約3,600〜4,000億円規模)/Series B・複数メディア報道
  • Namazu-DeepSeek-V3.1-Terminus 回答拒否率改善:約72% → ほぼ0%(独自ベンチマーク・特定タスク)
  • Namazuベースモデル:3種類(DeepSeek-V3.1・Llama-3.1-405B・GPT-OSS-120B)
  • 防衛装備庁委託研究:複数年の大規模基盤技術開発
  • AI Scientistコスト:約15ドルで1論文を自動生成
  • ALE-Agent AHC058順位:804人参加中1位(2026年1月・同社報告)

この章では2026年の大型アクションを確認しました。次の章では、これらを生み出す「人」——世界的な権威である創業者たちを紹介します。


第3章:日本発の有力AIスタートアップと創業者の顔

本章では、AI業界の著名人を含むSakana AIの創業者たちを紹介します。CEOのDavid Ha氏、CTOでTransformer開発者のLlion Jones氏、そして日本の政財官との「ハブ」役を担うCOOの伊藤錬氏という、技術と経営のトップタレントが集結しています。

Sakana AIは、元Google研究者のDavid Ha氏とLlion Jones氏、そして元外務省・メルカリ執行役員の伊藤錬氏によって2023年7月に東京で設立されました。

※)左からデイビッド・ハ氏(CEO)・ライオン・ジョーンズ氏(CTO)・伊藤 錬氏(COO)
出典:Sakana AI 公式発表資料

David Ha(デイビッド・ハ)- CEO

東京大学で博士号取得後、Google Brain(東京)で研究をリード。Stability AIでDiffusion Modelsの開発に貢献。AI研究の最前線で活躍し、革新的な技術開発の経験を持つ。Sakana AIでは、CEOとして会社全体のビジョンと戦略を指揮。

Llion Jones(ライオン・ジョーンズ)- CTO

AIの基盤技術であるTransformer(現在の大規模言語モデルの基礎となるニューラルネットワーク・アーキテクチャ)の共同開発者。Googleで12年間勤務し、AI技術の革新に貢献。Sakana AIでは、CTOとして進化的モデルマージなどの新技術開発をリード。

伊藤錬(いとう・れん)- COO

外務省でキャリアをスタートし、メルカリ執行役員として国際事業を率いた後、Stability AIでCOOを務めた人物だ。Sakana AIでは、研究陣が描く技術的ビジョンと、日本の国家戦略・産業界(政府、メガバンク、通信・製造大手など)をつなぐハブの役割を担っている。政財官とのアライアンス構築こそが彼のコア領域であり、MUFG・大和証券・三菱電機等との長期提携にも深く関わっている。

この三位一体の布陣が、技術とビジネスの両輪を同時に高速で回す原動力となっている。

ホワイトボード前で議論する国際色豊かな少人数スタートアップ創業メンバー。研究者と事業責任者が同じテーブルで設計資料を見ている。(Concept image. © Arpable / AI-supported.)

解説:技術トップと経営・政策サイドが同じ場で議論し、研究と事業化を同時に進める体制。Sakana AIは「研究室」と「会社」の境界を最初から曖昧にしている。
日本での起業を選んだ理由は後述(第7章)しますが、創業者たちの日本への愛着や文化的魅力が挙げられます。また、日本の地政学的な立場や、採用市場の優位性も重要な要因でした。さらに、日本政府のAI政策支援や産学連携による技術革新の可能性も、Sakana AIの戦略的選択に影響を与えています。

この章では、Sakana AIの「人」の強さを確認しました。次の章では、彼らが生み出した中核技術であり、その先行研究がNature Machine Intelligenceに掲載された「M2N2」とは何かを深掘りします。


第4章:M2N2革命:Nature系査読誌掲載の「進化するAI」

Sakana AIの中核技術は、モデル同士を「進化的に掛け合わせる」革新的な路線にあります。先行研究『Evolutionary Optimization of Model Merging Recipes』がNature Machine Intelligenceに掲載され、M2N2はその流れを受けつつ後続研究の知見も統合して発展した手法です。再学習(勾配計算)が不要な「勾配フリー」のアプローチで、低コストかつ高性能なAI開発を可能にします。

Sakana AIの企業価値を支える中核は、その独創的な技術思想にあります。彼らは「より大きいLLMを焼く(訓練する)」という業界のメインストリームから離れ、「モデル同士を進化的に掛け合わせて次の世代を生む」という革新的な路線を追求しています。

4.1 スケーリング則へのアンチテーゼ:「進化するAI」

Sakana AIの研究の柱は「進化」「群れ」「モデル融合」という生物的メタファーです。大規模モデルを一から再学習するのではなく、複数の既存のオープンソースモデルの”良いところ”だけを自動的に合成(マージ)し、新しい能力を持つモデルを次々に生み出す手法を推し進めています。(この「進化するAI」の概念については、別記事「進化するAI「AlphaEvolve」とは?Sakana AIの革新的アプローチを解説」でも詳しく解説しています)

この進化的アプローチは、先行研究『Evolutionary Optimization of Model Merging Recipes』がNature Machine Intelligenceに掲載されたことで学術的評価を得ており、M2N2はその流れを受けつつ後続研究の知見も統合して発展した手法である。

4.2 M2N2 (Model Merging of Natural Niches) の核心

2つの異なるAIモデルが立体的なDNAのように交差し、中央で新しいモデルが形になる瞬間をマクロ撮影したようなビジュアル。
解説:M2N2のイメージ:大規模モデルを再学習せず、複数の専門モデルを「融合」して次世代モデルを生み出す。GPUと電力を大量消費する従来型アプローチへの代替路線となる。

M2N2 (Model Merging of Natural Niches) と呼ばれる手法は、AIモデル開発に自然界の進化の原理を適用したものです。特に以下の3つの革新的なメカニズムに基づいています。

1. 競争による多様性の維持 (Diversity through Competition)

計算資源(データ例)を意図的に制限し、モデル間に生存競争を引き起こします。これにより、各モデルは他のモデルが苦手とするデータポイントで優れた性能を発揮するよう「生態学的ニッチ」を見つけて特化します。これが、進化のプロセスが単一の凡庸な解に収束するのを防ぎ、多様な専門スキルを持つモデル群を維持します。

2. 知的な「配偶者選択」 (Intelligent “Mate Selection”)

モデルをマージする際、無作為にペアリングするのではなく、「魅力(attraction)」と呼ばれるヒューリスティクスを用います。これは、互いの弱点を補い合えるような、相補的な強みを持つモデル同士を知的に引き合わせるメカニズムです。この賢いペアリングにより、進化の探索効率が劇的に向上します。

3. 動的なマージ境界 (Dynamic Merging Boundaries)

従来の手法がモデルの層(レイヤー)といった固定的な単位でマージしていたのに対し、M2N2はモデルを組み合わせる「分割点」を動的に調整します。例えば、1つのレイヤーの30%をモデルAから、70%をモデルBから統合するといった柔軟な「遺伝子交換」を可能にし、探索空間を飛躍的に拡大させます。

4.3 「勾配フリー」がもたらす戦略的優位性

M2N2の最大の強みは、これが「勾配フリー(gradient-free)」な手法である点です。

AIの「訓練(学習)」とは、本質的に勾配降下法(逆伝播)という計算プロセスであり、膨大な計算コスト(=GPUと電力)を必要とします。しかし、M2N2は既存モデルの「重み」をそのまま利用し、進化的アルゴリズムによって最適な組み合わせを発見するだけです。高価な再学習(勾配計算)や巨大なデータセットの再収集が一切不要なのです。

これは、AI開発における地政学的な資源制約に対する戦略的な解答となります。世界的なGPU不足やエネルギーコストの高騰に直面する中で、M2N2は、巨大なGPUクラスタを持たない企業や国家でも、独自の競争力あるAIモデルを開発する道を開く「民主化」の技術と言えます。

4.4 実証された成果:専門性と創発的能力の獲得

M2N2は単なる理論ではありません。Sakana AIは具体的な成果を次々と発表しています。

専門性の統合

数学に特化したLLM(WizardMath-7B)とウェブタスクに特化したLLM(AgentEvol-7B)を統合し、両方のベンチマークで高い性能を維持する単一のモデルを創出しました。

創発的なバイリンガル能力の獲得

日本語プロンプトで訓練された画像生成モデル(JSDXL)と、英語の高品質な画像生成モデル(Stable Diffusion)を統合。その結果、単に両言語に対応しただけでなく、日英バイリンガルなプロンプト(例:「a cat sitting on 畳」)を正確に理解し、高品質な画像を生成するという、親モデルにはなかった「創発的」な能力を獲得しました。

日本語数学LLMの開発

同様の手法で、日本語モデルと英語の数学モデルをマージし、日本語での数学的推論能力を持つ世界最先端のLLMを開発しました。これらの成果が、先行研究のNature Machine Intelligence掲載という学術的評価とともに、M2N2の信頼性を裏付けています。

4.5 最新動向:1つの巨大モデルではなく”モデル同士のチーム”へ

2025年以降、Sakana AIは複数のLLMを役割分担させ、推論中に木探索(MCTS)で候補を広げて絞り込む「Multi-LLM AB-MCTS」というアプローチを公開しました。これは”1モデルを巨大化する”従来路線ではなく、“複数モデルを協調させて問題を解く”という新しい推論スタイルで、Sakana AIの「スケール=GPU台数ではなく知能の組み合わせ方で勝つ」という思想を体現しています。

またAtCoderと共同で、組合せ最適化タスクにおけるAIの実力を測定する新ベンチマーク「ALE-Bench」を公開。2026年1月には同技術をベースにしたAIエージェントがAtCoder Heuristic Contest 058(AHC058)において、804名の人間参加者を上回り1位を獲得したと同社が報告している

この章では、AIを「作る」技術(M2N2)を見ました。次の章では、AIが「自ら研究する」という、Sakana AIのもう一つの野心的なプロジェクト「AI Scientist」を紹介します。


第5章:AI Scientist:科学的発見を自動化する「自律研究エージェント」

Sakana AIの「AI Scientist」は、科学研究のプロセス全体を自動化する「自律研究エージェント」です。2025年3月、このAIが生成した論文がトップ国際会議ICLRのワークショップ査読を通過し、同社は「我々の知る限り初めてのケース」と説明しています。

5.1 史上初、AIが生成した「査読通過論文」

深夜の研究ラボで、無人のまま複数のスクリーンが自動実験ログと論文PDFプレビューを表示している様子。
解説:人がいないのに研究が進んでいく――AI Scientistは仮説出しから実験コード生成、結果分析、論文ドラフト作成までを自動で回し続ける「自律研究エージェント」だ。

AI Scientistは、LLMを司令塔として、科学研究のプロセス全体を自動化する「自律研究エージェント」です。研究テーマの設定、先行研究の調査、仮説立案、実験コードの生成・実行、結果の分析、そして学術論文の執筆までを、ほぼ自動で実行します。

2025年3月、このプロジェクトは歴史的なマイルストーンを達成します。AI Scientistが自動生成した論文が、AI分野のトップ国際会議であるICLR 2025のワークショップにおいて、人間の専門家による二重盲検査読(double-blind peer-review)を通過したのです。Sakana AIは「AIが自動生成した論文がトップ国際会議ICLRのワークショップ査読を通過したのは、私たちの知る限り初めてのケース」と説明しています。

5.2 AI Scientist-v2への進化と研究の民主化

このシステムは「The AI Scientist-v2」へと進化しています。初代モデルが人間によるコードテンプレートに依存していたのに対し、v2ではその依存を排除。新たに「実験マネージャーエージェント」と「エージェント木探索アルゴリズム」を導入し、より深く体系的な実験を自律的に計画・実行できるようになりました。

驚くべきはそのコスト効率です。Sakana AIの技術資料では、各研究アイデアの実装から完全な論文(LaTeX形式)のドラフト生成までに要するコストは、1テーマあたり約15ドル(約2,250円)と試算されている。これは、科学的発見のプロセスを劇的に加速させ、「研究の民主化」をもたらす可能性を秘めています。

5.3 現実的な課題と「AIがAIを改良する」ループ

もちろん、AI Scientistはまだ全能ではありません。採択された論文はメイン会議ではなくワークショップレベルであり、内容は期待通りの結果が出なかった「ネガティブ・リザルト」の報告でした。第三者による評価では、文献レビューがキーワードマッチングに依存しており不十分である点や、実験の42%がコーディングエラーで失敗するなど、重大な課題も指摘されています。

Sakana AI自身もこの限界を認識しており、AI Scientistを「ChatGPTに文献要約させる」レベルのアシスタントではなく、「AIがAIを改良するループ」を実現するための実験場として位置づけています。AI Scientistが自動で見つけた改良案を、M2N2による次世代モデル開発に還流させる──この自己改良ループこそが、彼らの目指す未来です。

この章ではAIが研究者になる未来を見ました。次の章では、これらの急進的な技術を生み出す創業者たちが、自ら開発した「Transformer」技術についてどう考えているのか、そのビジョンに迫ります。


第6章:創業者ビジョン:「Transformerにはうんざりだ」の真意

Sakana AIのCTOでありTransformer共同開発者のLlion Jones氏は、「Transformerにはうんざりだ」と発言しました。これは、業界が既存技術の「活用」に偏り、次世代技術の「探索」を怠っている現状への警鐘であり、Sakana AIの存在意義を示しています。

Sakana AIの急進的な技術路線は、創業者たちの確固たるビジョンに裏打ちされています。特にCTOのLlion Jones氏が放った言葉は、AI業界全体に衝撃を与えました。

6.1 Transformer共同開発者による「脱却宣言」

2017年、AIの歴史を塗り替えた論文『Attention Is All You Need』を発表し、Transformerアーキテクチャを生み出した「Google Brainの8人」──。その一人であるLlion Jones氏は、TED AIカンファレンスにて、自らが生み出した技術についてこう語りました。

「Transformerにはもううんざりだ(absolutely sick)」

ChatGPTからGemini、Claudeに至るまで、現行のほぼ全ての主要AIモデルの基盤技術であるTransformer。その開発者自身による、極めて異例の「脱却宣言」でした。これは単なる挑発ではなく、AI業界全体への警鐘です。

6.2 「活用(Exploitation)」から「探索(Exploration)」への回帰

既存のAIモデルを最適化し続ける世界(Exploitation)から、まだ存在しない新しいアーキテクチャを探しに行く世界(Exploration)へ踏み出すイメージ
解説:「Transformerの改良競争(Exploitation)」に閉じこもるのではなく、まったく新しい思考様式(自己適応型LLMやCTM)を「探索(Exploration)」する――それがSakana AIの掲げるビジョンだ。

Jones氏の真意は、Transformerの圧倒的な成功が、逆説的にAI研究の多様性を阻害しているという警告です。

「これまでこれほど多くの関心、リソース、資金、才能が集まったことはないのに、なぜか私たちが行っている研究の幅が狭まっている」

投資家からのリターン要求や”大規模モデルの改良競争”で、業界はどうしても既存技術の「活用(Exploitation)」側に寄ってしまいます。Jones氏はそこに危機感を示し、「私たちはもっと新しいアーキテクチャを探しに行く=『探索(Exploration)』に戻るべきだ」と語ります。Sakana AIがM2N2のような”再学習を前提にしない”アプローチを押し進める背景には、この問題意識があります。

6.3 ポストTransformerの模索 (1) — 現実的な反逆

Sakana AIの戦略は、Transformerを単純に否定し、廃棄することではありません。むしろ、その根源的な限界を内部から克服し、強化するという「現実的な反逆」ともいえるアプローチをとっています。

Transformer² (自己適応型LLM)

Transformer²は、従来のLLMは一度訓練されると静的(static)な存在だという課題に挑む技術です。モデルが数学やコーディングといった目の前のタスクの性質をリアルタイムで自己分析し、それに合わせて自らの内部の重みを動的に調整するフレームワークです。

NAMMs (Neural Attention Memory Models)

Transformerが過去の入力を区別なく全て処理しようとする非効率な記憶(メモリ)の仕組みにメスを入れます。人間の記憶が重要度に応じて情報を取捨選択するように、どの情報を「記憶」し、どの情報を「忘却」するかを学習する記憶システムを導入し、性能と効率を飛躍的に向上させます。

これらは、Transformerという既存の巨大なプラットフォームをテコとして利用しつつ、その内部に「自己適応性」や「効率的な記憶」といった、次世代のパラダイムを注入する、極めて洗練された戦略です。

6.4 ポストTransformerの模索 (2) — 新たな地平

さらにSakana AIは、Transformerとは根本的に異なるアーキテクチャの模索も進めています。その具体例が「Continuous Thought Machine (CTM)」です。

CTMは、生物学的な神経ネットワークにヒントを得て、ニューロンレベルのタイミングと同期を推論の中心メカニズムとして使用します。時間を「一級市民」として扱い、段階的に「思考」することで、人間の脳に近い推論プロセスを目指す、まさに「ポストTransformer」の筆頭候補となる研究です。

この章では、Sakana AIの挑戦的な研究ビジョンを見ました。最後の章では、なぜ彼らがその拠点を「東京」に選んだのか、その地政学的な重要性と日本の国家戦略との関係を解き明かします。


第7章:地政学の要石:東京発「ソブリンAI」戦略とSakana AIの役割

Sakana AIが「東京」を拠点に選んだのは、米中二極集中への懸念と、日本が「第三極」になり得るとの戦略的判断からです。同社の低コスト技術は日本の「ソブリンAI」戦略と完全に一致し、政府・防衛・メガバンク・グローバル企業との強固な連携網を2026年にかけてさらに拡大しています。

東京の官庁街とデータセンターインフラを俯瞰する構図。日本の国家インフラとAI計算資源が重ね合わされているイメージ。
解説:「ソブリンAI」とは、海外プラットフォームへの全面依存ではなく、日本語・日本の制度・日本の産業構造に最適化された独自モデルを国内で持つという発想だ。Sakana AIはその具体的ドライバーとして位置づけられつつある。

Sakana AIのビジョンは、技術的な革新だけに留まりません。同社が「東京」を拠点に選んだことには、極めて重大な戦略的・地政学的な意味が込められています。

7.1 なぜ「東京」なのか? AI覇権の第三極として

CEOのDavid Ha氏は、AIの研究開発拠点が米国(サンフランシスコ周辺)と中国(北京)の二極に過度に集中していることに懸念を示しています。「少数の企業や政府によって支配されるのは世界にとって健全ではない」と彼は述べ、「米国と中国の間に位置する日本が、地政学的にも経済的にも技術開発の分野でより重要になる」と強調します。

Sakana AIは「東京を次のAIハブにする」と公言しており、これはサンフランシスコにおけるOpenAI、ロンドンにおけるDeepMindの位置づけを、東京で再現するという野心に他なりません。

7.2 「ソブリンAI」の切り札としてのSakana AI

このビジョンは、日本政府が推進する「ソブリンAI(Sovereign AI)」戦略と完全に一致します。ソブリンAIとは、一国が自国の言語、文化、そして国益に合わせて調整された独自の基盤モデルを開発・制御する能力を指します。

NVIDIAは各国の「ソブリンAI(自国最適の基盤モデルを自前で持つ)」を重視しており、日本においてもその文脈でSakana AIと戦略的提携を深めています。提携内容には、最新GPUへの早期アクセスや国内データセンター利用、共同研究などが含まれます。

特に、エネルギー資源のほぼ全てを輸入に依存する日本にとって、電力消費の少ない効率的なAI開発は国家戦略そのものです。膨大な計算資源と電力を消費するスケーリング則とは対照的に、Sakana AIの「進化的モデルマージ(M2N2)」は、計算資源を湯水のように使わずに高性能モデルを得る道筋を示します。これは、ハードウェアを米ビッグテックへ全面依存することなく、エネルギー安全保障上のリスクを回避しうる、日本にとって理想的な技術路線です。

7.3 国家・産業レベルでの戦略的連携網

Sakana AIは、日本の国家および産業構造の深部に、多層的な戦略的パートナーシップの網の目を構築しています。

政府・防衛分野との連携(2026年最新)

経済産業省所管のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「GENIAC」助成プログラムに採択され、国産スーパーコンピュータへのアクセス権を獲得。さらに2026年3月13日、防衛装備庁 防衛イノベーション科学技術研究所と複数年の委託研究契約を正式に締結した。陸・海・空の全領域で発生するドローンデータをAIで統合分析し、指揮統制システム(C2システム)高度化を目指す基盤技術を開発する。また、日米防衛イノベーションプログラムにおいて生物兵器防御や偽情報対策分野でも高い評価を獲得している。同社は防衛・インテリジェンスを「金融」と並ぶ注力領域に位置づけ、専門チームを社内編成している。

グローバル技術同盟(NVIDIA・Google)

NVIDIAとは、単なる投資家の枠を超えた極めて深い戦略的提携を結んでいます。最新GPUシステムへの早期アクセス権、日本国内のNVIDIAデータセンターの利用、共同研究開発という三本柱で協業しています。さらに2026年1月にはGoogleとの戦略的パートナーシップを締結。Gemini・Gemmaを研究・プロダクト開発に活用し、基幹産業への信頼性の高いAI導入支援を両社で推進しています。

国内産業実装(金融・製造・通信)

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とは2025年5月、複数年スパン(約3年超)で銀行実務のAI変革に取り組む包括的な協業を開始。共同創業者兼COOの伊藤錬氏がMUFG側のAIアドバイザーにも就任し、与信関連ドキュメントの自動生成など、具体的な業務プロセス改善に踏み込んでいます。2025年10月には大和証券グループと”インベスター・プロファイリング”AIプラットフォームを共同開発する枠組みも発表。2026年2月にはシティグループから戦略的投資を受け、3月には三菱電機が出資を正式発表しています。通信分野ではNTTと「AIコンステレーション」構想の下、複数の小型モデルを連携させる高効率なAIシステムの共同研究を進めています。

この章では、Sakana AIが日本の国家戦略と深く結びついている理由を解説しました。最後に、これら全ての要素をまとめ、Sakana AIの総合的な評価と未来展望を結論づけます。


結論:研究の最前線と国家戦略の二重フロンティア

Sakana AIは、「資金力」「最先端の研究」「商用化」の3本柱を同時に進める稀有なスタートアップです。その技術アジェンダは「巨大資源に依存しないAIを東京から創出する」ことであり、日本の「ソブリンAI」戦略と完璧に噛み合っています。

暗い青い海を泳ぐ多数の青い魚(既存のAI分野)の中で、1匹だけ保護リングに囲まれた赤い魚が「SOVEREIGN AI」と示され、周囲にNVIDIA・MEGABANKS・DEFENSE・GOVといったラベルが配置されているイメージ。
解説:「巨大な計算資源に依存しない次世代AIを東京から世界へ」。Sakana AIは研究ラボであると同時に、日本のソブリンAIを担う戦略的国家資産でもある。

Sakana AIは、2026年3月現在、「資金力」「最先端の研究」「商用化」という3本柱が同時進行している、日本発のスタートアップとして極めて稀有な存在です。

評価額約26.5億ドル規模のSeries B資金調達完了、先行研究がNature Machine Intelligenceに掲載され発展した「M2N2(進化的モデルマージ)」、ICLRワークショップの査読を通過した「AI Scientist」、2026年3月公開の日本特化モデル「Namazu」と無料チャット「Sakana Chat」、そして防衛装備庁との委託研究契約──。

これらは単発の話題ではなく、「巨大な計算資源に依存しない、次世代のAIを東京から創出する」という、一貫した技術的アジェンダに基づいています。

そしてそのアジェンダは、AI時代における技術的主権の確保を目指す、日本の「ソブリンAI」戦略という地政学的な要請と完璧に噛み合っています。

Sakana AIが泳ぐ軌跡は、単なる一企業の成功物語ではありません。それは、「デジタル後進国」という過去の評価を覆し、日本が再び技術革新の最前線に立つための、壮大な国家戦略の試金石となるに違いありません。AIの潮流に逆らって泳ぎ始めた「赤い魚」が、世界のAI勢力図をどう塗り替えていくのか。その挑戦から、私たちは一瞬たりとも目が離せません。

まとめ

本記事では、2026年3月30日時点で確認できる一次情報と公式発表に基づき、東京を拠点とするAIスタートアップ「Sakana AI」の全貌を解説しました。同社は、Transformer開発者Llion Jones氏やDavid Ha氏ら世界的な権威により設立され、2025年11月のSeries Bで評価額約26.5億ドル規模に達したと報じられており、メガユニコーンへと到達しています。

その中核技術は、先行研究『Evolutionary Optimization of Model Merging Recipes』がNature Machine Intelligenceに掲載され、その流れを受けつつ後続研究の知見も統合して発展した「M2N2(進化的モデルマージ)」です。これは、膨大な計算資源を消費する「スケーリング則」とは対極にある「勾配フリー」の手法であり、低コストで高性能なAI開発を可能にします。2026年3月には、既存の高性能オープンモデルを活用し日本仕様へ適応させるこの路線を体現した日本特化モデル「Namazu」と無料チャット「Sakana Chat」を公開し、消費者向け市場への初参入を果たしました。

また、防衛装備庁との複数年委託研究契約、Googleとの戦略提携、シティグループ・三菱電機の出資など、2026年に入り「社会実装フェーズ」への移行が一気に加速しています。同社の「M2N2」技術は日本の「ソブリンAI」戦略と完全に一致しており、日本の技術的復権を担う「戦略的国家資産」とも評される存在として、その動向が国内外から注目されています。

専門用語まとめ

M2N2 (Model Merging of Natural Niches)
Sakana AIが開発した中核技術。自然界の進化の原理を応用し、複数の既存AIモデルを再学習(勾配計算)なしで効率的に融合(マージ)する手法。膨大な計算資源を消費せずに高性能なモデルを生み出せる「勾配フリー」な点が特徴。先行研究『Evolutionary Optimization of Model Merging Recipes』がNature Machine Intelligenceに掲載されており、M2N2はその流れを受けつつ後続研究の知見も統合して発展した手法である。
ソブリンAI (Sovereign AI)
一国が自国の言語、文化、国益、安全保障に基づき、独自のAI基盤モデルを開発・制御する能力を指す国家戦略。他国の巨大テック企業が提供するAIへの過度な依存を避け、技術的主権を確保することを目的とする。Sakana AIは日本のソブリンAI戦略の切り札として期待されている。
Transformer (トランスフォーマー)
現在の大規模言語モデル(LLM)のほぼ全て(ChatGPT、Gemini等)の基礎となっているニューラルネットワーク・アーキテクチャ。2017年の論文『Attention Is All You Need』で発表された。Sakana AIのCTO、Llion Jones氏はこの論文の共著者の一人である。
Namazu(ナマズ)
Sakana AIが2026年3月24日に公開した日本特化型言語モデルシリーズ(α版)。DeepSeek・Llama・GPT-OSSなどオープンウェイトの高性能モデルをベースに、独自の事後学習技術で日本語処理・中立性・事実正確性を向上させた。海外モデル特有のバイアス問題を解消し、無料チャットサービス「Sakana Chat」に搭載されている。
AB-MCTS (Adaptive Branching Monte Carlo Tree Search)
Sakana AIが開発した推論時スケーリングアルゴリズム。複数の最先端AIモデルを協調させ、モンテカルロ木探索(MCTS)で候補を広げながら解を絞り込む手法。単一の巨大モデルではなく「モデルチームの協調」で性能を引き出すSakana AIの思想を体現する技術。ARC-AGI-2ベンチマークで有望な結果を出している。

よくある質問(FAQ)

Q1. Sakana AIの評判は?

A1. AI業界では「巨大GPUで殴るスケーリング路線とは異なる”進化的なモデル融合”の道を本気で追う企業」として注目されています。先行研究がNature Machine Intelligenceに掲載された進化的モデルマージ技術や、政府・メガバンク・NVIDIAなどとの連携実績が信頼性の裏付けとして語られることが多いと報じられています。一方で、研究チームの急拡大に伴い、世界トップクラスの人材をどこまで継続的に確保できるかが課題だという見方もあります。

Q2. 「Transformerにはうんざりだ」という発言の真意は何ですか?

A2. CTOのLlion Jones氏(Transformer共同開発者)の発言です。Transformer自体を否定するものではなく、業界全体がTransformerの改良(活用)にリソースを集中させすぎ、次世代の新しいアーキテクチャの「探索」が停滞していることへの警鐘です。Sakana AIは、その「ポストTransformer」の探索も使命としています。

Q3. AI Scientistとは何ですか?

A3. Sakana AIが進める研究プロセス自体を自動化する「自律研究エージェント」です。仮説立案、実験、論文執筆までをAIが実行します。2025年3月には、AIが生成した論文がトップ国際会議ICLRのワークショップ査読(人間と同じ二重盲検)を通過し、同社は「我々の知る限り初めてのケース」と説明しています。

Q4. Sakana AIの「Sakana Chat」とはどんなサービスですか?

A4. Sakana AIが2026年3月24日に公開した無料AIチャットサービスです。日本特化型モデル「Namazu」を搭載し、アカウント登録不要で利用可能(日本国内限定)。Web検索機能を内蔵しており、リアルタイムの最新情報を取得して回答に反映できます。海外モデル特有のバイアスや回答拒否をほぼゼロに改善しており、日本語・日本文化に即した中立的な応答を実現しています。技術詳細はスポーク記事「Namazu完全解説」を参照してください。

Q5. Sakana AIは防衛・軍事分野に参入しているのですか?

A5. はい。2026年3月13日、Sakana AIは防衛装備庁 防衛イノベーション科学技術研究所と複数年の委託研究契約を締結しました。陸・海・空の全領域のドローンデータをAIで統合分析し、指揮統制システム(C2システム)を高度化する基盤技術を開発します。同社は「防衛・インテリジェンス」を「金融」と並ぶ注力領域と位置づけており、専門チームを社内に編成しています。

主な参考サイト

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更新履歴

※初版以降は、「最新情報にアップデート、読者支援機能の強化」の更新を日付つきで繰り返し追記します。

  • 初版公開
  • 最新情報にアップデート、読者支援機能の強化(改善点1〜5適用)
  • 第2.5章新設(Namazu・Sakana Chat・防衛装備庁委託研究・Google戦略提携・三菱電機出資)/評価額を26.5億ドルに更新/FAQ5問体制に拡張(Q4・Q5追加)/Key Numbersセクション新設/Glossary2語追加(Namazu・AB-MCTS)/SEOタイトル・メタディスクリプション刷新/合わせて読みたいにNamazu・DeepSeek記事追加/テンプレートv10.2.1完全適合

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ケニー 狩野
ケニー狩野(Kenny Kano)。AI社会実装・技術経営・ITコンサルティングを専門とする経営者・監修者。株式会社ベーネテック代表、株式会社アープ取締役、一般社団法人Society 5.0振興協会 AI社会実装推進委員長。中小企業診断士・PMP・ITコーディネータ。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、キヤノン株式会社にてエンジニア・プロジェクトマネージャとして国内外の開発を牽引。中国・インド・オーストラリアを含む海外オフショア案件も経験。独立後はAI社会実装・技術経営支援に転向。Arpableにて人工知能・先端技術分野の記事を約2年間で約300本監修。著書『リアル・イノベーション・マインド』(2018年)。詳細プロフィール:https://arpable.com/kenny-kano/