Sakana AIとは?進化的モデルマージの仕組み・資金調達・将来性を専門解説
日本発の有力AIスタートアップ Sakana AI は、世界のAI開発現場に新しい潮流をもたらしている企業です。
2025年には画期的な日本語LLM「EvoLLM-JP」のリリースや、企業価値を20億ドル規模に高める資金調達を成功させるなど、その勢いは加速しています。
本記事では、同社のビジョン、「進化的モデルマージ」という核心技術、そして2025年に達成された具体的な成果を幅広く取り上げ、今後の成長可能性を探ります。
執筆者からひと言
Sakana AI: 進化を模倣する次世代AI技術の革新
本章では、Sakana AIが生物の進化から着想を得て開発した核心技術の概要と、それがAI開発の常識をどう覆す可能性を秘めているのかを解説します。
日本発の有力AIスタートアップと創業者の顔
本章では、AI業界の著名人を含むSakana AIの創業者たちと、2025年に達成された20億ドル規模の企業価値について、最新の資金調達情報と共に解説します。
出典:Sakana AI 公式発表資料
David Ha(デイビッド・ハ)- CEO
東京大学で博士号取得後、Google Brain(東京)で研究をリード。
Stability AIでDiffusion Modelsの開発に貢献。AI研究の最前線で活躍し、革新的な技術開発の経験を持つ。Sakana AIでは、CEOとして会社全体のビジョンと戦略を指揮。
Llion Jones(ライオン・ジョーンズ)- CTO
AIの基盤技術であるTransformer(現在の大規模言語モデルの基礎となるニューラルネットワーク・アーキテクチャ)の共同開発者。
Googleで12年間勤務し、AI技術の革新に貢献。Sakana AIでは、CTOとして進化的モデルマージなどの新技術開発をリード。
伊藤錬(いとう・れん)- COO
外務省でキャリアをスタートし、メルカリ執行役員として国際事業を主導。Stability AIのCOOを務め、AI技術のグローバル展開に尽力。多様な経験を活かし、Sakana AIではCOOとして組織運営とグローバル戦略を担当。
日本での起業を選んだ理由は後述しますが、創業者たちの日本への愛着や文化的魅力が挙げられます。 また、日本の地政学的な立場や、採用市場の優位性も重要な要因でした。さらに、日本政府のAI政策支援や産学連携による技術革新の可能性も、Sakana AIの戦略的選択に影響を与えています。
NVIDIAの投資をきっかけに押し寄せる投資家たち
これらの投資は、Sakana AIの革新的な技術力と将来性に対する高い評価を示しており、特にNVIDIAからの投資は、同社の技術開発を大きく加速させる要因となっています。
❶ NVIDIA (エヌビディア)
NVIDIAは、Sakana AIのシリーズAラウンドに参加し、数十億円規模の投資を行いました。この投資により、Sakana AIはNVIDIAの最先端GPU技術へのアクセスを得て、より効率的な基盤モデル開発のための新技術の考案を進めることが可能になりました。
※)NVIDIA社の詳細に関しては以下の記事でまとめています。
1,AIプロセッサ最前線:NVIDIAはいつまで勝てるのか?
https://arpable.com/artificial-inteligence/the-cutting-edge-of-ai-processors/
2,NVIDIAのAI summit Japanから見える人工知能用チップの未来
https://arpable.com/artificial-inteligence/nvidia-ai-summit-japan/
❷ New Enterprise Associates (NEA)
NEAは、Sakana AIのシリーズAラウンドをリードした主要な投資家の一つです。
❸ Khosla Ventures
Khosla VenturesもSakana AIのシリーズAラウンドをリードした投資家の一つであり、OpenAIへの最初の投資家としても知られています。
❹ Lux Capital
Lux CapitalはSakana AIのシードラウンドとシリーズAラウンドの両方でリード投資家を務めました。
➎ 三菱UFJフィナンシャル・グループ (MUFG)
MUFGは、Sakana AIの日本の企業投資家の中で最大の出資者となりました。この投資は、Sakana AIの技術力と将来性に対する日本の金融業界からの高い評価を示しています。
NVIDIAがSakana AIに投資した主な狙いについて、筆者なりの見解を以下に示します。
1,日本のAI市場における戦略的ポジショニング
NVIDIAは、Sakana AIへの投資を通じて、日本のAI市場で独自の立ち位置を確保しようとしていると考えられます。日本の技術力と創造性を活かしたAI開発を支援することで、単なるハードウェア提供者を超えた、イノベーションパートナーとしての地位を確立しようとしているのではないでしょうか。これは、日本市場特有のニーズに応える柔軟性を示すと同時に、グローバルなAIエコシステムにおける日本の重要性を認識している表れとも言えます。
2,次世代AI技術への先行投資
Sakana AIの小規模データセットを活用した効率的なAIモデル開発技術は、AI分野における新たなブレイクスルーの可能性を秘めています。NVIDIAはこの投資を通じて、大規模モデル一辺倒ではない多様なAI開発アプローチを模索し、次世代のAI技術における主導権を確保しようとしているのではないでしょうか。これは、技術トレンドの変化に備える先見性のある戦略だと考えられます。
3,持続可能性を重視した企業イメージの構築
小規模モデルの開発支援は、環境負荷の低減につながる取り組みとして捉えることができます。NVIDIAは、この投資を通じて、技術革新と環境配慮を両立する企業としてのイメージを強化しようとしているのではないでしょうか。これは、今後ますます重要性を増す企業の社会的責任(CSR)の観点からも、賢明な戦略だと言えるでしょう。
このように、NVIDIAのSakana AIへの投資は、技術的、市場的、そして社会的な側面を巧みに組み合わせた多面的な戦略であると筆者は考えます。
Sakana AIは何故日本で起業したのか? (考察)
本章では、Sakana AIが戦略的な拠点として日本を選んだ理由を、地政学・政府の支援・技術者文化という3つの側面から考察します。
Sakana AIが日本を拠点に選んだ理由について、以下の3つの視点から考察してみます。
1. 日本の地政学的な立場
日本は、中国とロシアという二大大陸国家と地理的に接しつつ、海洋国家として戦略的に重要な位置にあります。この地政学的な優位性は、Sakana AIが東アジアと西側諸国の橋渡し役として国際的なAI開発を進める上で意義深いものです。
特に、日本は米国との強固な同盟関係を持ちながら、東南アジア諸国との信頼関係も築いています。例えば、日本はアセアン諸国との経済連携協定や人的交流を通じて、両地域の調和的な発展を支援しています。これにより、Sakana AIがアジア全域でAI技術を展開するための重要な基盤を提供可能だと判断したといわれてます。
2. 日本政府のAI政策支援
日本政府はAI分野における強力な政策支援を提供しており、Sakana AIにとって非常に魅力的な環境を作り出しています。具体的には、以下のような施策が挙げられます:
- AI戦略2021: 日本政府が策定したこの戦略は、AI人材の育成や研究開発の促進、倫理的課題への対応を目指しています。
- NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による支援プロジェクト: 次世代AI技術の開発支援や社会実装を加速させる取り組みを行っています。
これらの政策により、産学官連携が進み、AI技術を迅速に市場に投入できる環境が整っています。Sakana AIは、これらの施策を活用することで、研究開発や事業展開をさらに強化できます。
3. 日本の技術者育成文化
日本には、技術者を尊重する文化が根付いており、特に若年層から高度な技術教育を提供する取り組みが注目されています。日本は初等・中等教育段階からのプログラミング教育や地域のSTEM活動が活発で、若手技術者の裾野形成が進んでいます。
さらに、日本は「ものづくり文化」を基盤とし、技術者や開発者が高い評価を受ける環境を提供しています。この文化は、AI技術を扱う企業にとって優れた技術者を確保する上で大きな利点となります。
以上の3つの要素—地政学的な優位性、政府の支援策、技術者育成文化—が相まって、Sakana AIが日本を拠点に選んだ理由を説明できます。
これらの要素は、Sakana AIの革新的なAI技術開発を支える基盤となっており、同社が国際的なAI分野で成功するための土台を提供しています。
sakana.ai技術の解体新書
本章では、Sakana AIの核心技術「進化的モデルマージ」の仕組みを解説し、その技術力を証明した最新モデル「EvoLLM-JP」の成果と意義を深掘りします。
Sakana AIが開発した「進化的モデルマージ技術」は、AI開発の新たな地平を切り開く革新的な手法として注目を集めています。この技術は、複数の既存AIモデルを組み合わせて新しい高性能モデルを自動生成するもので、生物の進化過程を模倣しています。
進化的モデルマージ技術の特徴

この技術の核心は、既存モデルの有効活用にあります。より専門的には、進化的最適化(Evolutionary Optimization)を用いて、複数の事前学習済みモデルの重みをどのように組み合わせるか(合成レシピ)を自動で探索・最適化する手法です。具体的には、TIES-MergingやDAREといった最新の重み演算手法と進化的探索を組み合わせることで、人間では思いつかないような最適な合成戦略を自律的に発見します。
👨🏫 かみ砕きポイント
難しい言葉が並びましたが、要は「色々なAIの良いところ取りをして、合体させて最強のAIを自動で作る」技術です。料理で言えば、最高の牛肉と最高の野菜を別々に用意し、AIシェフが自動で最高のレシピを考えてくれるようなものとイメージしてください。
これにより、AI開発の効率化と民主化が大きく促進されると期待されています。
さらに、この技術は複雑で高度なタスクに対応できるモデルの生成を可能にします。
異なる特性を持つ複数のモデルを組み合わせることで、個々のモデルが持つ長所を統合し、より汎用性の高い新たなモデルを作り出すことができます。
成果の証明:「EvoLLM-JP」の登場
2025年3月、Sakana AIはこの核心技術を実証する画期的なモデル「EvoLLM-JP」を発表しました。これは、Llama-2等の既存オープンソースLLMを”交配”させ、日本の性能評価ベンチマークでトップクラスの性能を達成したものです。これにより、ゼロから学習させることなく、低コストで高性能な地域特化モデルを創造できることを世界に証明しました。
従来の大規模モデルとの比較
従来の大規模AIモデルは、人間の知識や経験に基づいてモデルの設計やパラメータ調整が行われていました。この手法では、人間の能力に依存するため、モデルの性能向上に限界がありました。
一方、Sakana AIの進化的モデルマージ技術は、進化アルゴリズムを用いることで、モデル自体が自律的に学習し進化していきます。
これにより、人間の知識や経験に縛られることなく、より高性能なモデルを生成することが可能になります。
技術の応用と将来性
この技術は、様々な分野でのAI応用を加速させる可能性を秘めています。
例えば、医療診断、金融予測、自然言語処理など、特定の専門分野に特化したモデルを効率的に生成することができます。また、新たな問題に直面した際も、既存モデルを組み合わせることで迅速に対応できるため、AI技術の適用範囲が大きく拡大すると考えられています。
さらに、この技術はAI開発の民主化にも貢献します。
高度な専門知識がなくても、既存のモデルを組み合わせることで新たなAIモデルを開発できるようになるため、より多くの人々がAI開発に参加できるようになります。
今後の展望
Sakana AIの進化的モデルマージ技術は、AI開発のパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。この技術の進化により、より効率的で高性能なAIモデルの開発が可能になり、AI技術の社会実装がさらに加速すると期待されています。
今後は、この技術を基盤として、より複雑な問題解決や新たな価値創造に向けたAI開発が進展していくことでしょう。
Sakana AIの利点
本章では、Sakana AIの技術がもたらす「開発コスト削減」「リソース制約の克服」「持続可能性」といった具体的なメリットを解説します。
これにより、人間の研究者との協働を通じて、新たな科学的発見や技術革新が加速することが期待されます。
Sakana AIの応用分野
本章では、Sakana AIの技術が医療や環境科学といった社会貢献分野から、KDDIとの提携によるビジネス領域まで、幅広く応用される可能性を解説します。
高齢化が進む日本社会において、これは特に重要な応用分野となるでしょう。
教育分野でも、個別最適化された学習支援システムの開発など、AIを活用した革新的な教育手法の実現が期待されています。
未来展望
本章では、Sakana AIがもたらす「AIの民主化」や「持続可能なAI」の実現といった明るい未来と、今後のグローバルな展開について展望します。
小規模で効率的なモデル開発技術により、より多くの企業や研究機関がAI技術を活用できるようになるでしょう。また、NVIDIAなどの大手企業からの投資は、Sakana AIの研究開発をさらに加速させると予想されます。
最後に、Sakana AIの技術は、人間とAIの協働の新たな形を示す可能性があります。特に科学研究の分野では、AIが人間の創造性を補完し、革新的な発見を加速させる役割を果たすことが期待されます。これにより、人類の知識の frontier がさらに拡大していくことでしょう。
Key Takeaways(持ち帰りポイント)
- Sakana AIは、AIの歴史を変えた論文「Transformer」の共同開発者らが創業した、日本発の有力AI企業です。
- 核心技術「進化的モデルマージ」は、既存のAIを組み合わせて、低コストで高性能な新モデルを自動で創り出します。
- 2025年に発表した日本語LLM「EvoLLM-JP」の成功で、その技術力とアプローチの正しさを世界に証明しました。
- 企業価値は20億ドルを突破し、KDDIなど大手企業との連携も開始。ビジネスとしても急成長しています。
- 同社の技術は、AI開発の民主化と、環境負荷の低い「持続可能なAI」を実現する可能性を秘めています。
まとめ
Sakana AIは、その核心技術「進化的モデルマージ」を武器に、高性能な日本語LLMを低コストで開発可能だと証明しました。20億ドル企業へと成長し、大手企業との連携も開始。AI開発の民主化と持続可能性を両立させ、世界のAI競争に大きな影響を与えています。
Sakana AIは、生物進化の原理を応用し、次世代AI開発の方向性を変え得る技術群を育てています。
日本の研究環境や政策支援を背景に、海外展開を視野に入れた事業戦略を推進中です。
大手企業からの資金調達は、技術的信頼性と市場での競争力を裏付けています。
医療・環境・公共サービスなど、社会課題の解決に直結する応用が進められており、特に科学分野での自律型研究支援は注目度が高まっています。
同社の歩みは、AI技術の社会実装を加速させるだけでなく、国際的な技術競争の潮流にも影響を与える可能性があります。
専門用語まとめ
- 進化的モデルマージ
- 複数の既存AIモデルの優れた部分を、生物の進化のように自動で組み合わせて、新しい高性能モデルを効率的に生成する技術。
- Transformer
- 現在のAI、特にChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)の基礎となっている画期的なニューラルネットワーク・アーキテクチャ。
- LLM (大規模言語モデル)
- 膨大なテキストデータを学習し、人間のように自然な文章を生成したり、質問に答えたりできるAIモデルのこと。
- ベンチマーク
- AIモデルの性能を客観的に測定するための標準的なテストや評価基準のこと。様々なタスクでAIの能力を点数化する。
よくある質問(FAQ)
Q1. Sakana AIの技術は、他のAIと何が違うのですか?
A1. 最大の違いは「作り方」にあります。多くのAIがゼロから膨大な時間とコストをかけて学習するのに対し、Sakana AIは既存の優秀なAIモデルの良いところだけを自動で組み合わせて、効率的に新しい高性能モデルを創り出す「進化的モデルマージ」技術を核心としています。
Q2. なぜSakana AIは世界的な著名人を擁しながら日本で起業したのですか?
A2. 創業者自身の日本への愛着に加え、世界レベルの研究機関や開発者コミュニティが集積していること、政府のAI戦略による支援、そしてアジアと欧米を結ぶ地政学的な優位性など、複数の戦略的な理由が重なったためと考察されています。
Q3. 「EvoLLM-JP」のようなモデルは、一般の人がもう使えますか?
A3. 2025年8月現在、EvoLLM-JPは研究成果として発表された段階であり、まだ一般向けに公開はされていません。しかし、今後はKDDIとの連携のように、パートナー企業を通じてその技術が様々なサービスに組み込まれていくことが期待されます。
Q4. Sakana AIは今後どのようにして収益を上げていくのですか?
A4. 主に、KDDIのような大手企業と提携し、特定の業界や課題に特化した高性能なカスタムAIモデルを開発・提供することで収益を上げていくと考えられます。また、核心技術である「進化的モデルマージ」プラットフォームのライセンス提供なども将来的な収益源となる可能性があります。
Q5. なぜSakana AIの技術は「持続可能(サステナブル)」だと言えるのですか?
A5. AIをゼロから学習させるには膨大な計算量と電力が必要ですが、Sakana AIの技術は既存のモデルを再利用するため、計算量を大幅に削減できます。これにより、AI開発に伴う環境負荷を低減できるため、「持続可能なAI」のアプローチとして注目されています。
合わせて読みたい
更新履歴
- 情報アップデート、テンプレートv5.0適用、読者支援コンテンツ強化
- 初版公開
主な参考サイト
- Sakana AI公式: シリーズA発表
- Bloomberg: Sakana AI Hits $1.5 Billion Value as Japan Inc. Piles In
- NEA Blog: Our Investment in Sakana AI
以上
